【Lost Liner Notes】 マイルス・デイヴィス / マイルス・イン・ザ・スカイ (1968年)
Miles Davis / Miles In The Sky
これは1997年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。
1967年7月、マイルス・デイヴィスは、ウェイン・ショーター(sax)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)による“究極のクインテット”が頂点に昇り詰めた瞬間を見事にとらえた奇跡の大傑作『ネフェルティティ』を完成させる。そしてそれはマイルス本人だけではなく、ジャズの歴史においても最も重要な作品のひとつとなった。だがマイルスはその位置に安住することなく、新たなる方向性を模索し始める。そして彼が試みたひとつの方向性が、当時台頭し始めたR&Bやロックのビート、そしてエレクトリック・サウンドの導入だった。そしてそれと同時に、鉄壁を誇っていたクインテットもゆるやかに“解体”へと向かっていく。
1967年12月、『ネフェルティティ』のレコーディング後約半年ぶりに彼らがスタジオに入った時、そこにはチェレスタ、エレクトリック・ピアノ、エレクトリック・ハープシコードが置かれ、ハービーはマイルスに“それを弾いてみろ”と言われた。ハービーにとってそれは初めての体験だった。マイルスはキャノンボール・アダレイ・グループのジョー・ザヴィヌルのエレクトリック・ピアノのプレイを聴いて、自分の音楽にも取り入れることを思い付いたのだという。彼は自伝で“ローズ(フェンダー社のエレクトリック・ピアノ)にはこれだというひとつのサウンドがあって、それだけで自立している楽器だ。オレは普通のピアノからじゃ得られない、ローズで初めて可能なある種のヴォイシングを試したかった”と語っている。またスタジオには“6人目のメンバー”としてジョー・ベック(g)の姿があった(この時のセッションの模様は『サークル・イン・ザ・ラウンド』『ディレクション』で聴くことができる)。
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