私を構成する9枚
「#私を構成する9枚」
Twitterでよく見かけるタグですね。私もツイート最上部に表示させています。
この『構成する』をどう解釈するかは人それぞれだと思いますが、私は自分の音楽変遷に只ならぬ影響を与えた作品と捉えています。
そのため、これらの作品について語るということは自分の個人的な音楽史を語るということ。少々勇気が要りますが、ジャンルも時代もバラバラなこれらの作品から私が『構成』されるに至った経緯は自分の中で一度まとめておきたかったので、今回書いてみることにしました。
1. Led Zeppelin「Ⅳ」
バンドブームが盛り上がりをみせていた80年代末、多くの音楽好きな十代にとってカッコいい音楽はロック。当時16歳の自分も『GB』や『ARENA37℃』などの音楽雑誌を読んでレンタルCDショップに通う高校生でした。
そんなある日、FM番組でレッド・ツェッペリンの『天国への階段』を聴いたことで私の音楽人生は激変しました。
その壮大で劇的な音楽は今まで遭遇したことのないスケールで、ヴォーカルもギターも途轍もなくエモーショナルで、とにかく心を奪われてしまったのです。欧米にはこんなに凄い音楽が存在していたのかと、しかもそれが自分の生まれる前の音楽だと知ってそれはそれは大変な衝撃でした。
早速レンタルCDショップで「Ⅳ」を借りて、冒頭の『Black Dog』で早々に一撃をくらい、全曲聴き終わる頃にはツェッペリン信者になっていました(笑)
それからというもの当時開局したてのJ-WAVEで洋楽ヒット曲を追いながらロック名盤を借りまくるようになりました。クラスメイトにロック名盤を聴く人など居るはずもなく、孤独な音楽生活でした(苦笑)。レンタルCDショップの店員さんも、随分渋い趣味の女子高生だと思ったでしょうね。
ロック名盤として必ず上位に挙げられる「Ⅳ」ですが、あまりにも有名な『天国への階段』も含め8曲ともそれだけで延々と語れてしまう曲です。
強烈なイントロに叩きのめされる『Black Dog』
これぞツェッペリン流ロックと言わんばかりの『Rock and Roll』
マンドリンとアコギが叙情詩的世界観を生んだ『The Buttle of Evermore』
強烈なリフが陶酔感を呼ぶ『Misty Mountain Hop』
ボンゾの激しいドラミングが語り継がれる『Four Sticks』
アコースティックの名曲『Going to California』
トラディショナル・ブルースを劇的な音楽に昇華した『When the Levee Breaks』…
今年でリリースから丁度50年、色褪せるどころか益々存在感を高める名盤です。
2. Bill Evans Trio「Portrait In Jazz」
新旧洋楽を聴きまくっていた高校生の自分が密かに憧れていたのがジャズピアノ。両親がクラシック音楽好きだったため幼少時からクラシックピアノを習っていましたが、古典的なクラシック音楽は今一つ好きになれず、ドビュッシーやストラビンスキーなどの近代音楽を当時から好んでいました。
ジャズの知識は皆無でしたが、レンタルCDショップでロック名盤を借りまくる一方でこっそりジャズコーナーも覗いていました。ジャケットだけで選んだ2枚のCDのうち1枚がこの「Portrait In Jazz」であり、これまた未知との遭遇を果たすわけです。
想像の上をいくピアノの旋律の佇まいは手の届かない大人の音の世界に思えて、大学生になったらジャズピアノを弾こうと決意したのでした。
ビル・エヴァンスは幼少期からクラシック音楽の教育を受けて大学でも音楽を専攻していて、ドビュッシーやラヴェルなど印象派の音楽の影響を受けているといわれています。水面や光の揺らぎを音にした印象派の音楽のように、ビル・エヴァンスのピアノもまた美しい芸術作品として心を浄化させてくれます。
ビル・エヴァンスの作品はスコット・ラファロ、ポール・モチアンとのインタープレイが冴え渡るリバーサイド4部作が人気ですが、中でも「Portrait In Jazz」はスタンダード曲が並び、各曲の完成度も高く、聴きやすい作品だと思います。BGMにも良いですね。
ジャズを聴いてみたいけど何から聴けばよいか分からない、という人には、私はこのアルバムをお勧めしています。
