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TVerの開発組織内製化に向けてプロダクトマネージャーがチャレンジしたこと

この記事はTVer Advent Calendar 2024 の参加記事です🤶
前回は@yoshi001201さんの「プロダクトマネージャーとして「普通の施策」を打つことを大切にしている話」でした🎄

開発組織内製化真っ盛りのTVerへの参画

TVerプロダクトマネージャーの松岡です。プロダクトマネジメント部の部長補佐として、UIUX戦略チームとCMSチームを管轄しています。

2024年、「あっ…!!」という間に入社1年が経ちました。早いよ〜!!早すぎるよ〜!!令和ロマンのM-1優勝から1年なんて信じられないよ〜!!今夜もM-1だよ〜〜〜!!(わいわい)

TVerは今やオリンピックも経て月間再生数4.9億回という最高値を更新し、その後も進化を続けているモンスター級のサービスです。
にも関わらず、サービス開発に関わる社内エンジニアは私の入社当時でバックエンド・フロント・QA・インフラ全て合わせてたったの15名程度で、デザイナーは1名もいませんでした。(※広告開発は除く)
長らく外部ベンダーさんにご協力頂きながらあれだけの規模のプラットフォームを運用・開発していましたが、TVerの成長に従い数年前から段階的に開発組織内製化を進めており、今年だけでも10名余りの開発者が増えました。

この記事では、この奇跡のサービス"TVer"の開発組織内製化にあたって、プロダクトマネージャーの視点でやるべきと思ったことや実際に取り組んだことを中心にこの1年を振り返ります。やろうとしてできなかったことや仕掛りのこともありますが、こういうコンセプトでこういうチャレンジをしたよ〜!これが難儀だったよ〜!をまとめる事で、開発組織の内製化や改善に携わる皆さまに少しでもお役に立てたら嬉しいです。
さらなる進化の予感しかない大好きなTVerの開発組織のモメンタムと、良い意味でのカオスな空気感が少しでも伝わりますように!

目指したのは"組織で取り組む"プロダクトマネジメント

この頃、出向社員の帰任など、TVerの立ち上げ期に中核を担われていたレジェンドの離脱が続いたこともあり、組織化・属人化からの脱却は非常に大きなテーマでした。
組織としてのディスカバリー、組織としてのデリバリーにこだわって体制やプロセスを整えることで、個人の能力は活かせども個人に依存はしない、盤石な組織を目指そうと考えました。

ディスカバリー: 「何を作るべきか」を見つける活動。ユーザー課題の発見、仮説の検証、戦略・戦術の検討など。
デリバリー: 「どのように作るか」を実現する活動。実際の開発や運用、リリースまでのプロセス全般。

念の為"ディスカバリー"と"デリバリー"の定義を記載

「スピード」や「品質向上」といった内製化によるメリットを享受する為にも、プロダクトマネジメント組織だけで完結せず、エンジニアやデザイナー、QA等の他職種のメンバーを巻き込み、距離を近づけることも意識しました。開発組織全体がひとつのチームとして"改善"を重ねること以上に、より良いプロダクトや組織を作る近道は無いと思うからです。

"プロダクトマネージャー"と"ディレクター"の合体と再定義

当時、ディスカバリーを担う「プロダクトマネージャー」の組織と、デリバリーを担う「ディレクター」の組織が分かれていましたが、これらを統合し、各役割を再定義するところから始めました。
プロダクトマネージャーは、プロダクト戦略に紐づく専任のMissionとKPIを担い、ユーザーに価値を届けるその瞬間まで一貫して責任を持つよう、業務領域を見直し。
続いて、ディレクターは"テクニカルプロダクトマネージャー”と呼称を変え、各ドメイン(領域)に特化。専門領域毎に最適化された改善・保守運用に注力し、プロダクトマネージャーのデリバリーをサポートする、と再定義しました。

TVerは、多様なデバイス展開や配信・広告関連の3rd partyとの接続、複雑なCMS運用など、深い技術知識とドメイン知識が求められるサービスです。そのため、ユーザーや事業の改善とドメイン軸の運用保守を両立させることで、過渡期に混乱を防ぎつつ、各領域の質とスピードを維持する方針を採用しました。
この方針に従い、各メンバーのスキルや希望を踏まえてチームを再組成。今では新規採用も含めて合わせて20名余りが、日々楽しそうにTVerをより良くするための激論を交わしています。

