刑事司法

刑事司法ヤバい!槇原敬之の勾留は違法だった!?

はじめに

槇原敬之さんが、覚せい剤所持で逮捕・勾留されたことで驚かされたファンも多いことと思います。

そして、マッキーは、2020年3月4日に起訴され、3月6日に保釈されました。報道によれば、マッキーは、「僕は長いこと薬はやっていません」と供述しているようです。

この報道を聞いて、被疑者であれば、逮捕に引き続いて勾留されるのは当たり前だ、と勘違いされている方もいるのではないでしょうか。

しかし、弁護士の目からみて、今回の槇原敬之さんの場合は、勾留の必要はなかったのではないかと考えています。

そこで、今回は、①勾留って何?②どんなときに勾留されるの?③槇原敬之さんの場合は?の順でわかりやすく解説していきます。

動画では、さらにわかりやすく解説しているので、そちらも一緒にみていただければ、理解も深まると思います。

▼Youtube▼

勾留とは?

逮捕に引き続きほぼ自動的になされるのが、「勾留」です。

逮捕は、72時間(3日)しか身体拘束ができません。本来であれば、この72時間以内に①起訴、②不起訴を判断しなければなりません。

公判(裁判)で有罪を立証できるだけの証拠があれば起訴し、証拠が不十分で有罪を立証でいないとなるとだという場合は②不起訴処分としなければなりません。

ただ、72時間では、公判(裁判)に耐え得るだけの証拠を収集するのは、いかに検察組織に強大な捜査権限があっても難しいものです。

なので、72時間以内に起訴・不起訴を判断できず、引き続き有罪立証の証拠収集(捜査)をしなければならないときは、被疑者を勾留します。

勾留されると、20日間身体拘束されます。厳密には、10日勾留された後、さらに何日延長するのかを決めるのですが、ほぼ20日の勾留が認められてしまいます。

ただ、捜査の必要があるからといって身体拘束期間を20日延長される被疑者としてはたまったものではないですよね・・・

そこで、刑事訴訟法は、捜査の必要性(検察組織の事情)の他、勾留の許容性(被疑者側の事情)をも考慮しなければならないとされています。

それでは、この勾留の許容性についてみていきましょう。

勾留される場合とは?

勾留の許容性の要件として、刑事訴訟法は、以下の2つの要件を定めています。

①証拠隠滅のおそれがあること

②逃亡のおそれがあること

これら①②のどちらかがあったら勾留されても仕方ないよね。となります。他方、この①②のいずれもない場合は、被疑者を勾留するだけの許容性はないため、勾留はできません。

①被疑者に証拠を隠滅をするような恐れがあれば、被疑者は勾留されたとしても我慢しなさいよ。という立て付けになっています。また、②被疑者に逃亡するような危険があれば、被疑者は勾留されても我慢しなさいよ。という立て付けになっています。

では、この①②は、どのように判断するのでしょうか?それぞれ、以下の要素を総合的に考えて判断します。

「①証拠隠滅のおそれ」の判断方法

被疑者が被害者を威迫する可能性/客観証拠が既に捜査機関に入手されているか/共犯者との口裏合わせの可能性/示談が成立しているかetc

「②逃亡のおそれ」の判断方法

扶養家族が存在するか/定職についているか/会社経営上重要なポジションについているか/執行猶予などの身体解放が見込めるか/示談が成立しているかetc

槇原敬之さんの場合

「①証拠隠滅のおそれ」:なし

槇原敬之さんの場合、警察が、東京・港区のマンションを家宅捜索(捜索差押え)した結果、覚せい剤0.083g見つかったわけです。

警察の捜索差押えは、家の中をひっくり返すくらいに家探しします。それに覚せい剤の場合、トイレに流されてしまえば証拠隠滅はとても簡単です。なので、初回の捜索差押えでくまなく家探しします。

それで発見されたのが、覚せい剤0.083gだったわけです。

なので、勾留せずに家に帰らせたところで、他に覚せい剤がある可能性ってありますかね?可能性は極めて低いと思います。

また、覚せい剤所持を知っている第三者の証言を口封じ(第三者の供述という証拠を隠滅)することが考えられるのでは?と考えた方もいるかと思います。

しかし、覚せい剤所持は人目につかない方法で行われるので、覚せい剤被疑事実の場合、そのような口裏合わせをしなければならないような第三者は通常いないでしょう。

なので、証拠隠滅の可能性は低いといえるのです。

「②逃亡のおそれ」:なし

槇原敬之さんと言えば、著名な歌手です。それに地位も収入も高いです。

そのため、それらの地位や収入、立場などをかなぐり捨てて逃亡するとは到底思えません。それに前科といってもずいぶん前の前科なので、今回の覚せい剤所持被告事件の判決で、前科が考慮されるとも思えず、そうなると量刑としては執行猶予が相当です。そのような判決が目に見えているなかで、あえてリスクをとってまで逃亡する理由がありません。

そのため、槇原敬之さんの場合は、逃亡のおそれもなかったといえます。

では、どういった場合に「逃亡のおそれ、あり」となるの?と疑問に思われた方もいると思います。

例えば、こんな場合です。

家賃数万円のアパートに暮らしており、アルバイトを転々としており、独身、そして10年以内の前科が複数ある場合には、逃亡のおそれが認められます。

なぜなら、独身で身軽で、持ち家もなくアルバイトを転々としているのであれば、どこでも働けますし、まして前科があるのであれば実刑になる可能性が高いため、逃亡のリスク(この場合リスクも低いのですが)を犯すと考えられるからです。

このような逃亡のおそれが認められる場合と、今回の槇原敬之さんの場合とを比較すれば、槇原敬之さんの逃亡のおそれなどほとんど考えられないことがわかると思います。

結論

ですので、私は、①②いずれも満たしていないため、今回の勾留は違法だったのではないかと考えています。

最後に

いかがでしたでしょうか。

今回は、最近起きたビックニュースを題材に、日本の刑事司法の問題について解説しました。

このように、ひとたび被疑者になってしまえば、勾留の許容性(①②)を満たしていないにもかかわらず、ほぼ自動的に20日勾留となりかねません。

仮に20日勾留されたとしても、その後の保釈請求は割と通りやすいので、20日間我慢すればよいだけと思われがちですが、警察の留置施設の中で20日間余分に身体拘束されるか否かは、被疑者にとっては深刻な問題です。

なので、今回のニュースをきっかけに、少しでも日本の刑事司法に関心を持ってもらえたら嬉しいです。

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