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行政府のDXとラストワンマイルを支える家守会社の可能性 ─都市雑感#5─

前回につづき、今回は開疎化をフックにこれからの“自治”について考えてみる。

なぜ自治かというと、もし開疎化が進んだとき、これからのまちの選び方においてじつは大事なポイントになるのではないかと考えているからだ。
たとえば疎な状況が好まれれば、週5の出社は前提でなくなり、住むエリアでの過ごす時間が長くなる。そうして人が動くよりモノが動く社会にシフトされたとき、通勤という縛りが緩くなったとき、住むまちを選ぶことの重みづけが変わってくる。

そうなると話はやや飛躍するが、究極的には「自治ができているかどうか」が選ばれるまちにつながると考える。その理由を「行政府のDXとラストワンマイルを支える家守会社」という切り口から順を追って説明していきたい。

■次世代ガバメント

まず最初に一冊の本を紹介したい。  

世の中がDX(デジタルトランスフォーメーション)って言っているけど、社会のOSたる行政府そのものがDXしなきゃね、という趣旨だと理解している。
そして様々な領域を軽やかに横断しながら、その背景と方向性や課題について論じている素晴らしい一冊だ。

とても乱暴にだが要旨をかいつまむと以下のとおり。  

背景・課題意識|
ニーズが多様化する一方で財源・人材は減少し、すべてに対応することに限界を迎えている
方向性1|
行政府のDXを進めることで「小さくて大きな政府」を目指す
方向性2|
行政府はデジタルインフラを整えたり、施策の大きな方向性を示す
方向性3|
市民や民間も自覚を持ち、ラストワンマイル※を担う

ここで面白いなと思うのはこの「ラストワンマイル」だ。本の中ではデンマークのIT講習プログラムが事例として挙げられている。  

・低所得エリアに暮らす高齢者のITスキルを高めるために政府が実施したプログラム
・これまでの行政 ⇒ 公民館に講師を呼んで高齢者が出向く
・デンマーク事例 ⇒ 近隣の若者を講師に仕立てて高齢者を訪問し講習
・講習内容は平易なので普通の若者で対応可能
・若者の雇用創出と自尊心向上、地域内に顔見知りが増え治安も向上

つまり最初のアクションとプログラムの設計は行政府が担うが、最後の現場は企業や市民が協力し、結果としてきめ細やかなサービスが実現するというものだ。  


■誰がラストワンマイルを担うのか

ではいまの日本で、そのラストワンマイルを担いうる民間とは誰だろう。

もちろん領域によってさまざまだと思うが、すぐに思い浮かぶのはAmazon、LINE、Uber(Eats)、メルカリといったプラットフォーマーたちではないだろうか。行政府とも対等にやり合い、圧倒的UI/UXとコストパフォーマンスをもってラストワンマイルを担う。

上記のデンマークの例に置き換えれば、GoogleがChromebookとYoutubeを使い、高齢者と遠く離れたIT業者をつなぐIT講習配信マッチング事業として受託するようなイメージだろうか。

そして私はこの構図に少し怖さを感じている。

じつは上で紹介した次世代ガバメントのなかでは、給食を例に挙げて行政府のDXとラストワンマイルの関係を3つのパターンに分けている。  

ヒエラルキーソリューション|
配給制。全員に同等のサービスを。アレルギーなど細かなニーズは対応不可
マーケットソリューション|
コンビニ。行政府で対応しきれないニーズをマーケットに任せ、個人が調達
コミュニティソリューション|
食材を送りみんなで調理。細かなニーズも現場でカスタマイズ。副次効果も

デンマークの例はコミュニティソリューション、そしてさきにAmazonらの名前を挙げたが、これはマーケットソリューションにあたるだろう。

マーケットソリューションは効率的で一見良さそうに思えるが、一方で経済格差を際立たせるかもしれない。またニーズが少ないところからは撤退や高価格化という可能性もあるかもしれない。

