夏の信越トレイル2021~Day3(2)~
~おふざけ道中と、ゾーン~
この頃から上に着用していたゴキゲンなアロハシャツを脱いで、タンクトップ1枚、頭にははちまき風に巻いた手ぬぐいといった格好になっていた。
汗の処理が追いつかない。100%ポリエステルのアロハシャツは濡れすぎて風を通さないし、タスランナイロンのバケットハットは頭からの汗を止めてくれず、汗が目に垂れる。
トレイルヘッドの辺りの水瓶で、湧き水を調達した。信越トレイルの水場はどこも痛くなるほど冷たい。
手ぬぐいを濡らして首に巻く。わずかながら、ギラギラの太陽に抵抗してやるのだ。
あと15km、まぁ行けますよ!
私は強がり9割くらいでそう話していたと思う。
淡々と黙々と歩いていく。平坦で歩きやすい道が続き、クルージング気分だ。
余計な会話しようもんなら「ゾーン!」と戒められる。
そんな雰囲気だった。
私達は集中してキマっている時間を「ゾーン」と呼び合っていた。
道中ずっとおふざけモード。ゾーンと呼び合うのもおふざけの一つ。
Take it Easyの精神だ。
高田純次だ。
朝からいい男ですみませんね。
しかし今回は本当にゾーンのような境地に踏み入れていた。
熊鈴の音色は錫杖を連想するほど綺麗でリズミカルだ。
歩みに合わせて鈴が鳴るのか、鈴に合わせて歩いているのかわからなくなる。
意識が鈴の音と山に溶け込んでいく。
そのため、この区間の写真は1つもない。
しばらく歩くと、休憩所が見えた。
動画やブログなどで見どころとして紹介されている休憩所だ。
先頭を歩いている仲間の
「はあぁああ気持ちいいいいいい」
の声を聞いて、私も続いて休憩所へ飛び込んだ。
汗でTシャツの色が変わっている。
疲労困憊でもユーモアは忘れない。
まずはジョジョ立ち風
お次はなぜか範馬勇次郎のような立ち姿をリクエストされた。
後ろで構えているのも範馬勇次郎だ。
リクエストした張本人を見ると、怪訝そうな顔をしている。
ちくしょう。やらせたのに滑ったみたいにしやがって……コノヤロー
この休憩所は風がよく通り抜けた。熱くなった身体を冷ましてくれた。
「もういっそここにテント張って一晩過ごしたいなぁ……」
仲間達とそんな話をした。
夜になったら夜景が綺麗だということが想像つく風景だった。
~幻の自動販売機~
休憩ばかりしていても仕方ない。
私達はテント場まで歩かなければならないのだ。
ここからは林道歩きが続き、人工感ある道が続いた。
歩きやすい。人の手が加わっているなぁ。
歩きやすいだけで感謝の気持ちが湧いてくる。
QOL爆上がり中だ。
途中、峠に出てそこそこ交通量がありそうな道へ出る。
バス停があるとのことで、私達は
あるかどうかもわからない自動販売機を夢見た。
コーラあるかなぁ、三ツ矢サイダーもいいなぁ。
自動販売機があるなんて情報はどこにもない。
だけど、夢見て歩いていた。
~はじめてのナイトハイク~
……
………
自動販売機?当然なかった。
道の端っこを借りて夕食をとった。
時刻は17時。
残り7km
何をトチ狂ったか、私は「7km、あと1時間半くらいかな」
と言っていた。当然1時間半で着くわけもない。
私達は歩く。
キレキレのダンスをしながら歩いた。
それはもうキレキレだ。
キレキレすぎて、ネタ元とは全く異なるダンスとなっている。
とにかく歩いた。
時折キレキレのダンスをしながら。
林道を登り続けると、田園風景が広がる。
広大な土地を全身で感じる。
水場を見つけて補給した後、時刻18時半。
また登山道の入り口だ。
各々ヘッドライトを装着して入る。
少しずつ暗くなっていく中、歩き続けた。
熊の気配や道迷いに気をつけながら、歩いた。
そうしていると辺りは真っ暗になる。
森の中を慎重に歩き続けていると、街灯のような明かりを見つける。
またロードに出るようだ。
ヘッドライトの明かりだけで舗装路を歩く。
気分はStand by Meだ。
頭の中で、例の音楽が流れていた。
希望湖周辺の観光スポットとなっており、よく整備されているハイキングコースへと戻る。
そしてダンスをする。
こいつら、元気だ……。
思わず笑う。
ハイカーはふざけているくらいが丁度いい。
素の状態でこれ見てもこんなに笑えないんだろうなぁ。
なんで面白いんだろう。
ランナーズハイならぬ
「ハイカーズハイ」だ。
【箸が転んでも面白い】そんな状態だろう。
見上げると、ものすごい数の星と、まんまるに強く光る月が浮かぶ。
奥には妙高山などが見える。
目的地までどれくらいだろう。
距離をこまめに確認して、一歩一歩目的地まで近づいていることに喜びながらテント場まで歩いた。
整備された湿原地帯は水が豊富でとても涼しい。
到着時刻は22時。
先客が2張あり、私達は静かに設営をして、そそくさとテントに入った。
今日は疲れた……。足は虫刺されで腫れているし、筋肉もパンパンだ。
股は汗のかきすぎなのか汗疹みたいになっているし、腕は日焼けで少しかゆい。
それでも歩けたのは、あのキレキレのダンスがあったからなのかもなぁ。
朝の5時から22時まで。
今日の行程はこれにて終了。
光ヶ原高原キャンプ場から赤池キャンプ場まで31km、今日はよく歩いた。
タバコを1本吸って横たわると、あっという間に深い眠りについた。
この日は朝まで目覚めることがなかった。