【Lost Liner Notes】 ウェザー・リポート / スウィートナイター (1973年)
Weather Report / Sweetnighter
これは1995年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。
1970年代後半から1980年中盤に青春時代を過ごしたジャズ・ファンにとって、ウェザー・リポート(以下WR)というのは“特別な”グループに違いない。特にジャコ・パストリアスが在籍していた1976〜82年、作品でいうと『ブラック・マーケット』から『ウェザー・リポート '81』までが、その人達にとってはWRのすべてだといっても過言ではない。それくらい“あの時”のWRはすごかった。特にライヴでのすごさは筆舌に尽くし難いものがあった。そんなわけでそれ以前の作品群はいまひとつ印象が薄くなってしまっているのだが(もちろんその頃の作品も素晴らしいものなのだが、なにしろ“あの時”がすごすぎたのだ)、そのWRのルーツというものを突き詰めていくと、どうしてもこの『スウィートナイター』に行き着く。この1973年に発表されたWRとしては3作目のスタジオ録音盤(日本では『ライヴ・イン・トーキョー』を含む4作め)であるこの作品が、その後のWRの方向性を決定づけたといっても過言ではない。それほどまでにこれは重要な作品なのだ。
WRはジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーター、ミロスラフ・ヴィトウスの3人が中心となって結成され、1971年に『ウェザー・リポート』で衝撃のデビューを飾った。当時はザヴィヌルの持つ、「イン・ア・サイレント・ウェイ」に代表されるヨーロッパ的・牧歌的要素と、ウェインのジャズ的要素とブラジル的要素、そしてヴィトウスの持つクラシック的要素がひとつとなり、それまでにはなかった画期的なサウンドを作り出したのであるが、いかんせんザヴィヌルは「イン・ア・サイレント・ウェイ」の人である以前に「マーシー・マーシー・マーシー」の人であった。つまりザヴィヌルの体の中には、オーストリア人には珍しく“ファンク体質”があり、WRでもその部分を出したいという欲求が段々大きくなってきたのだった。だが当時のメンバーではそれがうまく表現できない。そういう彼のジレンマは『ライヴ・イン・トーキョー』で実際のサウンドとなって表れてくるわけだが、それをイッキに爆発せたのがこの『スウィートナイター』だった。ここでサヴィヌルは“3人によるコラボレーション”から“ザヴィヌル主導型”へとWRサウンドを展開させ、自分の求めているサウンドに突き進んでいくのである。だからこのアルバムではそれまでとはまったく違う新しいサウンドが導入されていたり、その後のWRの方向性が示唆されたりしている。ではそういった様々な要素についてみていくことにしよう。
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