分かり合えないからこそ、この人の何が本当に凄いのかを本気で考える/INTERVIEW ABOUT INTERVIEW Vol.7 山崎大祐さん
「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」とは、インタビューの達人をゲストに迎え極意を聞く、オンライン勉強会です。今回お迎えした達人は、マザーハウス代表取締役副社長でマザーハウスカレッジや様々な場で魅力的な発信を続ける山崎大祐さん、聞き手は、インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」講師でご本人もインタビューの名手である宮本恵理子さんです。
インタビュイー(語り手)
山崎大祐さん/マザーハウス代表取締役副社長
1980年東京生まれ。 慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。 卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。 その後、創業前から関わってきた株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、2007年に取締役副社長として入社。2019年から代表取締役副社長に。 他にも、「マザーハウスカレッジ」や「思いをカタチにする経営ゼミ」の運営、(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事、なども務める。
インタビュアー(聞き手)
宮本恵理子/フリーランスライター・THE INTERVIEW講師
1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。
主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。
主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)、「夫婦ふたり道」(日経ARIA)、「ミライノツクリテ」(Business Insider)、「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。
■今の時代の経営者にとって聴くというのは重要なスキル
―今まで聴くというテーマでお話されたことはありますか。
ないですね。初めてです。僕は、お話をいただいて改めて、聴くというのは本質を捉えたとても面白いテーマだと感じています。そして、世の中的にも、聴く力は不可欠なスキルになっていると思います。例えば、経営者にとっても、発信するカリスマ型の経営者が求められていた時代から、今はコミュニケーションが大切な時代になってきていて、社内で話を聴くのも重要ですし、対外的にも、この相手と組む価値が本当にあるのか本質を見極めるのも、聴くところから始まります。特に、僕らは途上国でモノづくりをやる会社なので強くそう感じます。
■100人いたら100通りのストーリーがある
―聞き手としてお話しするシーンも増えていますよね。「Warm Heart, Cool Head (熱い情熱と冷静な思考)」がテーマの「マザーハウスカレッジ」を立ち上げ、コロナ禍でも週2本の情報発信を続けていらっしゃいますし。経営者としてお忙しいなか、他の活動もなさるモチベーションはどこから来るんでしょうか。
原点は、人への興味です。「マザーハウスカレッジ」では、緊急事態宣言以降は、自分1人で話す「ソロカレ」と、ゲストと対談する「生カレ」の2本を毎週ユーチューブでやり続けています。100人いたら必ず100通りのストーリーがあるので、そこに迫りたくなる。小さい頃からの好奇心ですね。
―人への好奇心がモチベーションなんですね。
あとね、経営者って色々なことやって視野が広いって思われがちなんですが、放っておくと勉強しなくなるんですよ。事業のことを本気で愛しているから、そこに集中し過ぎて、直接関係ない情報に接する機会がどんどん減っていく。創業して何年か経ってそれを強く感じるようになった。でも1人で勉強するのは辛い。それでお客様を巻き込んじゃえと。僕が聞き手として全然違う分野の人の話を聴くことにすれば、それを見てくださるお客様のためにも勉強せざる得ない。そうやって勉強する機会を作っていった、という経緯もあるんです。
■聴くことに勝る成長はない
―山崎さんご自身にとっても学ぶ機会になっているんですね。
聴くことは最高の勉強になるんです。準備も本番もその後も。特に、「マザーハウスカレッジ」の「生カレ」は生放送。やり直しのきかない場で毎回力を出し切る。これに勝る成長はないと感じます。
―生放送でゲストの話を長時間丁寧に聴かれていますが、シナリオは用意しているんでしょうか。