つまり自分たちのまちの問題なのにその対策の主導権をまちの外の事業者に握られてしまうのだ。


■産業連関表から考えるラストワンマイル

そしてラストワンマイルの担い手については地域経済という観点でも考えるべきである。

ここで(地域)産業連関表分析という手法の話をしよう。
産業連関表とは、ある地域において1年間に企業や政府、家計などの経済主体が行ったモノ・サービスに関する取引を一覧にしたものだ。それをベースに地域経済構造を分析する手法だが、そこでポイントとなるのが「移出」と「消費」だ。  

(↑参考図書。こちらのスライドもご参考に。)

「移出」とは要は域外から稼いだお金のことで、これをいかに増やすかが重要だ。逆に言えば別地域(東京など)の「移出」に片棒を担ぐと貴重な域内マネーが流れ出る。

一方で「消費」は、とくに最終消費者のひとつである家計がどこで消費するかがポイントである。単純に言えばイオンで消費すれば域外に流出、地元商店で消費すれば域内で循環というワケだ。  

ここでようやくラストワンマイルの話に戻す。
外部プラットフォーマーにラストワンマイルを預けると、それは域外へマネーが流出することになるのだ。一方でデンマークの例になぞらえると、地域の雇用を生み出すなど、域内でのマネー循環につながる。つまりラストワンマイルの担い手を内部化することで、地域経済の循環も得られるということだ。

次世代ガバメントの中でも「手間の市場化」と「輸入置換」という観点で同様の話が指摘されている。  


■ラストワンマイルと自治

このようにラストワンマイルを誰が担うかによって、その主導権と地域経済への波及が変わってくる可能性があると考える。

そしてこのラストワンマイルは何もビジネスに限った話ではない。

たとえば災害時の対応など、市民主導で解決すべき領域もラストワンマイルには含まれてくるのだ。次世代ガバメントの中ではイタリアにおける災害時のラストワンマイルを担う民間ボランティア組織の話が挙げられている。

かつての日本では町内会や地域の消防団が一部を担っていた。まさに自治だ。しかし多くの地域でこれらの団体が形骸化しているのが実情だろう。

そんな状況下だからこそ、このラストワンマイルの領域は、ある意味で自治を再構築する良い機会ともとらえられるのだ。

しかしラストワンマイルのうち、ビジネス領域の担い手が仮にすべて外部化された場合、それ以外の部分を地域で担えるほど自治力が維持されるかは怪しくなってくるだろう。

そこで私はラストワンマイルの担い手として、いわゆる「家守会社」に可能性を感じている。


■家守会社という可能性

家守会社とは、いわゆるリノベーションまちづくりという取り組みで出てくる事業者の通称である。  

参考:家守会社とは

そもそもリノベーションまちづくりとは?という点は上記リンクに譲るとして、この家守会社を簡単に説明すると「エリア価値向上をミッションとした不動産サブリース事業者」とでもなるだろうか。空き家を借り上げ、クサビとなる事業者を呼び込み、点を面にして、地域全体が変えていくというビジョンだ。
リノベーションスクールという企画から端を発し、いまでは全国に家守会社が誕生している。以下は一例。

しかし会社として事業継続するためにはサブリース事業だけでは厳しい場合がほとんどで、実際に多くの家守会社は他に本業がある人たちが寄り集まり経営している。エリアのためにと頑張る人の持続可能性が担保できていない状況だ。

一方ではサブリース以外にも事業を展開し、しっかりとビジネスを回している家守会社(あるいは本業の延長線で家守会社的な取り組みをしている企業)も存在する。  

まちもり(@熱海/ファシリティマネージメント業)
My Room(@長野善光寺/設計業)  

