あの人はいま
今はなき、Googleが行っていたSNSであるGoogle Plus、通称「G+」
SNSなど全く興味がなかった私の生活に一気にSNSを浸透させたサービスである。SNSが何たるか全くわからないのに、サービス開始日から初めて、サーバーが更新を止めるその日まで毎日欠かすことなく覗いていた。
そういえば初期の頃はAKBのメンバーが公式がG+で情報を発信していたりそれなりの滑り出しをしていたように思う。もちろん芸能人に興味のない私は誰一人そういう人をフォローしていなかったけれども。
なぜいきなりG+の話題なのかというと、今日の昼食用のうどんを茹でながら、G+初期にフォローしたある人のことを思い出したからだ。
明日から修行だ。自分の店を持つ、そのために東京の有名店に弟子入りした。
そんな内容を見て、応援のためにフォローし、メッセージを残した。私と同じ思いの人々も彼をフォローし、応援した。
『親方は厳しい。俺がやることにすべてダメ出しをする』 「がんばれ、修行なんてそんなものだ」 「店を出せたら食べに行くから、がんばれよ!」『ありがとう、その言葉を励みにがんばるよ』
何事も簡単にはいかない、起業するというのは大変なことだ。そのために弟子入するというのも大変なことだろう。彼を通して、プロの世界を知ることは、自分の見識を深めるためにも役立つはずだ。だから彼をフォローし投稿を毎日追った。だが彼の発言はどんどん愚痴になっていき、G+は負の感情を叩きつける場になっていく。
見かねたフォロワーが彼の愚痴に対して質問したことがあった。
「どなんなダメ出しされてるの?」 『何でもかんでもだ 俺は香川の人間だ うどんのことなら東京人より知ってる』 「君は店を出すために弟子入りしたんだよね?」 『そうだよ! 本場のさぬきうどんの店を出すんだよ! こんな他県のやつがやってるような店じゃなくて、本場の店をな!』 「だったらどうして東京の店に弟子入りしたの? 同じ香川の店に弟子入りすれば良かったんじゃないの?」 『地元じゃ、爺さんも婆さんも自分の家でうどんを打つんだよ! 有名店なんか超えた味なんだよ! 全部味が違うんだから!』 「それじゃ、何を期待して弟子入りしたの? そのお爺さんお婆さんに教えてもらったほうが良かったんじゃないの?」 『おまえバカか? 個人に教えてもらって看板出せるか?』 「暖簾が欲しくて弟子入りしたの? 暖簾分けされたら、下手に味を変えられないじゃん。やっぱり弟子入り先を間違えたんじゃない?」 『うるせえな! どうせおまえも、うどんをしらない東京モンだろ?』 「残念ながら、秋田だよ」 「稲庭うどんのお膝元じゃんwww」 「最初は自分の店を持つって頑張っているから応援していたんだよ。だけど最近の君は修行の愚痴から、東京への呪詛に変わってきてるよね。それで見かねて質問しちゃったんだ」 『うるせぇ、ほうっておけよ! やめたやめた! もうこの店やめる!』
こんな流れで彼のG+は更新されなくなった。
結局、彼は本気でうどんの店を持ちたかったんだろうか? 人に使われる立場が嫌だから、上に立てる店主になりたかったのではないだろうか? だが万一、店を出せたとして、客に頭を下げることはできたのだろうか?
思いつきで行動する人というのはいるものだ。しかしそんな彼に振り回される家族は大変だ。……ああ、書き忘れたが、彼は妻も子もいる身だったのだ。
通販で購入した讃岐うどんを茹でながら、そんなことを思い出していたのだ。