【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / ミスター・ハンズ (1980年)
Herbie Hancock / Mr. Hands
これは1997年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。
ハービー・ハンコックのファンの人に、“ハービーのアルバムの中でいちばん好きなものは?”という質問をすると、例えば“大名盤”とされている、ブルーノート時代の『処女航海』や、1970年代の『ヘッド・ハンターズ』を挙げる人もいる中、『スピーク・ライク・ア・チャイルド』や『洪水』といったアルバムのほうが好きだ、という人もけっこういるような気がする。ファンにとって“名盤”と“愛聴盤”とは違うのだ。特に1970年代以降のいわゆる“エレクトリック・ハンコック”の場合、例えば『洪水』が好きだという人はかなりの“ハービー通”だといえると思う。そしてそういった“電化ハービー・マニア”の人にウケがいいアルバムとしては、他に『サンライト』『V.S.O.P.』(といっても、いわゆる“V.S.O.P.クインテット”の演奏ではなくて、ラストの2曲)、そしてこの『ミスター・ハンズ』などがある。特に1950年代後半-60年代前半生まれあたりの年代のハービー・ファンの中には、この『ミスター・ハンズ』をバイブルのように愛聴しているファンも少なくない(少なくともボクの周りには山ほどいる)。ハービーのアルバムの流れの中では“企画もの”的な扱いで比較的無視されがちの本作だが、実はこのアルバムこそキーボード・プレイヤーとしてのハービー・ハンコックのエッセンスが詰まっている作品なのだ。まさに『ミスター・ハンズ』というタイトルがピッタリのアルバムだ(ちなみにこのアルバム・タイトルは、アメリカの人気テレビ番組『サタディ・ナイト・ライヴ』の『ミスター・ビルズ・ショウ』というコーナーに登場する指人形からヒントを得たものだそうだ)。当時ファンキーでポップな歌ものに走りつつあったハービーだったが(このアルバムは1979年の『モンスター』と1981年の『マジック・ウィンドゥズ』の間にリリースされた)、ここでは全編インストゥルメンタルでキーボードを弾きまくっている。そういったところもファンに受けた理由なのだろう。ともかくこのアルバムのハービーのプレイはすごいのだ。
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