シナリオは書いていないんです。一応事前に「こんなこと聞きたい」というメモを1枚用意しゲストに送ってはいますが、「多分このとおりにはなりません」とお伝えしています(笑)。
■その人が本当に言いたい、または言いたくない本質にどこまで迫れるか
―シナリオがないにも関わらず、いつも、話し手の方は価値ある時間を過ごし満足している様子ですよね。
ゲストが「多分こういった質問はされるだろう」と想定していることはまず押さえたうえで、どこまで本質に踏み込めるかですよね。2つのやり方があると思っています。1つめは、自分にしか聞けないオリジナリティのある視点を入れる。例えば、僕の場合は経営者視点とかキャリア視点とか。2つめは、「なぜ」を3回くらい繰り返して深掘りする。聴くっていうのは、その人が本当に言いたいこと、もしくは本当に言いたくないことに迫れるかだと思うんです。それを言ってもらうには安心感も大切ですよね。
■1回の出会いを最大化できるか
―確かに「本当に言いたくないこと」って「本当に言いたいこと」と表裏一体というか不可分な時ありますよね。でも、初対面からそこまで迫れるんでしょうか。
ええ。ポイントは出会いをいかに最大化できるかですね。僕が話を聴く人って挑戦する人とか色々な苦労を越えてきた人が多いんですが、その挑戦している理由のさらに奥にまで、一度の対話で迫れるかが非常に重要なんですよね。
■自分が思ったことは正直に全部本気で伝える
―拝見していると、相手の言葉を言い換えたり、ご自身の体験と重ねて言葉を返されたり、山崎さんがその方の世界に近づこうとしているように感じるんですが、そのあたりは意識されていますか。
そうですね、自分が思ったことは正直に全部本気で伝えるよう意識はしていますね。向こうに心を裸にしてもらうには、こちらが裸にならないと無理だと思います。実は、聴くことに関して自分のきっかけになった体験があるんです。
■「人は本当に言いたいことは言っていない」という前提に立つ
―聴く心得を獲得するきっかけですね。ぜひ教えてください。
自分の人生で一番変わった瞬間です。マザーハウスを山口絵理子(社長)と起業して4年目くらいのとき、社員もまだ40人、滅茶苦茶忙しいけど儲からず会社の存続も危うかった時期に、大事なスタッフが2人辞めたんです。今後の対策を考えるはずの全社会議で、皆に、「あの2人って山崎さんのせいで辞めたと思うんですよ。このままだと誰も山崎さんについていきません」と言われて…。誰よりも本気で仕事しているつもりでいたし、僕も経営者として言いたいことはあるわけです。だけど、言うのやめたんです。言いたいことを言うのやめて、ずっと1時間半、2時間聴き続けたんです。「こんなしんどい思いしているのに山崎さんはミッションを押し付ける」とか、いろんなことを言われました。その時、僕は聞いているつもりでいたけど何も聴いていなかった、と気づきました。
―それまでは聞いているつもりではあったのですね。
はい。面談も頻繁にしていましたし。でもスタッフは僕に対して言いたいことをストレートに言うとは限らない。人がコミュニケーションする時には、何らかの意図や期待がありますよね。それって相手に伝わるんですよ。組織においては、スタッフは経営者の意図を感じると「大丈夫です」「頑張れます」「問題ないです」と言ってしまう。だから僕は、問いかけたあとはただ聴く。そして、この人が本当に思っていることって何だろうと考える。表面上の言葉だけを捉えて聴いたつもりになってしまうことって、すごくあると思います。
―人は本当に言いたいことは言っていない、っていう前提に立つということですね。山崎さんは立場上、自分を制してそうしているわけですね。
そうです。結構しんどいですよ。言葉として言ってくれたことをそのまま信じるほうが楽ですからね。
―本音はどう探っていくんでしょうか。
自分がその立場だったらどうかと本気で考えます。そして、同じことを違う角度から何度も聞いていく。良い意味で疑う。真逆の仮説を持っておくだけで全然違います。例えば、金メダルを取ったオリンピック選手に気持ちを聞くと、多分、嬉しいですって言いますよね。それに対し、本当は違う気持ちじゃないですかと聞き返す人はいない。でも、この人は本当は嬉しくないかもしれないと思いながら聴くだけで、インタビューの中身は全く違ってきます。
―山崎さんなら、本当は違う気持ちじゃないですかって聞きそうですね。
真逆の部分があるかもしれないという前提に立つ。僕がスタッフに声を掛けると、大抵は「頑張ってます」「楽しいです」って言ってくれるんです。でも「本当はそうじゃないかもしれない」と思って関わることで本音を教えてもらえることもある。「本当は悩んでることあるんじゃないの」と声をかけるとか、もっと具体的に深く聴くとか、自分の経験から言ってあげたりとか。
―こちらから自己開示することも大事ですよね。山崎さんが徹底して聴くようになってから、組織のなかの雰囲気とか、普段のコミュニケーションとか、関係性って変わってきましたか?
