陸上競技を考える④
TrackTownJPN
ラジオで新型コロナウイルスの影響でインターハイ、全中という学生の全国大会が全てなくなった話をふれました。小学生の日清カップもなくなってしまいました。ラジオでは小学生の話はしていませんが個人的に担当していた思いれのある大会なので僕のnoteには加えさせていただきます。
僕はサッカー少年ではありましたがエリートとは程遠いレベルだったので全国大会自体がなくなることについてはどう捉えて良いのかしっくりきておりませんでした。
ただラジオで話している中で生島さんの話を聞いて自分も整理がついてきたのですが、全国大会の本大会が無くなることも大きいのですが、もっと大きいのは全国大会を目指すプロセス。つまり、市区町村大会に始まり、都道府県大会、そして全国へという道筋が全て絶たれてしまうということ、これは全ての人に影響がありますね。
自分の経験を振り返ってみると、そういえばサッカーは冬の高校サッカー(通称、選手権)がメインですが、僕の高校は全国目指すような高校だったので、ほとんどの部員は冬まで続けますが、インターハイで区切りをつける部員もいましたし、ほとんどの高校はみんなインターハイで引退でした。
すっごく昔の話で忘れかけてたけど引退が決まった夜は多摩川の橋の下に集結して炭と網持って、みんなで肉焼いて大騒ぎして、僕はしなかったけど翌日から茶髪で登校したりとか色々羽を伸ばしつつ、3日ぐらいしたらそういうのも飽きてきて、だんだん引退したことの実感が湧いてきて、部活がない日々をどう過ごして良いか分からず受験モードになかなか切り替えられず、しばらく腑抜けになったあの節目の日がないということなんだなと。
春休みから練習ができず、新3年生になったばかりでインターハイが無くなるということは、そこで引退を意味してしまうということなのでしょう、と思うと結構キツいですね。
全国大会という点で捉えてしまわずに予選から含めた線で考えると今年でガチの競技生活に区切りをつけようと思っていた人たちにとってはどう区切りをつけ、翌日から茶髪になれば良いんだという気持ちでしょう。当時を振り返るとせっかくなので金髪にしとけば良かったと思っています。
実際どれぐらいの人に影響があるか考えてみると全ての人を陸連登録者で考えると中学生が201,397万人、高校生が114,391万人います。この数字は1年生から3年生ひっくるめた数なので3で割ると中3がざっくり6万人~7万人、高3がざっくり3万人~4万人、ちなみに全国小学生陸上は予選会の参加者は約10万人とも言われております。影響の範囲というとこのぐらいでしょうか。
まず頭の整理として「全国各地で行われる予選会(地区大会?)と本大会をどうするか?」「目の前の課題にどう向き合うかと、これを契機にどうアップデートするのか?」という2つの論点があるかなぁと。
インターハイや全中を経験した先輩たちや、先生方が代わりのものを恐らく考えているはずです。あと、僕が陸連の仕事でも一番興味というか自分のチカラを全力で注ぎたいと思うのは目の前のことも大事ですが10年後、20年後の陸上界の礎を築くようなことをしたいと思っておりますので、これを契機に系のことを最終的に考えてみたいなと思います。
とはいえ番組でも少し話になったように横田さんから西本さんへ、そして僕へというキラーパスが飛んでくる可能性が大なので、目の前の事象に対しても予め頭の中を整理しておきたいと思っています。
特別な舞台の代替は可能か?
予選会にしろ本戦にしろ独特の張り詰めた緊張感の中で競技を行うことも含めた全中、インターハイということの代替はできるのでしょうか。
僕のサッカーの経験ですが、中3の時は7月頃にあった全中の地区予選の都大会出場決定戦で延長戦でまさかの敗退をしてしまいました。本来そこで引退なのですが、高円宮杯というクラブチームと中学校の部活が一緒になったオール中学生の大会の出場権を獲得していたので8月まで引退は引き延ばされていました。ただ、やっぱり全中ほどのモチベーションで取り組めず初戦でボロ負けしてしまいフワッと引退してしまいました。
個人的な経験ではありますが、それだけ全中、インターハイそのものに、年月を積み重ねた価値があるので簡単に代替できるような舞台ではないのではないかと思います。ある程度この現実は受け入れないといけないのではないかなぁと。
TwoLapsのZOOM会議に参加させていただいたことがあり「ゴールデンゲームズinのべおか」(GGN)のような大会を東京で開くことが可能か?ということが話題になりました。
確かに東京でも、お酒ありで、自由度の高い大会を開くことは可能だと思いますが、GGNは地域に根付く旭化成さんの年に一度のお祭りとしても位置付けられている大会でもあります。つまり、お金では買えない価値がある大会なので、中長期的な取り組みが必要なんじゃないかという結論になりました。
インターハイも全中も小陸もじっくりコトコト煮込んだ系の代替のできない積み上げ熟成された価値が大会にあると思います。
安全を担保できる運営ができるか?