▼未経験からプロダクトマネジメントにチャレンジくださった技術出身の松村さんの記事

▼9月に入社したばかりの即戦力松本さんの記事

最後のピース"デザイン組織"の立ち上げ

デザイナー0名からのデザイン組織の立ち上げも、最重要事項のひとつでした。
4月にはShikiCheriさんが常駐の業務委託としてでジョイン。デザインシステムの構築・デザインデータの整備などをブルドーザーのような勢いで推進してくださいました。

続いて、6月には悲願の1人目正社員デザイナー、10月には2人目が入社し、チームは順調に増強。パワフルなデザイナーの皆さんが、TVer社内全体に「デザイン」が担う領域の広さや意義を一気に広げてくれました。
今年話題になったTRANSFORMEDにもありましたが、機動的な開発組織の立ち上げにはまず「エンジニアリング」「デザイン」「プロダクトマネジメント」の各領域で組織のハブになるようなリーダーの存在が不可欠です。各領域の"1人目"や"マネージャー"が強固に連携し、同じ理想を目指せる状態になったのは、組織にとって非常に大きな転機になったと思います。

"組織としてのデリバリー"を磨く

開発組織を横断する開発フローの設計

開発フローの整理を行い、特に実装前の要件定義フェーズを重視しました。このフェーズでは、プロダクトマネージャーが設定した要件をエンジニアやデザイナー、データアナリストがレビューし、目的や背景を共有した上で要件を精査できる仕組みを整えました。

開発フロー(一部チラ見せ)

非同期に要件が固められる要件定義DOCSのフォーマット作成と浸透

その為にも必要だったのが、要件定義の定型化でした。
なぜその施策をやるのかというWHY(目的や背景)の整理からはじめ、要件定義に必要な項目を定義。資料化などの不要な工数を下げる為にも、テキストで簡潔に要件や仕様を伝えられる状態を目指しました。

要件定義DOCS

このドキュメントは、施策がリリースされるまで最新情報をアップデートし続けます。「とにかくここを見ればおk」という場所がクリアになったのも、続々新入社員が増えるカオス期においては有効だったように思います。

チケット管理の集約

チケット管理ツールが委託先毎にバラバラだったのも課題でした。
TVeは対応する端末が多いからこそ、ユーザーストーリーや関連PJ毎に各領域の開発チケットを集約し、お互いの進捗を可視化していける運用がエンジニアからも求められていました。

チケット管理ツールの集約

多くの方の協力で、現在はほぼ全てのチケットがGitHubに集約されました。(私はただ集約したいと言っただけ…)まだまだ運用面では磨いていきますが、これにより各進捗管理は透明化され、開発者体験も改善されているように思います。

▼移行にご活躍くださった @t-arai1228さんの記事

ユーザビリティテストの導入による品質の向上

TVerでは品質保証は内製化されていましたが、UI変更が「ユーザーに価値を提供するか」や「理想の操作感を実現できているか」といった魅力的品質の担保は仕組み化されていませんでした。
これだけ多くのユーザーが利用するサービスだと、ほんの少しの改修でも学習していた体験が損なわれてユーザーに悪いサプライズを与えてしまうことがある為、UI・UXの変更差分が大きい場合の実装前のユーザビリティテストは力を入れるべきと考えました。
プロトタイプとテストシナリオを作成し、操作時に達成できないタスクはないか、達成できるが時間のかかるタスクはないかを観察することで、デザイン案の課題を浮き彫りにします。

手元・表情・画面をそれぞれ記録
各ユーザーの課題をマトリクスで整理し、優先度付けを行う

これにより、「思った以上に、実際に使ってみてもらうとわかることがある」「むしろやらないとなにもわからん」という認識を共有できました。エンジニアへのUIや仕様の背景を説明しやすくなったのも良かったです。