「山崎さん変わった」とめちゃくちゃ言われるようになりました。そんな反応をもらえるまでには3年くらいかかりましたが。
■聴くとは、自分に向いていたベクトルを相手に向けること
―以前、ラグビーのコーチングディレクターの中竹竜二さんと「ハフィントンポスト」で対談されたときにも「組織に対して凄く愛情深くなったね」と言われていましたよね。
聴くというのは、自分に向いていたベクトルが相手向きに変わることだと思うんですよ。起業家はまず、自分にベクトルが向いているところから始まる。自分のやりたいことのために突っ走り、皆が自分のベクトルに合わせてくれる。それが先程の一件で、これからは聴かなきゃいけないんだと気づけた。そこからの3年はとにかく我慢。言いたくなるのを我慢して聴く。つまり、自分に向いていたベクトルを人に向け、皆はどう思っているんだろうとか、皆のために何ができるんだろうと本気で思うようになった。それが究極の聴くということなんだと思うんです。中竹先生の言う愛情ですよね。
―愛情という気持ちから聴くという行動が生じるのか、聴くという行動から愛情という気持ちが生じるのか、どちらが先なんでしょうか。
行動が先ですかね。話す前に聴くというルールを先に決めたんです。人間は、行動から規定される部分がありますよね。今は世の中総発信時代で、話すことばかり考えている人も多いですが、でも、話すことの究極のゴールは相手を動かす、つまり自分目線なんです。でも、聴くっていうのは、自分を相手に合わせること。聴くという行動自体に相手への愛情が含まれてくると思います。最初は辛かったですよ。僕は話すほうが得意なタイプなので。
■ミッションは一つ、でもそこに向かっている人は多様。だから聴く
―山崎さんは本来はいくらでも話せる方ですよね。社長の山口さんと一緒に組織を引っ張ってこられたので、強い想いもあるし。マザーハウスはビジョンが明確な組織ですから、想いを言い続けるほうが組織としての求心力が生まれるんじゃないかとも思っていました。でも逆に、聴いて相手を受け入れるほうが、組織としての成長・成熟に繋がるということでしょうか。
そうですね。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というミッション、確かにこれは大切な旗印です。でも、ゴールに向かっている人達は全員同じではない。自分を発信していく力と聴く力の両方が必要になってくる。実はウチの組織は、結構面倒なんですよ(笑)。いつもコミュニケーションが発生していて、仕事上のことだけでなく、性格や普段の生活や家族のことまでお互いに知っていたりして。
―コミュニケーションコストが高そうですね。
ええ。そしてコミュニケーションコストが高い会社であればあるほど、ミッションが明確でないと辛いです。逆に言うとミッションを達成するという明確な目的があるからこそ手間暇かけてコミュニケーションする。
―なんのためにやっているかが明確なので、フラットでオープンなコミュニケーションが約束できる。
はい。でも実際滅茶苦茶面倒くさいです、本当に(笑)。
―山口さんや山崎さんといったリーダー層だけではなくて、全体として聴く組織にならなければ、こういう多文化組織は成立しないんだろうなという気がします。
昔は結構大変でしたが、今は僕なんかよりもチーフや店長の方が大変だと思います。現場でスタッフ達に本当に向き合っているのは彼らだから。
■こちらが聴こうとしているスタンスが見えるか
―会社としての成り立ち自体がそうですよね。自分達で新しい国に行っては、聴く行動を重ね、パートナーを探してきた。2020年には遂にパリ店を出されましたね。
ありがとうございます。聴く行動を重ねるというのは、どこの国に行っても一緒ですね。
―どこへいっても現地の方から聴くことをされているんですね。
