地球星人公開前夜
人生初の劇場公開を控え、自分の作った作品のために大勢の人が動いてくれていることを実感し、プレッシャーなり食生活の乱れなりで胃が痛みつつも、「これは今、何かをしなければ!こういう時こそエモい長文をSNSに載せなければ!」という謎の強迫観念に駆られたので、何かちょっと書いてみようかなと思います。
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神戸芸術工科大学 映画コースの同期だった現世田谷センスマンズメンバーの北林と僕は「卒業後は一緒に上京して映画業界に殴り込もうぜ!」なんてことを話してましたが、結局北林のみ俳優として上京し、僕は親を説得しきれず奈良の実家に戻ることに。とりあえず地元のケーブルテレビ会社に就職して、北林には「お金が貯まったら東京行くわ」と言い訳、しばらくそれぞれの道を進むことになりました。(これが、ここから約3年間におよぶ「松本東京行く行く詐欺」の始まりです。)
会社は程よい仕事量のホワイト企業でしたが、いかんせん友達が近くにおらず、休みの日にやることといえばYouTubeを見るか、公園で1人自作自演でショートムービーを撮るか。なんともハリのない毎日を過ごしていました。
対して北林は、東京で俳優として仕事の幅や交友関係を広げ、さらに現世田谷センスマンズのもう1人である林も1年遅れで合流(学年が1つ下なので卒業してから上京)、プロの映像業界の美術会社に就職。奈良で燻る僕を尻目に、2人はどんどん進んでいくのでした。
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その頃、僕が奈良で何を考えていたかというと、〝幸せコンプレックス〟についてでした。
「五体満足で生まれて、いい友達もいい恋人もできて、両親も健在だし、死にたいと思うほどの絶望も死にそうになるほどの金欠も未だ経験したことがない。僕の人生はとても恵まれている。でも、自分はこの幸せな環境にいるからこそ、苦労してきた人に比べて人生が薄っぺらくなってるんじゃないか?」というのが、僕の〝幸せコンプレックス〟なるものです。
(これは大学の卒業制作で撮った映画『僕はヒーローになれない』でもテーマとして入れたほど、僕にとっては大きなものでした)
テレビで不幸なニュースを見た時とか、「今も世界のどこかでは食糧不足で人が死んでるってのに、僕は呑気に美味しくラーメン食っててごめんなさい」みたいな罪悪感を覚えることって誰しもあると思うんです。僕はそれを感じることがすごく多くて。
だから、こうして孤独に耐えながら奈良で会社に勤め続けることで、「自分もしんどいのに頑張ってるから」とその罪悪感を薄めさせる言い訳にしてた所もあるんだと思います。
なんにせよ、ただ「やりたいことで生きていく」なんて、そんな美味しい話があっちゃいけないんだと、社会の常識に囚われて自らストッパーをかけていたのです。
と、そんなことをうだうだと考えてたので、上京がどんどん先延ばしになり、コロナ禍に突入してさらに東京行きは延期になったりしてしまいました。
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大学卒業から約2年後、北林と林の繋いでくれた縁から「石川で映画を撮影しないか?」という誘いが僕の元に舞い込みます。(ここらへんは色んなインタビューで話してるんで割愛します)
上京の野望を捨てきれていなかった僕は、「まずは東京で戦う武器として代表作を作らねばならない!」と『地球星人は空想する』の企画をスタートさせました。
「〝幸せコンプレックス〟なんていう矛盾でしかない変な悩みを抱えた僕は、地球人ではないんじゃないか?実は宇宙人なんじゃないか?」と自分の心と向き合いながら話を作っていきました。そうして出来上がった脚本を、色んな方に支えられながら撮影していくうちに、僕の〝幸せコンプレックス〟に対する考えは徐々に変わっていくことになります。
「僕が幸せなのは僕が何かを勝ち取ったからでも、たまたま神様に愛されてたからでもなくて。僕のことを想って、色んなものを与えてくれた人がいたから幸せになったんじゃないか?
だから、これまで出逢って、僕を想って与えてくれた人たちのために、誰よりも僕自身が自分の幸せを求め続けなければならないんだ。」
これが、この撮影を経て辿り着いた自分なりの答えです。
僕はようやく会社を辞め、〝やりたいことやる幸せ〟を求めて、仲間のいる東京へとやってきたのでした。
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僕は今、「出逢ってきてくれたあなたたちのおかげで、こんな人間になったよ」ということを物語にのせて届けるために、僕が良いと思って作った作品を同じように良いと思ってくれる人と新たに出逢うために、映画を撮っています。
そして、少し時間はかかりましたが、大好きな仲間と共に大好きな映画を作り続けるために、北林・林と共に世田谷センスマンズとして活動しています。
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『地球星人は空想する』は、奇跡の連続のご縁で色々なものを与えてもらった僕だからこそできる表現があると信じて作った作品です。
僕が沢山の素敵な人やものに出逢ってきたように、この作品があなたにとって良い出逢いになることを心から願っています。
今度は僕が、あなたの幸せを願います。
世田谷センスマンズ
松本佳樹