3. Bobby Timmons「This Here Is Bobby Timmons」
大学のジャズサークルでピアノを弾き始めた私は上手く弾けるようになりたくて、ジャズ名盤を聴いてはコピーする日々を過ごすようになりました。
クラシックピアノからジャズピアノに転向してまず戸惑うのが『アドリブで弾く』ことと『ジャストで弾かない』こと。
アドリブは度胸さえあれば何とかなりますが、ジャズ特有のノリに馴染むのは結構難しくて、弾けているのになんかカッコ悪いというジレンマが続きます。
そこで手本にしたのがアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの代表作「Moanin’」のピアニスト、ボビー・ティモンズ。代表作「This Here Is Bobby Timmons」は数え切れない位聴き込みました。
1960年リリースのこのアルバムはファンキー・ジャズの代表的作品とされています。
『ファンキー』といっても、ジェームス・ブラウンのような熱気溢れるノリノリのファンク・サウンドっぽいジャズという意味ではなく(ファンクというジャンルが定着したのは60年代後半です)、wikiの『ブルースのフィーリングを強調し、ゴスペルの要素も加わった演奏形態』という説明が正にそれです。
時代によっては難解なモード・ジャズを優先しファンキー・ジャズが軽視されたりしたようですが、むしろ本来のジャズらしさの真髄を極めたのがファンキー・ジャズではないかと思ったりもします。実際、モードやフリーなど、難解になればなるほど一部の熱心なジャズファン以外は戸惑い離れていった側面もありますのでね。
ボビー・ティモンズの真骨頂であるノリノリの豪快な演奏が聴ける『This Here』に始まり、バラードあり、軽快な4ビートあり、実に多種多様な曲が並ぶこのアルバム、堅苦しいことは抜きにしてとにかくジャズを楽しもうよと教えてくれているような気がします。
4. Wayne Shorter「Native Dancer」
『ブラジルの声』と称されるブラジルの偉大なるミュージシャン、ミルトン・ナシメントの音楽に出逢ったのがこのアルバム。初めて聴いた時はミルトン色の強い曲に馴染めず、ヴォーカルレスの『Beauty and the Beast』や『Ana Maria』を好んで聴いていました。
それが繰り返し聴くうちにミルトン・ナシメントの声の不思議な魅力の虜になり、やがてミルトン・ナシメント名義のアルバムや他のブラジルのアーティスト作品にも手を伸ばすように。
このアルバムがリリースされたのは1975年。マイルス・デイヴィスを始め多くのジャズミュージシャンがより実験的な方向へと突き進む中、国境を越えたこのコラボレーションは天才達のインスピレーションによって唯一無二の音楽を作り出しました。
ミルトン・ナシメントのオリジナルアルバムもまた魅力溢れる素晴らしい作品ばかりですが、このアルバムはそれらの作品ともまた風合いが異なります。
そしてウェイン・ショーターとハービー・ハンコックはジャズ・フュージョンを基調としながらも、ブラジルの音楽が内包するサウダージを実に彼ららしく表現しています。
正に化学反応の末に生まれた新しい音楽。
斬新でありつつ、暖かく、優しく、何処か物哀しく、郷愁の念を抱かせる、実に美しい作品です。
5. Ronny Jordan「The Antidote」
『アシッド・ジャズ』というジャンル、最近はあまり耳にしなくなりましたが、90年代にUKを中心に流行していた、ジャズにヒップホップやファンク、R&Bなどの要素を取り入れている、ざっくりいうと『踊れるジャズ』の総称です。
私がこのジャンルを意識したきっかけがロニー・ジョーダンの『Bad Brother』という曲で、J-WAVE『TOKIO HOT 100』で初めて聴いて何だこれはと衝撃を受け、本屋に行ってFM雑誌を立ち読みしてアーティスト名を確認したのを覚えています。
ヒップホップを意識したサウンドこそ90年代風ですが、ロニー・ジョーダンのギタースタイル自体はウェス・モンゴメリーから受け継がれるジャズ・ギターの王道を歩んでいると思います。この「The Antidote」というアルバムにはマイルス・デイヴィスの超定番曲『So What』をアシッド・ジャズ仕立てにした演奏が収録されていて、これがまた滅茶滅茶カッコ良い。