フランス拠点のトップを雇うために、マザーハウス流の集団面接も実施しました。大事なのは、聴くための場をどう作るかなんです。こちらが聴こうとしているスタンスが見えるかどうか。例えば、フランスのトップマネジメントが求める給与というのは高いわけです。でも、僕らはベンチャーで、とてもそこまでは出せない。だからこそ、僕らが聴くだけじゃなくて、マザーハウスってこんな風に人を大事にしようとする会社なんだとか、そういったことを向こうにも聴いてもらい、共感してもらわなきゃならない。こちらが聴こうとしていることが伝わるように場を設定することで、相手が捉えることも変わってくるんですよ。
■準備はしすぎない、でも準備はする
―場の設定というのは、グループインタビュー形式にしてみようといったことでしょうか。
事前準備なども含まれますね。予めどんな宿題を出しておくかとか。聴くというのはスキルなので、例えば、数多くのインタビューを手掛けてきた宮本さんと同じようなインタビューをしようと思っても急にはできない。だけど、相手にこの人は本気で聴こうとしてくれている人なんだって思わせる準備はできる。
―山崎さんはどんな準備をなさっているんですか。
準備はしすぎない、でも準備はするというのが、重要ですね。その人の記事とか読み過ぎてしまうと、バイアスがかかってしまうんですよ。だから、記事は1つか2つくらいにしておきます。一方で、フェイスブックなどでの直近の動向はしっかり見ていますね。
―最近の興味とか動向とか、そういったより新鮮な情報をインプットするということでしょうか。
■多様な視点から褒める
そうですね。それと、”褒める視点”を色々用意しておくというのは大事ですよね。例えば、今日も、冒頭で僕「このインタビューの企画ってとても面白い」という自分の感じたことと、それから「世の中的にも今聴く力って重要」という話をしてるんですよ。自分としての視点と社会的な視点の両方から褒めてるんです。
―実は最初に凄いテクニックを披露されていたということですね(笑)
準備してやってんだと思われたら嫌ですけど(笑)、わかりやすく言うとそういうことです。
―山崎さんが準備段階から意識されるのって、基本的な情報も多少はインプットするが、それよりも、多様な視点から相手を理解しようとするというところなんですね。
■この人の本当に凄い価値は何か、本気で具体的に考える
ええ。この人の本当に凄い価値は何かを本気で考える。例えば、ウチの社長の山口絵理子がバングラディッシュでものを作ったという経緯についても、皆さん「商品がこんなにあって凄い」と言ってくださるんですが、表層でしか捉えてない人も多いと思うんです。でも先日、ファクトリエの山田敏夫さんと対談をしていて「あれだけの商品を全て思入れのあるメーカーさんとやっていると言いきれることが凄い」という評価をいただけたんです。「本当に工場全部回って、全部自分で見つけたんですか」と。これが具体的に褒めるということなんですよね。裏にある” 本当の凄さ”みたいなものをどうやって本気で具体的に深堀りしていくか。
―ご本人に聴く前に自分なりの解釈をして、それを具体的に言葉にして質問に変えていくということですね。想像力も必要ですね。参加者の方からも質問が来ています。「山崎さんが聴かれて嬉しい、あるいは問われて学びのある質問はどのようなものでしょうか」。
一番は、新しい視点からの質問ですね。今回も、聴く力という新しい視点で呼ばれているのでとても嬉しいです。それから、やっぱり褒められると喜んじゃいます。例えば「こういうとこが凄いですが、どうしてできるようになったんですか」というような質問をされると、どんどん話したくなります。何年、何十年とかけてきた時間を大切に掘り起こしてくれるような接し方をしてもらえると気持ちいいですよね。
―いかに価値を理解するかっていうところですね。おっしゃっていた「人に興味がある」という言葉もそこに集約される気がします。次の質問をさせてください。「経営者として組織を大事にするという目的での“聴く”で、一番大切にされていることは何ですか」。
■大事にしているのはメンバーの個性を理解しておくこと
