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わたしは月の王女さま 〜小さな小さなおまじないの言葉〜
わたしは月の王女さま。
どんなところなのか知りたくなって、こっそり地球に遊びにきた、月の王女さま。
地球に来た時にまず驚いたのは、自力で歩くことすらできなかったこと。
そして月からかぶってきた王冠が重くて重くて、毎日頭が痛くて仕方なかったこと。
でも、今はもう大丈夫。
上手に歩けるようになったし、身体に痛みも感じない。
地球に慣れるために、わたしは痛みに耐えて歩く練習をした。
まずは杖を使いながら。
そのあとは、自分の力で一歩ずつ。
最初は転んでしまった日もあった。
脚がすくんでしまった日もあった。
どうして地球に遊びに来てしまったのかしら……そんな後悔もちょっぴりあったのは、ここだけの秘密。
でもね、地球の人ってとっても優しいの。
そんなわたしを見守りつづけてくれたのだから。
たくさんの励ましの言葉、心のこもったお手紙をいただいて、いつのまにかこの星が大好きになっているわたしがいた。
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それでも時折寂しくなる夜もある。
そんな日にふと空を見上げると、夜空に月が浮かんでいた。
遠く離れた地球から眺める三日月は、なんて美しいのだろう。
月にいた時には気がつかなかった、わたしの新しいお気に入りのひと時。
この星での生活は、まだはじまったばかり。
わたしはここでの暮らしを、まるでお庭に花を植えるように、素敵なものへと変えていっている。
いつか王女の生活に戻った時に、胸を張って生きれるように。
今日もわたしは月の光を浴びて眠りにつく……
はじめに『わたしは月の王女さま』のアイディアが浮かんだのは、まさに闘病の渦中にいた時でした。
力が入らず歩くこともできず、常に王冠をかぶっているように頭が締め付けられ、身体中に痛みが広がっていました。
そんな毎日を少しでも楽に過ごせないものかと頭をめぐらせて思い浮かんだのが、『わたしは月の王女さま』という小さな空想でした。
冬が来て、春が来て、私は歩く練習をし、痛みを克服して普通の生活に慣れていきました。
時には悩み、落ち込み、投げ出したくなる日もありましたが、みなさんのおかげで再び大地を踏みしめることができました。
ありがとうございます。
これからまた新たな困難がやってくるかもしれませんが、「わたしは月の王女さま」、そう思えば乗り越えることができるでしょう。
私だけの小さな小さなおまじないの言葉。