実機確認の徹底による最後の品質磨き上げ

デザイン自体の検証とは別に、実機確認の重要性も口うるさく言い続けました。デザインデータ通りに実装されているか、当初目的としていたユーザーバリューを満たせているか、類似サービスと見比べても違和感が無い操作感か、などいくつかの実機確認用のチェック観点を設けました。もし仕様通り・デザインデータ通りだとしても、「ユーザーにとってよくない体験」であればあるべきを求めて恐れずブラッシュアップをしよう、というのも内製チームであればこそできることです。
今は特に注力しているので、担当者だけではなく複数のプロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアの全員で同期を取ってフィードバック会を実施することもあります。TVerとしてのあるべき品質を揃えていくためにもこれは良い試みに思えており、今後はさらに社内のステークホルダーを巻き込んでいけると良いなと考えています。

振り返り文化の浸透

成長する開発組織に欠かせない「振り返り」を各施策やリリースごとのフローに組み込み、プロダクトマネージャーがKPTを実施する体制を整えました。「最強の開発フロー」も「最強のプロダクト戦略」も大抵最初はうまくいかないものですが、振り返りと改善を繰り返すことで強固なプロセスやチームを育てることがプロダクト開発の醍醐味です。以前は施策効果の伝達や進め方の改善が課題でしたが、現在では振り返りが浸透しつつあります。

振り返りはmiroを使ってオンラインで実施

組織としてのディスカバリーを磨く

少しだけ"組織としてのディスカバリー"についても言及します。
TVerはデータ分析に強い会社で、各部門が明確なKPIを持ち、日々のモニタリングや分析ができています。一方、やらなければいけないこと・やりたいことだらけの中、定量データだけを根拠に戦略設計や施策の優先度判断をするのは難しいフェーズにもなってきていました。
そこで、誰のどんな課題を解決するのか、という共通の軸で開発組織全員が会話できるようになるため、プロダクトディスカバリーのための共通基盤が必要だと考えました。

ユーザーインタビューによりインサイトを抽出し顧客像を可視化

TVerでは、利用頻度によって定義されたユーザーセグメントが社内に浸透していましたが、各セグメントのユーザーの定性的な解像度はあまり高くありませんでした。
そこでユーザーセグメントに血を通わせる為、UXデザイナーさんを中心に各セグメントの定義と一致するユーザー総勢16名の総合的なユーザー調査・分析を実施しました。

UXデザイナーさんによる目的整理の資料(すごい)
UXデザイナーさんによるサマリチラ見せ(すごい)

この結果、各ユーザーが日常の中でどのようにTVerを使い、何にニーズや課題を感じているのか、他の配信サービスとどのように使い分けているのか、といった定性的な解像度が上がったのはもちろん、より細かいセグメンテーション軸にも気づくことができ、分析や打ち手の幅が広がりました。
ユーザーインタビューは、共通言語を作る何よりの特効薬なので、その価値を共有できただけでもこの調査には大きな意味がありました。今後は、さらに仮説検証都度や定点的に行っていけるよう、UX調査機能の組織化にも取り組んでいきたいと考えています。

ファネル分析による離脱箇所・ボリュームの把握

データチームの手を借りて、セグメント毎のユーザーの流入から再生到達までの行動を分析することで、離脱箇所とそのボリュームを特定しました。これにより施策優先度の判断が容易になるのと、定性的に出てきた課題の実際のインパクトを脳内で紐付けることができるようになります。

ファネル分析

また、TVerのように多くの端末に対応している場合はデバイスによって異なる傾向にこそ改善機会が潜んでいることも多いため、さらにデバイスカットでのファネルも細かく分析しました。

プロダクト戦略のブラッシュアップ

これらの基礎的な調査を踏まえ、プロダクト戦略をがっつりアップデートし、開発組織や隣接部門に共有をし、アラインをしました。

表紙だけチラ見せ(意味はない…)

同時にそれがテンポラリーになってしまわないよう、各プロダクトマネジメントツールの運用目的や定義も整備しました。

プロダクトマネジメントツールの目的と定義

この記事で戦略内容にまで言及するとお正月になってもアドベントカレンダーを書き終えられないので、これについてはいつか戦略遂行後に答え合わせとセットで発信ができたらいいなと思っています。

