見出し画像

表裏一体、京都ism

表裏一体、京都ism

作¦豆腐


♀佐々木¦

♂鈴木¦

(ト書きは基本、鈴木役がしてください。)


※これはフィクションです。
──────────────────────────



ジリジリと照りつける日が続く8月
気温も高く、まいる人々が増える季節…
夏の京都は観光客も多く人の群れで溢れかえるほど

お寺や神社などが観光名所になる中
地元民は涼しい顔で観光客をもてなす。


佐々木¦おいでやす。


その一言で異国へ来たかのような錯覚に陥る
誰にでも優しい笑顔を振りまいて接客をする様は
誰もが想像する、『京都美人』


佐々木¦こちらの席へお掛けください。

鈴木¦あ、はい。ありがとうございます。

佐々木¦こちら、お通しとお搾りです。


東京から転勤で京都へ越してきた俺は
観光がてら、食事処へとやってきた。
趣きのある外観に内装を見て
あぁ、京都へ来たんだなと感じられる。



佐々木¦何、召し上がられますか?

鈴木¦あっ、えっと…オススメってありますか?

佐々木¦オススメですか?この時期でしたら
            鱧がオススメですよ。

鈴木¦鱧…じ、じゃぁ鱧のお吸い物と冷酒を…

佐々木¦ふふっ、少々お待ち下さい。


食事処『都』。
昔からある老舗の店らしくネットでの口コミも良かった。
料理が美味しい、接客が丁寧…
色々書いてあったが、一番多かったクチコミは
『佐々木さんという女性店員が美人』であった。

佐々木¦お待ちどう様です。こちら、鱧のお吸い物と冷酒です。1杯目、お注ぎしますね。

鈴木¦あ、ありがとうございます…。


女性特有のしなやかな手つきで酌をされる。
店員さんの胸元を見ると『佐々木』の文字。
この人が噂の…。そう思い顔をあげた。
すると、タイミングが良かったのか悪かったのか
佐々木さんと目があってしまった。


佐々木¦どうかされはりました?

鈴木¦あっいえ!凄くお綺麗だなと思って…!

佐々木¦そら、おおきに。


そう言いながら微笑んだ彼女。
俺は一目惚れなんか信じていなかったが
その時、俺の心に季節外れの牡丹が咲いた…。


(間)


佐々木¦あら、鈴木さんおこしやす。
            また来てくれはったんやねぇ。

鈴木¦はい、ここのお料理凄く美味しくて…。

佐々木¦嬉しいわ、おおきにね。
            とりあえず冷酒で良かった?

鈴木¦はい、冷酒と…今日は肉じゃが下さい。

注文を聞くと奥へ入って行った。
あれから俺は、食事処都の常連となった。
料理目当てと言うのは建前で
本当は佐々木さんに会う為に来ていると言っても過言では無い。


佐々木¦お待たせしました、肉じゃがと冷酒です。
        1杯目お注ぎしますね。

鈴木¦ありがとうございます。


俺がいつも冷酒を頼むのはこの為でもある。
そして、今日は勇気を出して
佐々木さんをデートに誘おうとおもう。


鈴木¦あ、あの。佐々木さん。

佐々木¦はい?どないしはりました?


鈴木¦…あの、今週の土曜日空いていますか?

佐々木¦今週の土曜ですか?空いてますけど…。

鈴木¦ほ、本当ですか!?よければお食事でも如何ですか?

佐々木¦まぁ、ええですねぇ。よろしおす。

鈴木¦本当ですか!?やった…。
         では、12時に京都駅で待ち合わせでお願いします。

佐々木¦分かりました、12時ですね。楽しみやわぁ。


そう言って笑う彼女は凄く美しかった。
それから、いつものように佐々木さんが
『ぶぶ漬けでも如何です?』と聞いてきたので


鈴木¦是非頂きます。


と、答えた。始めは聞き馴染みのない言葉に
何だろう?と思っていたが、お茶漬けの事だったらしい。
頂いてみると、出汁がきいており日によって食材もちがう。正直今まで食べたお茶漬けの中でも此処のは別格だった。


佐々木¦はい、ぶぶ漬けです。

鈴木¦ありがとうございます。凄く好きなんですよね。

佐々木¦そら、嬉しぃわぁ。おおきに。

鈴木¦じゃ、じゃあ、そろそろお暇させて頂きますね…!

佐々木¦えぇ、またおいでやす。


(長めの間)


今日は待ちに待った、デート当日。
待ち合わせに遅れるわけにはいかないので
予定より15分早く着いたが、彼女は既に来ていた。
普段は着物姿しか見る事が出来ないので
私服の彼女を見るのは凄く新鮮で心が踊る。


鈴木¦あ、佐々木さん!すみません、待ちましたか?

佐々木¦いいえ、今ついたとこです。

鈴木¦そうですか、良かった…。早速行きましょうか。

佐々木¦はい。

会話のない静かな時間が続く。お店へ客として話しかける時は、あんなに言葉が出てくるのに。
二人きり、ましてやプライベートとなると
何を話していいのかが分からず…

鈴木¦えっと、佐々木さん凄くおしゃれですね。
         その服とても似合っています。

佐々木¦おおきに。鈴木さんこそ何処で服買いはったん?
            よぉ、におてはるなぁ。ふふっ

鈴木¦ありがとうございます。
         これ、三条大橋の近くのデパートで買ったんです。

佐々木¦あぁ、あそこですか。よろしおすなぁ。


他愛もない会話をしながら、京都の町を歩いて、歩いて…
着いたのは京都駅近くの水族館。
佐々木さんの好みが分からなかったので
定番のデートコースをたててみた。


佐々木¦水族館なんて、子供の頃以来やわぁ。

鈴木¦そうなんですね!俺も小学生以来です。


楽しい時間が刻々と過ぎていく。
水槽を眺める彼女の横顔がとても綺麗で
バクバクと五月蝿い鼓動が耳に届き羞恥にかられる。
俺は、そっと彼女の手を取ろうとするが…


佐々木¦ほら見てん、クマノミ隠れてはるわ。

鈴木¦そ、そうですね…。


タイミングが合わず失敗に終わった。
その後は手を繋げるチャンスも無く
二人でイルカショーを見て、水族館を後にした。


鈴木¦水族館、面白かったですね。

佐々木¦そうやねぇ。

鈴木¦じゃぁ、そろそろご飯でも行きましょう!

