運動連鎖
ヒトの動きを理解する上で重要になってくる運動連鎖。
今回はこの「運動連鎖」についてまとめたいと思います。
まず、運動連鎖とは2つにタイプに分けられます。
1つは、「kinetic chain」です。
OKC (open kinetic chain)とCKC(closed kinetic chain)がありエクササイズの方法として分類されています。
もう1つは、「kinematic chain」です。
これは、「ある関節の運動が隣接する他の関節に運動を及ぼす」という意味を持つ運動連鎖であり、上行性運動連鎖、下行性運動連鎖というパターンが存在します。
このパターンから逸脱していると筋発揮や関節へのストレスが増し、怪我などの原因になったりパフォーマンスを低下させてしまいます。
つまり、トレーニングはこのパターンが強化されるように学習していくと良いということになります。
また、パターンを理解することでその人の局所にどのようにストレスがかかっているかも推察できるようになってくるので理学療法士やトレーナーの方はぜひ理解しましょう。
この2つの種類の運動連鎖についてもう少し掘り下げて解説していきます。
OKCとCKC
ここではOKC とCKCの運動の違い、メリット・デメリットをまとめます。
まずOKCとは、手や足の末端が固定されておらず自由な状態と定義されています。
例を挙げると、座った状態で膝の曲げ伸ばしをするような運動のことです。
ベンチプレスやレッグカールなど末端に重りがあっても、末端が固定されているわけではないのでOKCの運動になります。
CKCとは、反対に手や足の末端が、床などの外部抵抗に接している状態と定義されています。
動かないものに接していると考えるとイメージしやすいかと思います。
例としては、スクワットや腕立て伏せなどの運動があります。
OKCのメリットは、使っている筋肉以外が固定されているので狙った筋肉をピンポイントで鍛えることができます。
明らかに局所的な筋力低下が起こっている場合などに有効です。
(オペ後などリハビリの初期段階でよく用いられる)
デメリットは、動いていない筋肉に刺激が入らないこと、全身を連動させた日常的な動きの動きとは異なるので、筋力がついても機能的に働くようになるわけではないです。
CKCのメリットは、複数の関節や筋肉を使いながら運動するので、日常生活や各スポーツ競技の動作に近い状態でトレーニングすることができるということがあります。
デメリットは、動作が難しいと正しいフォームで行えず、目的としている動きや筋肉に刺激が入らずマイナスの学習をしてしまう可能性があります。
つまり、OKCとCKCどちらのが良いというわけでなく、その人の状態を評価し、どちらの方が有効か適切にトレーニングを展開していく必要があります。
上行性運動連鎖と下行性運動連鎖
上行性運動連鎖は距骨下関節の動きが、その上の膝関節、股関節、骨盤などに影響を与えるパターンです。
反対に下行性運動連鎖は骨盤の動きが、その下の股関節、膝関節、足関節に影響を与えるというパターンです。
骨盤前傾[前方回旋]
↓ ↑
股関節 屈曲 内転 内旋 (骨頭後方移動)
↓ ↑
膝関節 伸展[屈曲] 外反 外旋(下腿内旋)[内旋(下腿外旋)]
↓ ↑
距骨下関節 回内
骨盤後傾[後方回旋]
↓ ↑
股関節 伸展 外転 外旋 (骨頭前方移動)
↓ ↑
膝関節 屈曲[伸展] 内反 内旋(下腿外旋)[外旋(下腿内旋)]
↓ ↑
距骨下関節 回外
*下向きの矢印が下行性、上向きの矢印が上行性
*[ ]内は上行性運動連鎖の時の反応の違い。
私は骨盤の前方回旋、後方回旋がイメージしづらかったですが、どちらか片方が前方回旋すると反体側は後方回旋しているのを理解してイメージしやすくなりました。
下行性運動連鎖でも、前方回旋・後方回旋では上記とは反応が変わります。
骨盤 前方回旋
↓
股関節 伸展 外転 外旋
↓
膝関節 屈曲 外反 外旋(下腿内旋)
↓
距骨下関節 回内
後方回旋
↓
股関節 屈曲 内転 内旋
↓
膝関節 伸展 内反 内旋(下腿外旋)
↓
距骨下関節 回外
このように股関節の反応が上行性運動連鎖の時や骨盤の前後傾の時と変わります。
運動連鎖をどう活かすか?
膝関節に痛みがある方を例にしてみます。
上記のパターンが頭に入っていれば、膝まわりの筋緊張の調整や筋力訓練をいくらおこなっても膝へのストレスが減らないことがわかります。
膝関節が内反傾向なら内側に圧縮ストレスが、外側には伸張ストレスが加わります。
上行性運動連鎖、下行性運動連鎖の影響を考慮して骨盤や足関節を整えることで膝関節そのものにかかる負荷を減らせます。
膝が痛くなった根本原因を分析していくと、骨盤が後傾してしまっているとか、距骨下関節が回外してしまっているかもしれません。
・普段座っている姿勢が骨盤後傾している。
・立つときに足をくねっとして立つクセがある。
・捻挫の既往がある
など
こういう部分が原因で膝関節に負担がかかるようになったというパターンはかなり多いと思います。
トレーニングをする際も、骨盤の角度や足の接地の仕方など、細かく意識することで同じトレーニングをしても得られる反応が変わり、働く筋肉も変わります。
特にCKCのような荷重環境にある状態でトレーニングするなら尚更です。
ヒトはどんな運動も運動学習してしまうので、正しい反応を引き出すようにトレーニングしないと、かえってパフォーマンスを下げてしまったり、怪我に繋がってしまうので注意しましょう。
上半身にも影響する
下肢の運動連鎖のパターンをまとめましたが、上半身にも波及しますし、上肢の運動連鎖のパターンもあります、
例えば、骨盤が後傾すると腰椎の前弯が減少します。
すると重心が後方に下がるためバランスを取るために胸椎の後弯が増強し、頭部が前方位になります。
もう少し詳しく言うと、肩甲骨が外転、挙上位になったり、肩関節が外転位になったりします。
このように整理すると、例えば肩凝りなどの上半身の症状に対しても肩のマッサージなど患部に対してアプローチしていては解決しないことが分かりますね。
運動連鎖だけでは解決できない
ここまで散々運動連鎖の大切さを解説してきましたが、運動連鎖という視点だけではヒトの動きの構造を理解するのは不十分です。
関節の拘縮や筋力に問題のない健常者でも、荷重の位置がずれることでバランス反応が起こります。
これを「姿勢制御」と言いますが、アライメントが大きくズレた時などは運動連鎖よりも姿勢制御が優先されます。
今回は姿勢制御については詳しくはふれませんが、姿勢制御には知覚や認知が大きく影響します。
つまり、運動を変えていこうと思ったら、知覚や認知を変えていく必要もあります。
またどこかのタイミングで姿勢制御の話もまとめていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
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岩瀬 勝覚
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