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【弓道】もたれについて考える
こんにちは。
noteを投稿し始めてそれなりに時間が過ぎ、ありがたいことに記事を読んでくれる方も増えてきました。いつもご愛読くださりありがとうございます。
今回はその読者の方から「もたれついて記事を書いてほしい」とリクエストをいただきましたので、自分なりにもたれについて考察したいと思います。
もたれについて
定義
もたれについて、とある論文では「会において意図したタイミングで矢を放てない状態」と定義しています。これは「自然な離れが起こらず、意識的に離れを起こさざるを得ない」状態と言い換えることができるでしょう。本来、会では五重十文字が形成され、天地左右に無限に伸び合う力を働かし続けると気力の充実とともに自ずと離れが起こる、と伝えられています。もたれでは何らかの理由でこの無限に伸長する力が不十分、または伸長せず停滞してしまったために(頻繁に異常な会の長さを伴って)無理やり離れを起こさなければならないのです。
もたれの実際
何を隠そう筆者は学生の頃もたれでした。中学3年生のころ無理な弓力の弓を引き続けた結果、未発達の肘関節にかかる非常に大きな負荷に耐えきれず、右肘を故障しました。幸いその怪我は1ヶ月ほどでほぼ完治したのですが、復帰直後からもたれを発症してしまいました。打起し〜引分けまでは違和感なくできます。が、会をどれだけ頑張って伸び合っても、まるで取り掛けた親指と中指が接着剤でくっついてしまったかのように全く離れません。そして段々と身体が弓に負けて縮みはじめたころ(秒数にして20秒くらいでした)、身体を正面に倒れ込むようにしてよろけると、その反動でようやく離れることができるのです。
せっかく丁寧に作り上げた会も身体がよろけてしまえば全て水の泡です。私の的中率は激減。怪我する前の調子の良さは見る影もありませんでした。
ちなみに当時、同じもたれで悩む同級生や知り合いは1人もいませんでした。早気の部員はたくさんいましたので、それに比べるともたれは学生にとってあまり馴染みのない射癖かもしれません。一説では弓道競技者53.8%が早気を認めている一方、もたれは4.6%がその射癖を認めているというデータがあるそうです。
原因
詳しい原因は不明ですが前述の通り、伸長のない(持っているだけ)会が1つの原因と言われています。その他、過去に弦で強く顔を払ってしまった、大事な試合で勝負が決まる1本を外してしまったなどの身体・精神的トラウマももたれの原因となり得るようです。
私の場合は肘を故障していたとき、離れの衝撃で右肘に激痛を感じながら練習していました。その痛みがトラウマとなって怪我が完治しても離れが出しにくくなってしまったことがもたれになった原因の1つかもしれません。
もたれの改善法
自分の場合
中学3年生のときに発症したもたれですが、実はあっさりと治ってしまいました。というのももたれに悩んでいるうちに中学校の弓道部を引退してしまったためです。高校で弓道を再開するまで約7ヶ月のブランクがありましたが、その間にもたれていたときの感覚を忘れてしまいました。そのブランクがあったおかげで高校ではもたれに悩まされることもなく現在に至ります。
ただし中学での弓道を引退してから高校で再開するまでその他に何も変化がなかったわけではありません。私が思いつくもれたが改善した要因と具体的な変化を2つ紹介します。
まず、弽が変わりました。中学生では控え無(親指の根元から手首にかけての革(腰)が柔らかいもの)を使っていましたが、高校生になる節目で控え有のものに買い替えていました。控え有の弽は取掛けをするとその硬い腰がバネの役割を果たして鋭い離れを生みます。控え無の弽は腰が柔らかい分、このバネの働きがないため離れが鈍くなりやすく且つ握るような取掛けになりやすいように感じます。馬手を握ってしまえば離れの際には力を抜かなければいけません。力を抜けば緩み離れになってしまう他、再現性に乏しく的中率が下がってしまいます。高校進学を機に買い替えた弽が馬手の余分な力を取り除き、もたれを解消してくれたという一因もあるかもしれません。
次に身体が変わりました。中学生の頃、治療の影響で弓道に必要な筋肉が少なくなってしまいました(練習量の減少、弓力の弱化)。これにより会にて伸び合うことが難しくなりもたれになってしまったように思います。また高校生の頃には弓道再開に向けての筋力トレーニングやゴム弓などの基礎トレーニングを行い、身体をしっかり作ってから弓道を再開しました。また弱い弓から使い始め、徐々に弓力を上げていったことももたれにならずに済んだ要因ではないかと思います。
改善法を述べるにあたって
これは何らかの研究に基づいた改善の方法ではありません。私の考えによるもたれの克服(私見)ですのでご注意ください。
