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【遅咲き桜の蕾が開く時】第一話 出会い

あらすじ

佐々木 桜は地方都市に住む36歳。
一度東京で就職したが失敗し、地元に帰ってきて小さな会社で事務員をして3年目になる。

子供の頃から内向的な性格で、母親の方針で学業に趣きを置く学生生活を送った。
なので人との関わり方がよくわからず、友達と呼べる人物もいない。
いわゆる生き方が不器用な方。

仕事と家の往復で出会いもなく、このままでいいのかと不安を感じた桜は、勢いでマッチングアプリを入れてみる。
そこで知り合った一回り以上年下の大学生、リョウと関係を持つ。
リョウと関係を持った事で自分の中の感情に気づき、否が応でも自分や現実と向き合っていかざるを得なくなる成長の物語。


第一話 出会い

「初めまして。マッチングありがとうござい
 ます!大学生のリョウと言います。
 良かったらお話ししたいです。」



普段、音沙汰の無い無機質な自分のスマホが、キラキラと光り見たことの無い通知が、待ち受け画面に現れている。
初めて見たその姿に、機械が自分の意思で発光している様で目を疑った。


いつもの昼休み。
空気の入れ替えをしようと窓を開けると、気持ちの良い春風が穏やかに流れ込んできた。
職場に事務業務を担当する人間は、佐々木桜しかいない。
課長と営業部の男性陣4人は出払っていて、ほぼ毎日事務所で1人仕事を任されている。小規模で運営されている今の職場は働き始めて3年目で、桜にとって居心地が良かった。


スマホを持って、廊下を小走りし慌ててトイレの個室へ駆け込む。
1人でいられる空間でも誰かの目線を気にして、スマホを胸辺りに近づけてそっと通知画面を開いた。


相手は昨日勢いで入れたマッチングアプリの人だった。


初めてのマッチングアプリ。
使い方もよくわからず、促されるままプロフィールを入力し、自分のアカウントページを作成した。


すると興味を持ったと思われる2、3人の男性から「いいね!」という評価をもらった。
警戒心の高い自分。
でもせっかく評価をもらったんだし、とその中から小学生の時好きだった人と同じ名前…リョウという人物がいたため、いいね返しをしてみた。



そうしたら個別でやり取りができるようになり、相手からメッセージが来たため戸惑っているという訳だ。
びっくりしつつも、マッチングアプリはこういう仕組みなのか、と昨日は流し見した相手のプロフィールをちゃんと見に行く。
年齢…21歳、大学生。
今年36歳になった桜は驚きを隠せなかった。



「ふぇ〜、本当に大学生だ…」



アイコンの写真を見て感嘆の声を上げた。
20代前半の男性に今流行りの黒髪マッシュの髪型に、韓国のアイドルの様な艶々とした肌。黒を基調としたファッションはスッキリとまとめられていて、男性らしい重量感のあるピアスとペンダントのアクセサリーがアクセントとなり、おしゃれ上級者に見える。
桜の日常には決して交わることの無い人物だった。


テレビの街頭インタビューやYoutubeに出てくるような今時の大学生。
出会いに溢れていそうな、若い大学生でもマッチングアプリをするんだな、と思った。


職場と家の往復というルーティン化した変化の無い日常に、男女の出会いは皆無に等しい。
たった少しの行動から知らない人と連絡を取る事になるなんて。
出会いを求めるとはこういう事なのか、と桜は実感を持った。


「初めまして。桜といいます。
 プロフィールの年齢にも書いてありますが
 私は36歳です。
 あなたのお母様の方が年齢が近いかも
 しれません。
 何故メッセージをくれたのですか?」


便座に腰掛け、真面目一辺倒な言葉を打つ。
少し震える指が画面の上を滑っていく。
気が利く言葉の一つも書けず、こんなんで相手から返信は来るのだろうか。
でも率直な疑問しか聞けなかった。




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