人は本当のことは言いたいけど言えないという前提があるわけですが、その人の、特徴や個性やオリジナリティといったものを理解しておくと分かってくる面があるんですよね。例えば、この人は悲観的に考えやすいとか、楽観的に考えやすいとか、チャレンジングであるとか、コンサバティブであるとか、突っ走る傾向があるとか、周りに気を使ってすごく心優しい人だとか、そういう個性が少しでも分かっていると、言葉の本意が分かりやすくなる。
―なるほど。人の本質というのは基本的に変わらないけれど、でも都度出てくる言葉は揺れ動きますよね。また、同じ言葉でも人によって意味合いも異なりますし。それらを受け止めながら理解するということでしょうか。
だと思います。でも一方で、人って何かの出来事がきっかけでバーンと変わる瞬間もありますよね。大きな出来事だけではなく、身近なこと、例えば彼女の影響で価値観が急に変わるとか。
―人の本質は変わらないが、でも大きく変わることもある。やはり、一人一人に関心を持ち続けることが大切ということですね。
それぞれが生きている人生の、表層じゃなくて、変化とかそういう深いところまで迫れるかということです。僕のカレッジでも「人生曲線」というものを書いてみたりします。
―その人の人生の波長まで感じ取ろうとするということですね。次の質問です。「聴くときに相手を褒めることを大事にしようと思った理由を教えてください」。
■褒めるとは、その人の存在を理解すること
褒めるというのは、その人の存在をちゃんと理解し、それを言語化することだと思うんですよ。意外と日本人はこれをやってない。褒めていない。ウチの会社は7~8割が女性で、管理職も多く、凄く頑張ってくれるんです。それで「こういうことを頑張ってくれている」とか「凄いと思う」というような話をするのですが、褒められることに慣れていない人が結構多いんです。女性のほうが褒められる機会が少ないんじゃないかと感じますね。それで「良いと思ったことはちゃんと言おうよ」というところから始めているだけなんです。
―インタビューでも、あなたのこういうところが素敵だから話を聞きに来たと、ちゃんと言語化するということですね。
そうだと思います。存在の言語化だと思います。例えば、「マザーハウスカレッジ」でも、その人を呼ぶ意義みたいなものをお伝えするようにしていますし、採用面接でもその人を採る理由って明確に説明できるようにしています。人は完璧ではないですが、誰もが素晴らしいものを必ず持ってるんですよね。その言語化だと思います。
■考える深さと聴く量、両方とも重要
―もし、様々な人の話を聴く機会がなかったとしたら、全然違う経営者になっていたと思いますか。
全然違っていたと思います。こういうのって、直線的に徐々に分かってくるというより、非線形というか、ある時点でいきなりガッと分かるところがあるんです。だからある程度の経験の量も必要だと思います。考える深さと聴く量、この両方が重要ですよね。
■分からないという前提に立てば、できることがたくさんある
―今まで代表の山口絵理子さんとの一対一のコミュニケーションも相当あって、色んな時期を乗り越え関係性を築かれてきたと思うんですが、その辺りいかがですか。
思い出したくないぐらい大変で、語りつくせないですよ(笑)。ケンカもたくさんしましたし。でも、自分と違うタイプの人間と一緒に仕事をしてきたのは、本当に良かったと思います。自分から遠ければ遠いほど多様性に対する対応が拡がるので。
―素晴らしいですね。
多様性でいくと、僕らの代表的な生産地であるバングラディッシュは宗教も文化も違いますから、どうやったら分かり合えるんですかという質問も受けることもあるんです。例えば、宗教の価値は彼らにとっては生きる価値よりも上なんですよね。僕らとは全く違う。分かろうとしても理解しきれるわけがないんです。でも、分からないって前提に立てばできることはたくさんある。
―なるほど。
