総裁選否定は民主制の否定

まずタイトルを補足したい。
「(議員による)総裁選否定は民主制の否定に等しい」ということだ。

「否定」というのは、文字どおりの意味で使っている。
これに加え、民主制に求められる手続きの軽視や民主制への脅威という意味でも、「否定」と捉えている。

二重基準

「病が蔓延し、その解決の糸口も示しづらい中であるのに総裁選とはけしからん」という議員がいる。
少々、現状に沿うように表現の修正はしたが、趣旨としては軌を一にした表現だろう。

たしかに、総裁選の場合、党内での選挙であるから、総裁公選規程の取り扱いを党内で調整して、任期の延長という選択も無いこともない。
そうとはいえ、実際問題、何を緊急とみて、どの程度延ばすのかなど、相当程度の慎重な議論が必要だろう。現実的でないのは、およそ確かだ。
また、病の対策に注力すると出馬しない意向を示された菅首相がいるのだから、他の議員が選挙運動をしていようとも問題ない。
仮に菅首相が出馬したとしても、病の対策という目線で見るなら、問題はない。

そういった指摘をする議員も、衆議院選挙を見据えた発信をしているし、地方にも足を運んでいる。
病への対応は与野党関係ないだろうし、総裁選がダメで衆院選や地方演説が良いという理由もない。
だからこそ、野党であっても、行政官をお呼びしてヒアリングを行っているということだろう。
それがあることによって、たとえ重役が別の取り組みに時間をとられても、問題なく病への対応もできるということなのだと理解する。
それは野党自身が自明していたはずではないのか。
そこを否定すると、野党自身も苦しい立場に置かれるだろう。

ここで重要なのは、衆院選や地方演説が問題なのでなく、病を理由に総裁選を否定する人の行いではないだろうということだ。

民主制の堅持

総裁選は、党内の規則に基づくものであり、その規則を守るということは民主制の根幹だ。
それを問題視するのはいかがなものか。
むやみに延長したり、党員・党友の投票を省くなどは、問題視せざるを得ない。

この点で言えば、前回、なぜか党員・党友の投票を省いたことはよろしくなかったと思う。
そして、これによって、なぜか「フルスペック」という呼び方も出てきてしまった。
本来、党員・党友票を省いていなければ、そうした言葉が生まれるはずがないのだ。
それに加え、「フルスペック」という言葉によって、あたかも省くタイプも当然にあるといった印象にもなり得る。

多様な意見

また、動画内では、党内で意見がまとまっていないことが問題とされている。
たしかに野党は意見の対立によって、現状、バラバラになっているから、その点では整合性は取れた発言だろう。
ただ、綱領などに理解を示す議員であるならば、細かな政策に相違点があっても、同じ党で良いだろう。

むしろ、全く同じ意見の者しかいない場合、政策のバラエティは富まないし、磨かれもしない。
さまざまなバックグラウンドを持って、さまざまな知識を蓄えた議員がいるからこそ、意見の違いが生まれ、漏れのない政策ができるのではないか。
かつては安倍前首相一強だと問題視していたのに、今はバラバラと問題視するのはいかがなものか。

野党共闘?

それらを考えれば、理由はどうであれ、綱領の異なる政党が、ただ自民党から政権を取りたいがために共闘することに違和感を感じざるを得ない。

たしかに、自民党から政権を奪うという共通の目標はあるにせよ、共闘した先が問題だ。
仮に政権を取れたとして、政策の擦り合わせは上手くいくのか。
選挙ではなく、立法などの場面で建設的に共闘して、対案を示すなど対抗することは何ら問題ないだろう。
それは一致点が大変よく限られており、非常に重要な大枠には当たらず、そうした取り組みは1つのテクニック・知恵とみると良い。