すでに大きいサービスの開発組織の変革はやっぱり大変

最後に、難儀だったことにも言及します。

"段階的な"内製化の難しさ

内製化はある日突然スイッチングできるものではなく、正社員の採用と共に徐々に進むので、大抵は計画通りにはいきません。「理想」を描きつつも「現実」も見つめながら柔軟に組織やフローを組み替え続ける必要がありましたが、それがなかなか難しかったです。
当初、スクラムチーム化も目指して全職種横断のチームをMission毎に3チーム立ち上げようとしましたが、エンジニアやデザイナーの頭数が揃わず、難航。チームを細かく分けるのは一旦諦めて、まずは高速にデリバリーを回せる1チームを理想モデルとして検証する形へとシフトしました。もっと現実を踏まえた選択と集中が必要だったな…というのは今年の反省のひとつです。

期限が決まった大規模開発と高速にデリバリーをするチームを両立させるのは本当に難しい

経験上、新規事業 /プロダクトにおける内製開発チームは、比較的教科書通りのアジャイルな立ち上げ方が可能だと思います。
一方、すでに大勢のユーザー・ステークホルダーを抱えている場合や長い運用の中でシステムが複雑化している場合(TVerはその両方)、どこまで小さくやろうとしても、一定度の大規模開発は避けられません。価値提供という意味でも、この規模になると小さなUI改善だけでは大きな数値貢献はできないので、大きなインパクトを狙った開発にチャレンジする必要性も上がってきます。
今年はまさしく夏オリンピックがあり、最重要かつ期限厳守、難易度も高くステークホルダーも多い大規模案件でした。そのQCDを守りながら組織全体でのトランスフォームやプロダクトグロースを両立していくというのは並大抵な事ではありません。実際、私自身もリソースの半分以上は別の大型プロジェクトのマネジメントに取られてしまっており、日々迷惑をかけつつ誰よりその両立の難しさを感じています。

これについては現時点では、①大きな成長を見込む大型プロジェクトの開発チームと、高速に価値を届けるデリバリーチームはリソース自体は根本から分ける②どんなに大きなプロジェクトでも極限までMVPを小さくしてステップを刻む努力を諦めない③経営や各部門とのロードマップのアライン・運用を丁寧にやる、をそれぞれ愚直にやり続けるしかないのかなと考えています。ほかに良いソリューションをお持ちの方がいたらお茶かお酒をご馳走するのでお声がけよろしくお願いします。

まとめ:試行錯誤を重ねることそのものが組織を"チーム"にする

これまでの様々な取り組みを通して、ようやく順調に組織でプロダクトマネジメントができているな、チームで走り始められたかな、というのがこの年の瀬です。まだまだ全然カオスな状態ではありますが、それでも振り返るとこんなにも一年で組織って変わるものなんだなと思います。
ただ開発フローを提示するだけ、ただ体制を組み替えるだけ、で実現できることってほとんどなくて、それらに血を通わせるには一時的に負荷がかかってでもぶつかり稽古をしたり、失敗を恐れず一旦走り切ってみたり、疲れたらとりあえずビール飲みに行ってみたり、といった泥くさい時間が必要なんだなと改めて思いました。
TVerはとにかくめちゃくちゃ優秀で前向きな人が多く、何かを変えようという時にそれをむやみに反対したり足を引っ張ったりする人はいませんでした。新参者が安心してチャレンジをさせてもらえる環境だったことに、改めて心から感謝したいです。

この記事はプロダクトマネージャーとしての視点でまとめましたが、WEBフロントエンジニア1人目入社だった永井さんから見た「内製チーム立ち上げ」もいい記事だったので是非。

2025年は圧倒的なアウトカムにつながる一年へ

2025年、TVerもTVerの開発組織もプロダクトマネジメント組織も、もっともっと進化していきます。色々仕込んでいます。
今年もがきながらも磨き上げた組織力と共通基盤を最大限に活かし、積み重ね始めた「小さな成功」をより大きな成果へ。来年は「TVer、すごい良いプロダクトになったね!」とお声がけ頂けるよう、ユーザーやステークホルダーに価値を高速かつ確実に届けていけるようもっともっと邁進して行きたいと思います。

WELCOME TO TVer!!

TVerは、エンジニア・デザイナー等の各ポジション、絶賛大募集中です。
完成された組織に自身のポジションを探しにいくのも素敵ですが、進化途中の組織で自分でポジションを作りに行くのもめちゃくちゃ楽しいです。開発組織を育てる喜びとカオスを乗り越える刺激を求めているあなた、ご応募お待ちしております。

明日は @_iidesho の 「テレビとTVerと私 2024」 です。ご期待ください!


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