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カールハインツ・シュトックハウゼン 「少年の歌」、「接触」           Karlheinz Stockhausen "Gesang Der Jünglinge - Kontakte" 

A1 Gesang Der Jünglinge Kontakte   A2 1. Teil   B 2. Teil
Composed By– Karlheinz Stockhausen
Produced At – Studio Für Elektronische Musik, Köln
Realisation des Elektronischen Studios des WDR Köln.

前回からの流れで、シュトックハウゼンの"Gesang Der Jünglinge - Kontakte"。邦題は「少年の歌」-「接触」。ケルン西ドイツ放送局電子音楽スタジオのプロデュース。

今はあまり聞かれない言葉となったが、A1「少年の歌」はいわゆるミュージック・コンクレート。楽音ではなく「具体音」を使いそれを電気的に変調させることで音楽として成立させる手法で、ポピュラー・ミュージックの範疇ではビートルズの「レヴォリューション No.9」(68)で有名になった言葉と思う。作品の成立は1955-56となっていて、ビートルズに先立つこと10年である。ただ、電子音からなる「純粋電子音楽」の要素も混ざっているため正確には電子音響音楽(Electroacoustic Music)と位置付けされるようだ。

LPにはこの音源がもともと5chであったものをステレオ化した旨が表示されている。

「接触」の方は 1959年の9月から1960年の5月にかけて、ケルンの電子音楽スタジオで制作されている。こちらはミュージック・コンクレートではなく、純粋電子音楽(Elektronische Musik)とされる。こちらも元は4chとのこと。

であるから両方ともレコードというよりは、当たり前だが、まずは劇場やスタジオで多チャンネルで再現(演奏)されることを主眼にした作品であり、レコードはその一面を伝えるに止まっていることになる。

両方とも良いのだが、個人的により気に入っているのは、かなり原始的な電気の音が強調されている「接触」=Kontakte の方で、音がぐるぐる回るなど、プリミティブな効果が新鮮だ。構成的に16のセクションと多くのサブセクションに分かれていて..などと分析しだすと色々あるのだろうが、この作品の構造を調べてうんぬんすることは今回は手に余る。

ただ前回も書いたが、この当時は機材にメモリーがない揮発性の高い時代で、セットアップを決めたら演奏して、テープに録り、せっとアップをばらし、という繰り返しが延々と必要であったと推察され、それを編集してシンクロするように4トラック作って、という作業には、いうまでもなく計画的な構築が必要とされる。であるから、その手順を後付けで推察する作業をしてみたい方々がいるだろうことは理解できなくもない。作り手の状況を追体験すれば、なんにしても理解は深まるわけで、パソコンで音が操れる時代になり分析も容易にはなっていると思う。

さて、こういう初物は「宇宙から降ってきたような」という感想になると成功なのだと思うが、当時最初に聴いた人々はこれをどう感じただろうか?特に「接触」=Kontakteの方は電気信号の変調のみにより音を作り出しているわけだから、新鮮であっただろうことは想像できる。その後SF映画などはこの手の電子音で溢れかえり、なんらか未来的であったり未知であったりというイメージをこの手の電子音が喚起する文脈が定着して行ったわけだから、初出時のイメージもそこからそうそうは外れないだろう。

ぼくも「接触」=Kontakte には勝手に「未知との遭遇的」な意味合いをみていたが、作曲者は「器楽的な音群と電子的な音群のあいだの“接触”だけでなく、自立し、強く特徴づけられたモーメント同士の“接触”も意味している。四チャンネル・スピーカーでの再生においては、空間的な動きのさまざまな形態のあいだに生じる“接触”も指している」と述べている。(wiki英語版より孫引き)*

であるからシュトックハウゼンが「音群」(sound groups)「モーメント」(moment)「空間的な動きのさまざまな形態」(various forms of spatial movement)という単位をこの電子音楽を構成する要素として設定していることがわかる。

さらに「『Kontakte』の準備作業において、私は初めて音色、ピッチ、強度、持続といったすべての属性を一元的に制御する方法を見いだした」*としている。この発言はいわゆるトータル・セリエリズムの実現を言っているわけで、シュトックハウゼンは自身の懸案の解を59年から60年の「接触」=Kontakteの制作プロセスの中で見つけたということと取れる。

これは、音の操作と編集ができる電子音楽+テープ音楽の性質のことを言っているのだと思う。現在では当たり前の環境だが、この時にシュトックハウゼンは初めて「すべての属性を一元的に制御する方法」を手に入れ得たと考えたわけだ。ただその後の彼の活動がこの「一元的に制御する方法」を重視し駆使していったのかというとそうではないように見え、反対にここがピークであったようにも見えるのである。






参考:
*Stockhausen 1964, p. 105.   

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