野党第一党の政策

野党の姿勢について話をしているので、付け加えて政策について触れたい。

野党第一党の立憲民主党は、9月のはじめに「#政権取ってこれをやる」ということで、第一弾となる公約を発表した。
見出しを見て、正直驚いた。

はじめに発表する公約というのは、その党が一番にやりたい、アピールしたい、肝いりの政策だと思う。
なぜならば、一番に言いたいことが「それ」だということだからだ。

そこで発表されたのは、次のとおりだ。
一部、私の方で趣旨に反しない程度に表現を変更している。

1.補正予算の編成(現在課題の病の緊急対策・少なくとも30兆円)
2.現在課題の病の対策司令塔の設置
3.2022年度予算編成の見直し
4.日本学術会議人事で任命拒否された6名の任命
5.外国人死亡事案における監視カメラ映像及び関係資料の公開
6.「赤木ファイル」関連文書の開示
7.森本・加計・「桜」問題真相解明チームの設置

1.~3.は通常想定される政策だ。
1.について言えば、現在なぜか繰り越された予算が30兆にものぼっている。
これは不思議な問題で、医療・国民生活・経済保障へ適切にお金がまわっていないことを意味する。
各府省庁が請求しなかったということだろう。
予算をつけるのも大変だろうに執行しないとなると、あとの予算にも響くかもしれない。
そのことから、公約にある額面どおりの繰り越しがあるので、まずはこれを使いたい。
その上で、必要なら、インフレ率などの諸情報を加味して、追加で適切な量の赤字国債を財源として良いだろう。
それにしても、本当に不思議だ。
基本的に制限と保障はセットと考えるのが自然なのだが、「要請」という括りなので「協力金」などとして支給しているのが現状だと思う。
もちろん、「持続化給付金」「家賃支援金」などといって、制限と対にならない形で給付している面もある。
「特別定額給付金」の効果はあったわけだが、一番は雇用を守らねばならないので、企業を通じて国民生活を守るという軸足があるのが今の政策だと言える。

さて、4.~7.はどうなのか。

明らかに自民党を意識しての公約だ。
言葉を変えれば、半分以上は政策というよりも、事務手続きだ。
公約では、自らの政党が「どのような国家観を持って、どのような国にしたいのか」を示してほしい。

日本学術会議の任命については、国内軍事はダメで、外国軍事はよろしいという姿勢に難色を示した結果だろう。
もっとも、スクープによって明らかになったので、内々でのチェックなどが至らなかったのかもしれない。

森友の問題は、地面にゴミが埋まっていることを知りながら、安く入札にかけなかったことが問題だ。
そこに安倍前首相の夫人や自民党の議員と接点があっただけに疑惑が生まれたのだろう。

そして、「赤木ファイル」も、当時の理財局長が国会答弁で不正確なことを言ったがために、答弁に合わせて修正させられたとみる。

加計の問題は、医学界隈の考えで、近くに獣医学部がなければ設置してよろしいということになったことから、加計が当てはまる。
他に名乗りを挙げたところは、準備が不足していたということもあるだろう。

5.と「桜」問題については、詳しくはよく分からないので、何とも言えない。
ただ、自民党を意識した記述であることに違いはない。
意識の先にあるべきは自民党ではなく国家・国民だと思う。

野党4党の政策合意

次期衆院選で訴える共通政策に合意したというニュースも、9月はじめに流れた。
その一部を私が勝手に箇条書きにしてみた。

・平和安全法制、特定秘密保護法、改正組織的犯罪処罰法(共謀罪)などの違憲部分廃止
・現在課題の病に乗じた憲法改悪に反対
・核兵器禁止条約の批准をめざす
・辺野古新基地建設を中止
・科学的知見に基づく現在課題の病の対策強化
・エッセンシャルワーカ―の待遇改善
・最低賃金引き上げ
・税と社会保険料の見直しや富裕層の負担を増加
・日本学術会議の会員を同会議の推薦どおりに任命
・再生可能エネルギーの拡充による原発のない脱炭素社会を追求
・ジェンダー平等の視点から家族制度、雇用制度などの法律の見直し
・議員の男女同数化を推進
・森友、加計問題などの真相究明
・日本学術会議の会員を同会議の推薦どおりに任命

平和安全法制のときも、特定秘密保護法のときも、改正組織的犯罪処罰法(共謀罪)のときも、「戦争の足音が」「迂闊に居酒屋で喋れない」などと言われていた。
しかし、今、日本に武力衝突はないし、言論が委縮したということもない。
たしかに、居酒屋で喋れないという現状はあるが、上に示した法律が影響してのことではないのだ。

