AirPods Dreams
ポンポロポンポンと音を立てて右が聞こえなくなったあと、少し経って左も追いかけるように沈黙した。まだ聞こえる。だけどもう数分間の命。
5年前から使い続けてきたAirPods第2世代。
今朝、充電ケースから取り出したときのLEDランプは緑だったが、今はオレンジ。ただ少し待ってから開けるとまた緑になる。「ほら、まだいけるよ」とでも言いたげに。
きみは覚えてる?
入院していたあの頃のこと。ベッドの上で薄いカーテン越しに聞こえる雑音を消したくて四六時中耳に入れていた。YouTube、Spotify、Netflix、そしてLINE通話越しの友達の声。音が流れて声が聞こえると泉のように沸々と湧き出るネガティブな感情までかき消されて夜が短く感じられた。
眠れない日は芸人さんのラジオを流したまま耳に入れっぱなしで朝を迎えたこともあった。起きて目が覚めるといつの間にか枕の下に潜り込んでいて、白いシーツの上での何度目かの捜索活動を行った記憶をつい昨日のことのように思い出す。
一緒に旅をした。空港のゲート前の固いベンチで音楽を聞きながらレッツノートのキーボードを叩く時間が好きで、搭乗のアナウンスを聞き逃して危うくフライトに乗り遅れそうになった。中国ベトナムカンボジア。異国の地で一人寂しい不安な夜もおかげさまで乗り越えられてきた。
ずっとトモダチ、だが時は経ち、変わりゆく街の中で共に育った。
ふと映画『ロボット・ドリームズ』を思い出す。大都会ニューヨークでひとりぼっちのドッグが出会った友達ロボットとの色鮮やかでかけがえのない日々のこと。
廃盤だしもう買い替えるべきなのだろう。とっくに寿命は尽きている。こればかりは仕方のないことだ。どこか後ろめたさを感じながらAirPods Proの商品ページを開く。ノイズキャンセリング機能がついて形もよりスタイリッシュになっているのになぜかそんなに惹かれない。
うーん。
諦めきれずに再びケースの蓋を開ける。
相変わらず緑のまま、こちらを見上げている。
懲りずにもう一度、耳に入れ、Spotifyを開いてEarth, Wind & FireのSeptemberをタップする。
いつも通りリズミカルで楽しげな前奏が始まり心は踊る。昨日までと何一つ変わらない。でもそろそろ音は途絶える。新しい一歩は踏み出さないといけない。
それが、僕たちの最後の時間だった。
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AirPods 2
モデル番号:A2031
発売年:2019