アシッド・ジャズの立ち位置の問題もあるのでしょうが、ロニー・ジョーダンはもっと語られてもよいギタリストだと思います。
6. Incognito「100°and Rising」
大学を卒業して社会人になり、それなりに忙しくなった自分の唯一の娯楽は音楽を聴くこと。
ジャズ・ピアノを弾いていた頃は、自分自身や自分のバンドが演奏できるかどうかみたいな目線で聴いていたので、そこから解放されたことで更に幅広いジャンルの音楽を聴くようになっていきました。
この頃から現在に至るまで聴き続けている音楽の軸となっているのが、時代が変わってもメンバーが変わってもその音楽性はブレることのない安定感抜群のUKジャズ・ファンクバンド、インコグニート。
刺激的な音楽を求めて四方八方に手を伸ばしがちな自分が、色々聴きすぎて疲れるとここに戻ってくるという、いつでも安心して聴ける鉄板的存在です。
私のCD棚においてマイルス・デイヴィスの次に多い枚数を誇るインコグニートのアルバムの中で一番聴いているのはこの「100°and Rising」ですが、正直どれを聴いてもハズレは無いかなと。
1981年にリリースされた1stアルバムは流石に80年代のテイストを感じさせますが、1992年の2ndアルバムの時点で、インコグニート・サウンドは完成されています。
これをマンネリと呼ぶ人もいるかもしれませんが、ここまでカッコいいマンネリならokでしょう。
7. 4hero「Two Pages」
1999年にロンドンを旅した折に大手CDショップを数軒ハシゴしたのですが、一番印象的だったのがクラブミュージックの充実度で、日本ではアイドルグループや売れ筋のJ-POPが置いてあるような場所にクラブミュージックが位置し、何列にも並んだCD棚は聴いたこともないジャンル名で細かく分類されていて、その規模は圧巻でした。
これからはクラブミュージックの時代だ、と思い込んだ自分はCDを買い込み、帰国後にクラブミュージックのリサーチを始めました。
とはいえ地方在住の自分がクラブ通いをするのは現実的ではなくて、もっぱらCDショップの店頭か雑誌で情報収集(当時はまだインターネットを始めていなかったので)しながら自力でCDを集めていました。
4hero「Two Pages」もその中の1枚で、今でも聴き続けている作品の一つです。
ビートの基調はドラムンベースですが、ストリングスやホーンなどアコースティックな音を多用した厚みのあるサウンドとメロディアスでオーガニックなヴォーカルはむしろジャズやネオソウルに近いテイストを持っていて、ドラムンベースの作品としては非常に個性的です。
折しも時代は21世紀を目前にしており、新しい時代が来るという期待と不安が入り混じった空気の中、4heroには次世代の音楽という風格を強く感じていましたね。
8. Aphex Twin「Drukqs」
こちらもクラブミュージック探索の中で出逢った1枚で、破滅的なドリルンベースと無垢なアンビエントに振り回され続ける天才Richard D. Jamesの問題作。彼のアンビエント作品は端正な美しさを備えていて、一方のドリルンベースも無秩序なようでいて神がかり的な調和を保っていて、正に無垢と狂気は紙一重だなと思い知らされます。当時CDショップのポップに『変態系』と紹介されていたのが忘れられません。
最近のexperimentalと評される作品群を聴いていると、ようやく時代がRichard D. Jamesに追いついてきたと思ってしまったりもします。
実際には前作「Richard D. James Album」の方がリピ聴きしていましたが、ジャケがあまりにも強烈なので『私を構成する9枚』にはこちらを挙げました(笑)。
9. MONDO GROSSO「MG4」
9枚の中で唯一の国内アーティスト作品です。MONDO GROSSOの音楽は本当に大好きで全作品聴き続けていますが、最推しがこの「MG4」です。このアルバムについては現在全曲レビューを執筆中なので乞うご期待。
以上、アルバムレビューというより自分の音楽史になってしまった『私を構成する9枚』の紹介でした。
それでは皆さんも良いお年をお迎えください。
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