多くの野党議員は憲法改正をしたくないとみて良いだろう。
以前までは「安倍政権下での憲法改正反対」と、「この政権だから嫌なんだ」と言っていたのだが、今度はこう言っている。
現在課題となっている病の対策は、非常にギリギリと考えて良いだろう。
空港での措置、時短命令・過料、緊急事態宣言・蔓延防止措置などは、憲法でギリギリのラインでの実施だ。
「ロックダウンはどうか」と今でも話題になるが、これは憲法改正しなければできない。
多くの人の私権を法的に強制力を持って制限することになる。
先日のアフガンも、憲法の問題と言える。
自衛隊法では、数年前のあの喧騒の中、「相手国政府の同意」「その場所が安全であること」が示されたことも大きい。
今回の場合は、相手国政府の不在(あるいは相手国政府と認めて良いのやら状態)、邦人保護なのだからその場所が安全とは言い切れないものだった。
そこを超法規的措置で、判断に時間がかかったものの自衛隊が向かうことができた。
自衛隊は法律にあることはできるが、ないことはできないため、常に何条を使って動くかを考えねばならない。
それも現行憲法に反しないように自衛隊法も書かれているし、現行憲法だからこそ、そうした「できると書いたことだけできる」という状況にある。
また、憲法を改正せずとも、ロックダウンにせよ何にせよ「公共の福祉でできるだろう」という意見もあるが、これは危ない。
これを一度許すと、平時でも何か都合がつかないときに、道理を飛ばして大きなことをしかねない。
そもそも、こうした憲法の課題は、以前から指摘されており、平時にやっていなかったことが不味かった。
ましてや、自民党の政権が長いにもかかわらず、党是としてきた自主憲法制定を、これまでできなかったことに責任はあるだろう。
一応、国民投票法の整備といった一定の成果はあったにせよ、国民の中で憲法改正の議論がはじまってもいない。

最賃の引き上げは、中央最賃審議会・地方最賃審議会の答申によって決まってくる。
その意味では、審議会が方針を打ち出せば、それまでなのだが政府による適切な経済や事業などの政策で後押しが必要だろう。

社会保険料の話をすれば、これは今後も増えていくだろう。
「消費税を社会保障に充てます」と、不思議な話があるのだが、これは不適当だ。
消費税は目的税ではない。
社会保障の財源に課題があるならば、社会保険料で賄うべく、適切な料金を定めるに越したことはない。
そう考えると、消費税をこれ以上上げるという理由もなさそうだ。

再生可能エネルギーは、安定的な電力の供給や一定した電圧などを慎重に検討しつつ推進して良いと思う。

家族制度は、父が働いて、母が家事・子育てをしてというものは見直されて良いと思う。
それどころか、今は両者が働かねば、大学生なら子も働いて学費を払わねばならないような世帯がある。
これは政治の力で経済を強くして雇用を守らねばならない。
ただ、家族制度そのもの、それを取り巻く考え方などは大切にしたい。
それは、ある意味において、扶養内で女性の所得を守る面もあるからだ。
女性の社会的地位は、徐々にではあるが改善されて行っているように見える。
また、同時に性別に関係なく、子育ても無理なく行える所得があるように改善が必要だ。
ジェンダー平等を言うからには、この改善が確実なものになったとき、扶養内などにも手を付けることになるのではないか。

総裁選の意義

総裁選実施はマストであることに違いはない。
その上で、総裁選の意義もある。

総裁選では、各候補が自身の政策を発表する。
ここで政策に対立があっても、冒頭で示したとおり、党の綱領で一致している議員同士なのだから、問題はない。
むしろ、さまざまな視点での政策があったり、対立があったりすることで、それぞれの政策がもまれていく。
そうすると、誰か1人が総裁となったときに、「この政策は良かったな」と他の候補者が言っていた政策でも取り入れるだろう。
そして、他の候補者を内閣や党のポストに置くことも考えられる。
これによって、より多様で豊かで磨かれた政策の恵みを国民が受け取ることができる。

各候補者の主張を聞いてみると面白い。
それぞれ何に興味があるのか、具体性はあるか、どれだけの認識を持っているのか、国家観はあるのか、どんな国にしたいのか、さまざま見てとれる。

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