あと今の状況でスポーツができるようになっても大勢がひとつの会場に集まって開催するのも当面厳しいのではないかと思います。最悪のシナリオを考えると2022年までソーシャルディスタンスをキープする必要があるという意見もあります。スポーツに限らず、日常生活、学校、職場等の基本的生活が今の感じで続く可能性も大いにあるという状況かと思います。
こんな状況でスポーツをやる為には三密を避けソーシャルディスタンスを保ちつつ、消毒、検温などなど万全の感染防止策を取った正しく恐れる運営が求められるということだと思います。
Jリーグのような興業は別として、サッカーなら試合に出る人22人、主審1人・副審2人・本部2人の5人程度、監督や控え選手含めて40人ぐらいいれば運営できてしまいます。
陸上競技を開催するとなると100人以上の審判・運営スタッフが必要になり、それだけで大掛かりです。あと審判員の方々は割と年齢層高いのでリスクが高いです。少なくとも僕が担当していた大会には多くの方が携わっておりました。OTTでもボランティア含め100人ぐらいいるのではないかと思います。
海外サッカーの事例にはなってしまいますがドイツもイングランドでも日本よりもコロナの状況は悪いにも関わらず先駆けてリーグ再開に動き始めています。
無観客試合が想定で、練習環境もスタジアムの中に限るとか、コントロールできる環境で競技が行われているようです。
という状況から考えても、無観客試合を行った場合でも選手以外にも関係者や競技役員がたくさん集まってしまう陸上競技の運営のやり方はある程度見直さないとコロナの状況下での開催は難しいのではないかと思います。
陸連で大会を担当していた頃もありましたが競技場に朝6:00入りして終わるのが21:00とかもっと遅い時もありまして。まぁとにかく長丁場で大変です。大会終わって1週間ぐらいは疲れが残ります。運営サイドだけではなく父兄の方々や引率の先生方も朝から晩まで会場にいなければいけないのは結構しんどいと思います。実際、引率の方がダウンして救急車を呼ぶことは良くありました。
ちなみに決して陸上競技の運営をディスっているわけではなくて、今のままでも大丈夫かもしれませんが、万が一ダメって言われたときの想定を持っておいた方が良いかな、という意味で書いております。
競技会のあり方を勝手に妄想でアップデートしてみる
競技会の運営の形はほぼ出来上がっているので、なかなかアップデートすることは難しい状況でした。ただ、コロナによってコンパクト運営が不可避な状況であり、運営のやり方を見直す好機でもあると思います。コロナが収束し元通りになるのか、何かしらアップデートされるかによって10年、20年先の未来が変わってくるのではないかと思います。
どう見直すかというとリアルとデジタルで分けて考えも良いのではないかと思います。
リアルの価値
リアルは、その場で凄さを体感することの価値を高めることを重視してはどうでしょう。例えば、砲丸投の日本記録は18m85、世界記録は23m12です。遠くに飛んだとしても20mぐらいの競技をスタジアムのスタンドから観戦したらスゴさ伝わらないのは明らかです。
一度見てみたいと思うのはダイヤモンドリーグのブリュッセル大会の砲丸投です。会場が屋外しかも駅のコンコース?で行われているようです。東京駅の前の広場でやっちゃうノリじゃないかと思います。そんなところで大男たちが、鉄球を投げ合ってたら面白いでしょ絶対。大男が好きなんです。
その他にも、初めて間近で競技を見たのが等々力のOTTです。5000m15分切る組になると選手たちが目の前を通ると風がビューンと吹くのです。スタンドやテレビで観てたらそんなこと気付かないです。遠くから見るとたいしたスピードに見えないんですが、風が来る距離で見るとマジで速いです。こうしたリアルでしか味あわえない感覚を味わう為にはどうすれば良いか?という視点です。
西本さんに長距離の魅力を初めて聞いたときに「強いとか弱いとかじゃなくて、速くてスゴいんです」って視点を教えていただきました。リアルでやる意味の価値はそこにあるんじゃないかと思っています。
そういえば世界陸連も、世界リレーとか世界競歩とか種目別世界大会を開催しているので、世界の流れも個別開催の方向なのではないかと勝手に思っております。
デジタルの価値
一方でデジタルは、中学校の大会には通信陸上という形で、各地で行われた記録を集めて1番を決めるというやり方があります。通信陸上の前は放送陸上といって、1955年(昭和30年)8月にNHKの放送網を利用して日本中の競技場を実況中継で結ぶ「全日本中学校放送陸上競技大会」の名称で開催されていたそうです。その日の夜に優勝者がラジオで読み上げられたようです。