まずもたれは弓道におけるイップスの一種だと思っています。イップスは「今までできていたことが何らかのきっかけによって思い通りにできなくなってしまう症状」と定義されています。イップスの一種であるもたれを治すには単なる気合や根性のような精神論や圧倒的な練習量では改善できません。一時は改善できたとしてももたれとなった原因がわからなければ、またもたれになってしまう可能性があるからです。もたれを改善したらその後もたれが再発しないor再発してもすぐに自分で克服できる。そんな状態を目指したいと思います。
改善法①:もたれのレベルを知る
もたれのレベルとは言い換えると「重症度」のことです(言葉が悪くてすみません)。もたれといっても「なんだか離れにくいな」と感じる程度のものから、会が長く明らかにもたれと客観的に見てもわかるものまで様々です。自分のもたれのレベルをなんとなくでいいので把握すると今後の対策が立てやすいと思います。
また普段の練習のような比較的リラックスした環境では問題ないが、試合のような緊迫した空気の中でもたれが現れるような場合もあります。その日の一番最初の1本だけもたれる、皆中がかかった1本だけもたれる、人に見られているともたれるなど。どんな状況でもたれが発生するのか細かくチェックしましょう。
改善法②:もたれる状況の一歩手前で自信が持てるまで練習する
①でもたれが発生する状況を確認したら、もたれが発生しないギリギリの状況で練習します。立練習でもたれるなら射込みで、的前に立つともたれるなら巻藁で、といった具合にです。もたれが発生しない状況で「もたれずに引けるかも」と自信がつくまで練習します。
改善法③:またもたれても気にしすぎない
②で自信がついたら少しステップアップした状況で練習してみます。先ほどの例ならば射込みで自信をつけたら立練習、巻藁で自信をつけたら的前へステップアップさせます。緊張度を少し高めた状況で練習してみるのです。それで上手く改善できていればよいのですが、またもたれてしまうことも多々あるでしょう。しかしそれで構いません。もたれたらまた②の練習に戻って自信がついたら③の練習へ進む。またもたれたら②へ、できたら③へ・・・をひたすら繰り返します。そうすると不思議なことに少しずつできるようになっていきます。
改善法④:③がクリアできたら次のステップへ
③で緊張度がやや高い状況にてもたれが起こらず引くことができたら、次はさらに緊張度が高い状況でもたれず引けるように同じことを繰り返します。
立練習→実際の試合、的前→立練習など。もたれのようなイップスは弓を引く状況の緊張度が高いほど発生しやすい傾向があります。自分のもたれのレベルを正しく知り、緊張度が低い状況で自信をつけ、緊張度が高い状況に挑戦し、クリアしたらさらに緊張度を上げた状況を目標に掲げて練習する。このサイクルでもたれを改善させます。
注意点:もたれのような「イップス」はいきなり治ることはない
イップスの改善には長い時間がかかります。しかももたれのレベルが高ければ高いほど、その改善にも時間がかかります。人によっては数年以上の時間を要する場合もあるでしょう。練習の間、「自分はどうしてこんなにできないのだろう」と自責の念に駆られることもあるかもしれませんが安心してください、それが普通です。イップスは不随意運動に等しい、いわゆる無意識に起こる運動です。癖を矯正することにも似ているかもしれません。これを自らコントロールしようとするには長い時間がかかるのは当たり前です。
これらのことを知っているかどうかで練習やもたれの改善に対するモチベーションの維持がかなり楽になるはずです。そして①~④のように練習を重ねていけば少しずつですが必ずもたれは改善されるはずです。
終わりに
ここまで私見ですがもたれについてその原因と改善法について書かせていただきました。現在もたれの人はぜひ一度試してもらいたいですが、これらの改善法は早気などのイップスが絡む射癖にも利用できるように説明しました。イップスの改善法については以下の書籍を参考にしましたので、さらに詳しく知りたい方は書籍を読んでみてください。
名人は、射を見ればその人の人となりがわかるといいますが、そうすると射癖はその人の個性の一部といえるでしょう。個性を変えることは容易ではありませんが、環境や考え方を意識的に変化させれば徐々に変わっていくものです。もっといえば個性に良いも悪いもありません。早気であれもたれであれ恥ずべきことでは全くないと私は思います(もちろん危険がないことが前提ですが)。ただし、さらに的中を出すために、もっと上手に弓を引くために治したいと思う人も少なくないでしょう。私の記したことはまだまだ稚拙でもっと良い方法があるかもしれませんが、もたれを治したいと思っている方の助けに少しでもなれば大変うれしく思います。
今回は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。