(間)


鈴木¦予約した、鈴木です。


ディナーが居酒屋では格好がつかないので
ベタだとは思うが夜景の見えるレストランに来た。
窓側の特等席でついてると思った。


佐々木¦こないなとこ来るなら言ってほしかったわぁ。

鈴木¦あははっ、すみません、サプライズにしようと思って…。気に入ってくれましたか?

佐々木¦えぇ、とってもええとこですね。

鈴木¦よかった…。


フレンチのフルコースが食べられるレストラン
なれないテーブルマナーに苦戦しつつも料理を頂く。
佐々木さんを見ると、慣れているのかとても綺麗に食べていた。あぁ、本当に綺麗だな。そう改めて思わされる。

鈴木¦お、美味しいですね。ここの料理。

佐々木¦そうですねぇ。

鈴木¦今日佐々木さんとデートが出来て良かったです。

佐々木¦どないしはったん?急に。

鈴木¦…確信したんです。…佐々木さんが好きです。
         俺と、付き合ってください。


意を決して告白をした。いい返事を貰えれば。
そう、少し期待をしていた。けれど…


佐々木¦ごめんなさい。

鈴木¦え…?


あっけなく振られた。俺は下げていた頭をあげ彼女を見た。しかし、俺の目に映った彼女の顔は、普段の優しい笑顔ではなく、無表情で冷たい目をして俺を見ていた。


鈴木¦佐々木…さん?

佐々木¦鈴木さん、京都で暮らしていくなら
            もっと京都の文化学んだ方がよろしおす。

鈴木¦京都の文化…?えっと、

佐々木¦それも、京女と付き合おう思たんなら尚更。


京都の文化を学ぶ…?京女と付き合うなら尚更…?
俺は今までと違う雰囲気の佐々木さんに圧倒される。


佐々木¦あんさん、うちの店都を贔屓にしてくれんのはええんやけど、『ぶぶ漬け』いるか聞かれたら、『帰れ』言われてんのに、えらい美味しそうにダラダラ、ダラダラと毎回食べてくれはりますな?


鈴木¦え、それは…


佐々木¦それは、なんですのん?意味知らんかったとか言わはるんちゃうやろな?このご時世、TVでいくらでもやってるやん。京都vs大阪なんて題名で。

鈴木¦いや、ほんとに知らなくて…!

佐々木¦なら、京都の文化1回も調べんと転勤して来はったん?まぁまぁ、かなり仕事のできる方なんやねぇ。
それから、水族館の時、手握ろうとしてきはりましたな。
見られてることも気づかず。きしょく悪い。

鈴木¦きしょく、悪い…

佐々木¦服もデパートで買ったような安い服着て。
ほんまに似合ってると思うん?あぁ、でも値段はお似合いやね。そのセンスだけ無ければ。

鈴木¦佐々木さ…

佐々木¦あと、こういう店来るなら事前に教えて欲しいわ。何がサプライズやねん。単純に女心がわかってへんな。あと、そんな服でここ来れるなんて、えらい図太い神経してはりますな。私恥ずかしぃて、ずっと早よ帰りたかったわ。

何を言われているのかが分からない。本当に目の前に居るのが、あの優しい笑顔を見せてくれていた佐々木さんなのだろうか。俺の中の何かが音を立てて崩れているきがする。

鈴木¦すみません‥そんなふうに思ってたとは知らずに…

佐々木¦もう、店こんとってくれます。

鈴木¦えっ…

佐々木¦出禁になる前に、こおへんのが得策ですよ。

好きな人からの拒絶がこんなに辛く苦しいものだと思いもしなかった。でも俺に、何も無かった様に振る舞うのは無理で。


鈴木¦わかり、ました。


そう答えるしか無かった。


佐々木¦このコース、いくらなん。

鈴木¦え…えっと‥?

佐々木¦一人いくらなんか聞いとるんやけど。

鈴木¦さ、三万円…です。


俺がそう答えると、佐々木さんは
カバンから財布を出しテーブルに四万円を置く。


佐々木¦はい。お金。多めに出しときます。
お釣り入りませんので好きに使って下さい。


そう言って彼女は立ち上がり


佐々木¦短い間でしたけど、おおきに。
        先、失礼させて頂きますね。


と、いつもと変わらない微笑みをみせ、俺の前から消えた。一人残された俺は彼女が置いていったお金を見つめ


鈴木¦佐々木、さん…。


と、彼女の名前をつぶやく。
ぽっかりと空いた俺の心が、何とも言えない虚しさで
胸が締め付けられ、気づいたら泣いていた。


鈴木¦佐々木さん…ごめんなさい…ごめ、なさ‥


その時、俺の心に咲いた牡丹が
ボトリと鳴らない筈の音共に枯れ落ちた様なきがした。




(ED)


佐々木¦表裏一体、京都ism

鈴木¦これにて終局。


いいなと思ったら応援しよう!