通信陸上で分散された情報を集約して1番を決める。マラソン大会では良くやっている1歳刻みランキングとか、他にも誕生月とか色んな切り口で1番を決めることがデジタルの世界なら作ることができます。ちなみに僕はstravaで近所の公園のコースレコードを持っています。どんなことでも1番はやっぱり嬉しいです。
所謂ゲーミフィケーションをもっと取り入れて、初出場したら、自己ベストが出たら、新しい種目にチャレンジしたら、都道府県大会に出場したら・・・オンラインゲームでやっているようなモチベーションを高めるような仕組みができたら陸上競技はもっと楽しくなると思います。オンラインゲームであるような課金したらレベル上がったりアイテムゲットみたいなものはさすがにできないと思うので、基本課金しないタイプのゲームにはなると思います。
サッカーはじめ相手がいないと成立しないスポーツは難しいですが、陸上や水泳といった記録のスポーツならリアル対戦をしなくても競うことができるのはデジタル時代にぴったりのスポーツではないかと思われます。
ちなみに勝手にそんな1億総陸上競技者的な夢を描いて正直いつになるか先行き不透明ではありますが粛々と構想と開発を行っているのが僕のメインのお仕事でございます。進捗具合をフルマラソンで例えるとやっとマラソンコースの計測が終わったぐらいで、まだ選手がスタートラインに立てておりません(泣)
ただ通信陸上で1番になっても自分ひとりで喜びを噛み締める感じになってしまうので、そこはリアルに劣ってしまうかなぁと思います。ちょっと例えば微妙かもしれませんが、選挙速報番組みたいにあっちの選挙区はどの党の誰が勝った負けたみたいな楽しみ方はあるかなぁと。放送陸上の形式も用いてコンテンツ化すると良いのでないかと思います。ずっとずっと先の未来では全国大会の主催者は、競技運営ではなく速報番組的なところに注力しているかもしれません。
トーナメント選手とリーグ戦、選手権と記録会
アフターコロナで何を残すか的な議論を陸上界に持ち込むと、僕は記録会の重要性を再認識することではないかと思います。
中高生に陸上競技を始めたきっかけとかを聞いたアンケートを取ったことがあります。
陸上競技をやってて楽しいことは「試合に勝って嬉しかった」よりも、「自己ベストが出て嬉しかった」という回答の方が多かったのです。確かに勝てる選手なんて一握りですからね。それはスポーツの面白さであり残酷さでもあるのですが、陸上競技は勝てない子にも喜びを与えられるスポーツであるのだなぁと結果を見て思ったのです。
今サッカーやバスケ界がガンガン進めているのが一発勝負のトーナメント戦ではなくリーグ戦形式の公式戦です。従来の仕組みだと公式戦が年に3回しかないということや、出場できる選手が少ないという問題、弱いチームは3試合しかない。トーナメントだと勝ちにこだわりすぎる戦術を取りがち、とか色々な考えの下にリーグ戦が推奨されています。
陸上にもこれに該当する考え方がないかなぁと思っていたのですが、記録会がリーグ戦的な考えを持てるのではないかと思っております。
陸連にいると◯◯選手権と常に1番を決める大会にしか関わることがありません。強い選手は予選、準決勝、決勝と3レースもできますが、弱い選手は1レースでおしまいです。
でもOTTを経験し、記録会というのは相対的に1番を決めるものではなく、機会も均等、自己ベストを出すことを目的に実施されるものなのだということを知り、ちょっとリーグ戦っぽいなぁと思っております。
記録会なら自分のコンディションに合ったタイミングで参加できるのも良いんじゃないかと。怪我しちゃったから今月はパスして来月の記録会に出ようとか。
選手権だと自己ベストが出ても予選敗退、嬉しいけど悔しいみたいなビミョーな心境だと思います。自己ベスト更新おめでとうなんだけど予選敗退で残念ねってどう声かけてあげたら良いのさって思うのは僕だけでしょうか。
記録会がもっと広がって、ゲーミフィケーション的な盛り上げ方ができるようになると一人ひとり陸上競技を楽しめるんじゃないかと思っております。
まとめると・・・
通信陸上なら記録会的要素を持ちつつ、一番も決められるなぁと思うのです。今の状況からスポーツができるようになるタイミングも全国で差がありそうですし、記録会なら個々の状況に応じて開催ができてることはメリットとしてあると思いますし、1会場に大勢が集まらず、いくつかの会場に分けても開催ができるのでコンパクト運営も実現ができるかなぁと。インターハイや全中の代替は厳しいけれども、そんなことならあり得るんじゃないかと勝手に考えてみました。
ラジオでも話になっていましたが先輩たちや先生方はじめ大人たちが何かできないかと必死に考えておりますので、選手のみなさんは気持ちを切らさずに金髪になれる日を楽しみにしていてください。
お金もったいないのでサポートしなくて大丈夫です。笑