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「第1回呆然戯曲賞自由」候補作品・短評
「ペインフル・スマイル」 53P
「荒野にて:文明が滅んでも滅ばなくても、退屈はあるし、やることはない」 77P
「農耕民族史B最終‟遠隔”講義」 63P
「ミッションインエントランス」 24P
「サカナの居る風景」 39P
「信仰、未知と差異のデマゴーグ」 73P
「ある日」 51P
「ころやろう」 57P
「踊れない」 51P
「おとなりさん」 42P
「距離」 46P
「留守番」 49P
第1回呆然戯曲賞、作品を応募することはできませんでしたが、せめて投票をと思って、全応募作品を読みました。今回、Twitterでの投票により入賞作品が決まるとのことで、できるだけ相対評価の精度を高めるために、事前に評価項目を定め、読んだ印象を数値化しています。
言うまでもありませんが、作品を評価するということは、その評価能力を問われるということでもあります。なので、まずは今回ぼくがどのように作品を評価したのかを明らかにしておきます。
評価項目の立て方は以下の通り。
技巧・技術 満40P
サプライズ 満50P
読みやすさ 満10P
合計/100P
「技巧・技術」
戯曲の構成や人物造形、イメージのつむぎ方やつなぎ方などを含みます。基準点を20Pとしたので、配点は非常に辛口だと思います。
「サプライズ」
これは一般的には独自性とかオリジナリティを問う部分だと思うのですが、考えてみると、オリジナリティを問うためには当然まず評価者が全ての表現物に通じてなきゃ不可能です。なので、ここでは正直に「ぼくにとって独自性=サプライズがあったか」を評価しています。類似した作品をぼくがすでに知ってれば低くなるし、その逆もあります。その程度の評価しかできない評価者であるということです。
「読みやすさ」
これは個人的にぼく自身が今noteで戯曲を一つ書こうとしていて、その参考にさせてもらえばと思って項目を立てました。読みやすい工夫がなされているかが評価基準です。ただPDFでアップされているものは当然読みやすいので、評価高めです。そこに不公平感はあるかもしれません。
※応募作品のうち、ササキタツオさんの「ペインフル・スマイル」を最初に読んだため、この作品のポイントが全作品の基準点となっていることを明記しておきます。
以下、作品ごとの短評です。
評価するという視点で書いているので、どうしても上から目線に見えてしまいがちですが、逆に評価能力を評価するつもりでお読みいただければ幸いです。
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作品名 ペインフル・スマイル
作者名 ササキタツオ
技巧・技術 20P
サプライズ 25P
読みやすさ 8P
合計/53P
しりとりで会話が進んでいくところが面白かった。制限がかけられることで饒舌になれる、という点で。でもそれが単発の発想に終わってしまったように思った。また、上演を前提にするなら、てにをはの「は」は、「わ」としてしりとりに組み込むべきだと思った。
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作品名 荒野にて:文明が滅んでも滅ばなくても、退屈はあるし、やることはない
作者名 がらくた宝物殿
技巧・技術 33P
サプライズ 35P
読みやすさ 9P
合計/77P
面白かった。「文明が滅んだあと荒野となる」というイメージの不自然さを指摘する冒頭から、視点をズラすことで生まれるとぼけた面白さが癖になる。でも途中出てくる「警察」という単語には違和感を覚えた。警察機構が現存するとなると、そこから現代社会との差違の大小を想像するから、荒野を舞台とする面白みは削がれてしまう気がする。また、カゲヤマ気象台『シティⅢ』との類似性がどうしても気になって、サプライズを5P下げた。
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作品名 農耕民族史B最終‟遠隔”講義
作者名 ありがとう高橋
技巧・技術 28P
サプライズ 30P
読みやすさ 5P
合計/63P
このタイプの作品は、作者がどんな言葉やイメージをぶつけ合って、その結果どんな化学反応が起きたかというのが肝になると思っている。そういう読み方をした。ただ農耕民族史としては読めなかったので、誤読の結果の評価である可能性はある。
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作品名 ミッションインエントランス
作者名 イーアイオー
技巧・技術 10P
サプライズ 10P
読みやすさ 4P
合計/24P
正直、短すぎることもあって作品から何を受け取っていいか分からないという点を踏まえて、この評価です。この助走からどこへテイクオフしていくのかを読みたい。
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作品名 サカナの居る風景
作者名 高山遥
技巧・技術 20P
サプライズ 15P
読みやすさ 4P
合計/39P
風景スケッチとして読んだ。なので、これがたとえば寓話や隠喩を企んでいるものであれば、そこは全く読み取れていない状態での評価です。誤字や表記の揺れが気になって、読みやすさを低く評価した。
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作品名 信仰、未知と差異のデマゴーグ
作者名 宮澤大和
技巧・技術 35P
サプライズ 30P
読みやすさ 8P
合計/73P
作品中のカッコ書きの部分だけをト書きとして、その他はすべて発話するという前提で読んだ。詩的なことばとステレオタイプなメロドラマとのぶつかり合いで、何かが劇的に生まれた、ようには残念ながらぼくには読みとれなかった。
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作品名 ある日
作者名 プン
技巧・技術 20P
サプライズ 25P
読みやすさ 6P
合計/51P
このタイプの作品は、2人の挙動をどれだけ綿密に描き出すか、その細部こそ全てであると考えている。口数が少ない中で、彼らの動きを丁寧に作りあげていたのが良かったと思う。
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作品名 ころやろう
作者名 雪つららきの
技巧・技術 25P
サプライズ 28P
読みやすさ 4P
合計/57P
作品全体の構成が精度を欠いているように思った。たとえばこの物語を煮詰めて半分以下の長さにすれば、俄然輝きだす気がする。勿論そのためには相当な技術が必要になるとは思うけれど。
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作品名 踊れない
作者名 川村祥太
技巧・技術 20P
サプライズ 25P
読みやすさ 6P
合計/51P
男がダンサーであることが、この作品にとって幸福なことだと思えなかった。理由のひとつとして、語りすぎというのは言えると思う。語った後に踊るけれども、その踊りに語った内容以上の意味を、ぼくは想像できなかった。
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作品名 おとなりさん
作者名 小松礼於
技巧・技術 18P
サプライズ 20P
読みやすさ 4P
合計/42P
この物語のアウトプットとして朗読劇が最適な表現形式だとは納得することができなかった。また、語り過ぎることで、観客が物語に参加する余地がつぶされている気がした。作品の長さとしては、個人的には今の3分の1くらいが最適じゃないかと思った。
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作品名 距離
作者名 isawa
技巧・技術 20P
サプライズ 20P
読みやすさ 6P
合計/46P
スケッチまたは助走として読んだ。作品には必ずしも「物語」が必要だとは思ってないけれど、それでも、この先にある何かを提示してくれることを期待した。
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作品名 留守番
作者名 きだたまき
技巧・技術 15P
サプライズ 30P
読みやすさ 4P
合計/49P
時空を歪ませて成美の人生をうっすら浮かび上がらせるという企みは面白いと思った。でもそのための手段が強引すぎるとも思った。たとえば、ファミレスで女子高生が見ず知らずの男に自分の不倫をペラペラ喋りだすのは何故なのか?そこに説得力が欲しい。
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以上の評価により、がらくた宝物殿さんの「荒野にて:文明が滅んでも滅ばなくても、退屈はあるし、やることはない」に投票します。