山口に対してもそうだと思うっています。大切なことは、分かり合えなくても同じ目標を持てること。分かり合えなくても良いんだけど、分かり合えない時に、何をルールにして、お互いの共通点を見出すか。例えば、以前は僕ら喧嘩する度にお互い「辞めてやる」と言いまくっていたんです。でも、人生かけてマザーハウスを立上げて、ここまでやってきたんだから、辞めるわけないじゃないですか。それで「どんなに喧嘩しても良いけど、”辞める”と言うのは止めようよ」と伝え、それをルールにしました。
―分かり合えないんだけれども諦めないでいようと約束したということでしょうか。
そう。その時にやっぱり一番大事だったのは理念なんです。途上国から世界に通用するブランドをつくるっていう理念は一緒ですから、意見が食い違うとしたら、方法論だけなんです。それから、人って優しくない相手には優しくなれないですよね。だから、ぶつかった時は、とりあえずどちらが正しいか間違ってるかじゃなくて、僕から謝るように変えました。喧嘩するというのは余計なエネルギーですし。そうすると、山口も謝るんですよね。
■特別なドラマがある人の人生だけではなく、誰の人生も面白い
―分かり合えなさを前提にするとか、本当のことを言ってないというのを前提にするというのが山崎さんの基本姿勢。だから努めてアクティブに、自分から寄り添うということですよね。今までのお話を踏まえ、最後に聴かせてください。山崎さんにとっての“インタビュー”とか“聴く”とは何でしょうか。
相手の存在を見つけていくこと、そしてそれによって自分が存在したいと思っているっていうことですかね。
―自分を理解したいという気持ちも強いんでしょうか。
それはあるかもしれないですね。色々なストーリーがあって今の自分がいるんです。僕の場合、母子家庭で育ったので、そこに興味を持たれることが多いんですが、むしろ大学時代の恋愛のほうが今の自分に繋がっていると感じます。いずれにしても、人生の中の特別なストーリーだけが面白いわけでも、特別なドラマがある人生だけが面白いわけでもない。どんなストーリーも誰の人生も面白いです。好奇心を持つと良いですよね。
―たしかに、いろんな人の出来事とかを伺っていくと、ふと自分のエピソードと繋がったりして発見があったりしますよね。
ええ。ところで、宮本さん、ちょっと聴かせてほしいんですが、何でこういう企画やってるんですか。面白いですよね。究極のゴールは何なんですか。
―え?私ですか?うーん、多分、聴くということにすごく可能性を感じ続けているということだと思うんですよね。その答えを探す旅に今出かけたところです。
その辺、またぜひ聞かせてください。
―はい。終わりに一言お願いします。
今日参加していただいた皆さん、聴いていただいて本当にありがとうございました。聴くっていう、まだあまり皆が考えていないこの新しいテーマに、どうして自分は興味を持てたんだろうと深掘りしてほしい。それがきっと皆さんのこれからのキャリアや生きていくうえでのオリジナリティに繋がると思います。
―この勉強会のテーマでもある”聴く”に対して大きな意義づけまでしていただきました。ありがとうございました。
*今回のゲスト山崎大祐さんの、情熱と思考をアップデートする『マザーハウスカレッジ YouTube』
https://www.youtube.com/channel/UCw-gwcVVlpR_wFWFhvbhiSg
*毎回豪華ゲストを招いて開催している、インタビューのコツをインタビューするオンライン勉強会「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」はこちら。
https://the-interview.peatix.com/
*当イベントを企画しているインタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の詳細はこちら。
https://the-interview.jp/
(文/近長 由紀子:「THE INTERVIEW」3期修了)
https://note.com/y_chikanaga/n/n1cebb08665b3
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?