大事なのはエリア価値向上というミッションであり、どんな事業に取り組み、そしてどう事業継続させるかは、あくまでビジョンを実現する手段である。

そこで私は、家守会社が事業継続するための多角化の一つとしてラストワンマイルを担うことができるのではないかと考える。

エリア価値向上をミッションに掲げる家守会社は、自治を主導する主体としても相性が良いからだ。  


■思考実験:地域特化マイクロ物流

では家守会社がラストワンマイルを担うには何が肝要となるのだろうか。私は「複数の事業を兼ねる」と「ギリギリの採算性」ということがポイントになってくると考える。
ここからは思考実験として郵便事業を例に挙げて可能性を探ってしてみよう。

現在の郵便事業は民営化を果たしている。上記の例に充てれば「マーケットソリューション」となるだろう。しかし今後は山間部などの過疎地域は収益性の観点からずっと物流ネットワーク網を維持し続けるのは難しいかもしれない。

画像1

出典はこちら)直近の決算では増益だが、取扱量自体は減少傾向  

そこでラストワンマイルとして地域特化型のマイクロ物流というのはあり得ないだろうか。
ひらたく言えば次世代版の三河屋のようなものだ。特定地域に特化して、主要物流事業者との間に入り、域内の集配荷を担う。
またそれだけに留まらず、たとえば以下のような事業も複数を兼ねて取り組むのだ。  

①地域特化版Uber Eats
 例)谷根千宅配便 / chompy
②地域特化の買い物代行
 例)twidy / pick go
③地域食材の飲食店配送
 例)やさいバス

おそらく一つ一つの収益性は高くない、あるいは単独では赤字になることもあるだろう。アジアの買い物代行大手のオネストビーが日本を事実上撤退しているように、決して利幅のある事業ではない。

しかし上記のように様々な事業を兼ねる、あるいは「地域内のモノの移動を一手に担う」と捉え直せば、採算の可能性があるのではないか。またマイクロ物流を担うことにより、家守会社の他の事業機会(空き家オーナーとの接点構築など)につながる可能性もある。

つまりプラットフォーマーにとっては旨味が無くとも家守会社には旨味がある、ブルーオーシャンになりうるのだ。


■自分たちのまちは自分たちで何とかする

ここまで長々と書いてきたが、決して家守会社で物流事業するべきという話ではない。まちごとに課題は違うし、家守会社ごとに特徴も違うので、様々な形があるだろう。

むしろ訴えたいのは、行政がなんでもフルパッケージで提供するには限界が来るからこそ、自分たちのまちは自分たちで何とかする気概と実行が大事だということだ。

もちろん、行政側もラストワンマイルを引き渡せるような制度設計とインフラ整備をする必要がある。けれども、そこが整ったらその先は市民たちが自覚を持って臨まねばならない時代になるのだ。

またその実行にあたり、善意に頼って持続可能が担保できないボランタリーなものだけではなく、経済価値が地域内で循環する形をあわせて目指すべきだ。それこそがこれからの自治ではないだろうか。


■開疎化は地殻変動ではなくアーリー層の加速

最後に。
冒頭では「開疎化で都心への距離という価値が相対的に下がるなかで人はどのまちを選ぶか」という問いを立てた。この問いは突き詰めると、「人を惹きつけるまちの魅力は何になるか」ということだと思う。

そして私は魅力の源泉が自治になると考えている。

ここまで書いてきたように、自分たちのまちは自分たちで何とかしなければならない時代で、自治はそのすべての基盤になる。その基盤の軸となる市民(家守会社のような存在)がいるからこそ、魅力的なお店やコミュニティが惹きつけられ、それがそのまままちの魅力につながっていくのだ。

そしてここまでの議論すべて、コロナがあろうがなかろうが、開疎化が起きようが起きまいが、ずっとあった課題感だと感じている。それがコロナによって一気に課題が顕在化しただけだ。
一方で東日本大震災後に揺り戻しがあったように、国民全員のゲームチェンジにはならないだろう。それでも、いわゆるイノベーター・アーリーアダプター層と呼ばれる人たちはもう過去の価値観には戻らない。人口減少が加速する中で、この層の価値観に寄り添えるまちは魅力的であり続けるのではないだろうか。

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