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上司の器

「悠さん、今日は自身の決断を話してくださってありがとうございます。
これまで沢山の葛藤があり、言いにくかったと思います。
本当に寂しいですが…。
悠さんの新たな道を応援します。
あと数ヶ月、楽しみながら一緒に頑張りましょう!」

退職を申し出た日の夜、上司からこんなLINEが来た。

ありがとうございます、って。
私の勝手な都合だよ。
その後の人事とかやることが増えて大変になるのは上司なのに。

彼が今の立場にいる理由がわかった。

彼と私は同期。
そして彼は私の9歳年下。

14年前、
私は31歳で中途入社し、
彼は22歳で新卒入社した。

それからお互い様々な経験をし、異動や昇格が巡り巡って、彼は私の上司になった。

彼は声が大きく、よく笑い、人に好かれるナイスキャラ。
成果も上げていたし、彼が会社で評価されていることは納得できる。

だけど彼が私の上司になったときは、とても抵抗があった。
私は9歳年下の同期に評価されるんだ。

だけどそう思ったのは始めだけで、実際に仕事をするうちにそんなことは考えなくなっていた。

彼がいつも私のことを尊重してくれていることが伝わっていたから。

9歳も年上の女性の部下、さぞかし使いにくかっただろうと思うが、良いことは褒め、注意すべきことはしっかりと言ってくれた。

そんな彼に退職の意思を伝えたとき、くれた言葉がこれだ。

彼はいま、とても忙しい。
彼の近しい人が人事異動で他部署に移ってしまったために、その人の分の仕事までやっている。

なのに私が辞めるなんて言うもんだから、それをまた上に伝えて、私の後任を誰にするか決めて…ってまたさらに忙しくなってしまう。

なのに、私にこんなLINEをくれる。

器が違う。
今の立場になるべくしてなった人だ。

私は、私を一番尊重してくれた人に、一番迷惑をかけることになる。

せめて。
せめて、会社に伝えて去ろう。
最後の上司が彼で良かったと。


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