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社会参加がフレイル予防の鍵に:6万人の高齢者を追跡した大規模研究が明かす意外な事実
高齢者の社会参加とフレイル予防に関する興味深い研究結果をご紹介します。
竹内らが2023年に日本公衆衛生雑誌に発表した「高齢者の社会参加とフレイルとの関連:JAGES2016-2019縦断研究」という論文では、28市町村の約6万人の高齢者を3年間追跡調査し、社会参加とフレイル発症の関連を検証しています。
参考文献:竹内寛貴, 井手一茂, 林尊弘, 阿部紀之, 中込敦士, 近藤克則. (2023). 高齢者の社会参加とフレイルとの関連:JAGES2016-2019縦断研究. 日本公衆衛生雑誌, 70(9), 529-543.
研究者たちは、9種類の社会参加活動を調査しました。具体的には、ボランティア、スポーツ、趣味、老人クラブ、自治会、学習・教養、介護予防、特技・経験の伝達、収入のある仕事です。
主な結果は以下の通りです:
社会参加の効果: 老人クラブを除く8種類の社会参加活動に参加している高齢者は、参加していない高齢者と比べて、3年後にフレイルになるリスクが低くなりました。
参加の多様性の効果: 参加する社会活動の種類が多ければ多いほど、フレイルになるリスクが低くなる傾向が見られました。
最も効果的な活動: 調査した活動の中で、スポーツ活動への参加が最もフレイル予防に効果的でした。スポーツに参加している高齢者は、参加していない高齢者と比べて、フレイルになるリスクが20%低くなりました。
最も効果が小さかった活動: 介護予防を目的とした活動への参加は、フレイル予防に効果はありましたが、他の活動と比べるとその効果は最も小さいものでした。
老人クラブの特殊性: 老人クラブへの参加は、一般的にはフレイル予防効果を示しませんでした。しかし、プレフレイル(フレイルの前段階)の高齢者に限ると、老人クラブへの参加がフレイル発症リスクを低下させる傾向が見られました。
この研究で特に興味深かったのは、老人クラブと介護予防に関する結果です。
まず、老人クラブについてです。研究では9種類の社会参加を調査していますが、老人クラブだけが一般的にフレイル予防効果を示さなかったのです。しかし、注目すべきは、プレフレイル(フレイルの前段階)の高齢者に限ると、老人クラブへの参加がフレイル発症リスクを低下させる傾向が見られたことです。
この結果は、老人クラブが持つ独特の特性を示唆しているかもしれません。老人クラブは比較的参加のハードルが低く、すでに少し機能が低下し始めている高齢者にとって、適切な活動の場となっている可能性があるのです。つまり、健康な高齢者にとっては物足りないかもしれませんが、プレフレイルの方々にとっては、まさに「いいさじ加減」の活動となっているのかもしれません。
次に、介護予防を目的とした社会参加についてです。一般的に、介護予防活動はフレイル予防に直結すると考えられがちですが、この研究では意外な結果が出ています。介護予防活動への参加は確かにフレイル発症リスクを低下させましたが、その効果は他の社会参加(スポーツ、趣味、ボランティアなど)と比べて最も小さかったのです。
この結果は、フレイル予防には意図的な「介護予防」よりも、日常的で自然な社会参加の方が効果的である可能性を示唆しています。スポーツや趣味活動などは、楽しみながら自然と体を動かしたり、人と交流したりできます。そうした活動の方が、高齢者の心身の健康維持により大きな影響を与えるのかもしれません。
これらの結果は、高齢者の健康づくりに関する私たちの常識を覆す可能性があります。フレイル予防のためには、画一的なプログラムよりも、個々の高齢者の状態や興味に合わせた多様な社会参加の機会を提供することが重要なのかもしれません。
高齢化が進む日本社会において、このような研究結果は非常に貴重です。今後の高齢者福祉政策や地域づくりに、こうした知見がどのように活かされていくのか、注目していく必要がありそうです。
ご指摘の通り、この研究結果は「自然な形での社会参加」の重要性を示唆していると考えられます。これを踏まえて、以下のような私見を追加してみましょう:
この研究結果から浮かび上がってくるのは、高齢者の健康維持において、「健康」を直接的な目的とせずに自然に行われる社会参加の重要性です。介護予防を目的とした活動よりも、スポーツや趣味といった楽しみを主目的とした活動の方がフレイル予防に効果的だったという点は、非常に示唆に富んでいます。
これは、高齢者の健康づくりにおける「健康との距離感」の重要性を示唆しているのではないでしょうか。つまり、「健康になろう」と意識して行動するよりも、楽しみや生きがいを追求する中で自然と健康的な生活が実現される方が、結果的に大きな効果を生む可能性があるのです。
このアプローチは、近年注目を集めている「ウェルビーイング(Well-being)」の概念とも合致します。ウェルビーイングとは、単に病気でないというだけでなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指します。楽しみや生きがいを追求することで達成されるウェルビーイングの状態が、結果として身体的な健康ももたらすという考え方です。
例えば、趣味の園芸サークルに参加する高齢者を想像してみましょう。彼らは土を触り、植物の世話をし、仲間と交流することを楽しんでいます。その過程で、自然と体を動かし、新鮮な空気を吸い、ストレスを解消し、社会的なつながりを維持しています。彼らの主目的は園芸を楽しむことですが、結果として身体活動、精神的な満足感、社会的交流という健康的な要素を日常に取り入れることになるのです。
このような「自然な形での社会参加」を促進することが、高齢者の健康づくりにおいて重要なアプローチとなるかもしれません。健康だけを追求するのではなく、生きがいや楽しみを通じてウェルビーイングを達成し、その結果として健康も手に入れる。こうした健康との距離感が、持続可能で効果的な高齢者の健康づくりにつながる可能性があるのです。
今後の高齢者福祉政策や地域づくりにおいては、直接的な健康増進プログラムだけでなく、高齢者が自然に、楽しみながら社会参加できる多様な機会を創出することが重要になるでしょう。そうすることで、高齢者がより豊かで健康的な生活を送れる社会の実現に近づけるのではないでしょうか。