スポロレが8カ月で2本買えた話_その2
東京メトロ24時間券
1月も終わりかけの頃、予定していた仕事が前日に吹っ飛んでしまい昼間がぽっかりと空いた日があった。「よし明日は東京メトロの1日乗車券を買ってできる限り正規店をまわろう」という会社にバレたら即クビになりそうな、アホみたいな決意をして翌日の服装を選んだ。とりあえず自前の服で一番高見えしそうなコーデにしてみた。セールで買ったグレーのコート、メルカリで買ったマルジェラのセーター、パンツは黒GAP、そして昔三田のアウトレットで買ったサンローランのシンプルな黒スニーカー、腕時計は25年前の小ぶりなシーマスター、そして10年前に海外通販のセールで格安で買ったマルジェラの黒トート。腕時計以外は全部セール品やメルカリだったが、一応小綺麗にまとまった感じで落ち着いた。ちなみに、私は普段から自由な服装が許される仕事です。普段スーツの方はそのままでいいと思います。男はスーツを着てるだけで15点アップする、とよく言われますよね。誰が言ったかは知らないが、言われてみればそんな気がする。
そして翌日、会社を抜け出し東京メトロ24時間券を握りしめて「どうせならいちばん相手にしてくれなさそうな直営店から行こう」とM的な思考で中央区にある老舗百貨店に向かった。久々に降りる駅、初めてのその百貨店のフロア、いい予感がまったくしないまま正規店のフロアに着く。高揚感も緊張感もいっさいなかった。もう傷つく準備はできている。午前11時半過ぎ店に入った。
扉は開かれた
店内には私のほかに客はいなくて、少数の店員だけだった。「へぇ、こんな空いていることもあるんや」とぼんやりしてたら、「なにかお探しですか」とスッと現れた若い男性が声をかけてきた。「あ、あの。サブマリーナのノンデイトを探してるんです」と告げると「在庫確認してきますね」と言い残して消えていった。たぶん30秒くらいしたら再登場してお馴染みの「あいにく~」が始まるのかなとぼんやり考えながら空白の多いショーケースを眺めていた。あれ?通常ならもう出てきてもいい頃なのにいつもと違う。相変わらず客は自分だけ。「もしかして俺のこと忘れてメシでも行ってたらどうしよう」とか「もしかしたら、もしかする?」と「いやいや」をグルグルと繰り返していたらやっと件のスタッフが戻ってきた。4、5分待たされただろうか。「お客さま」と彼が私に言ったとき、店の奥から自民党の西村議員に似た年配の店員が私たちのほうに向かって、指でOKサインを出した。
「来たぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」と心の中で叫んだが必死で平静を装いスタッフの言葉を待った。
「奥のお部屋にどうぞ」店員の声に導かれて壁に向かって歩いた。すると壁だと思っていた場所が左右に開いた。扉の向こうは店舗のサイズからは想像できないくらい広い部屋と大きなソファーセット。案内されるままに硬すぎず柔らかすぎないソファーに座り、しばらくすると、うやうやしくトレイを両手で持った店員登場。トレイには小さな膨らみが確認できる。
「これが噂に聞いてたトレイとアレを隠す布だ」脈がやたら速く強くなっていることがわかる。緊張して手汗が出てくるし、口の中は渇いている。「こちらになります」店員が布をハラリとめくる。ついにご対面!!ガラス越しじゃないロレックス。夢にまで見たスポロレ。狙ったとおりのサブマリーナノンデイト。「着けてみます?」とスタッフが聞きながら時計を差し出してくれたので、「いいですか?」と手に取ってはみたものの、初めての本物のスポロレだったので開け方すらわからない。恥を忍んで「これどうやって開けるんですか?」と尋ねると、笑顔で教えてくれました。
今日は1日かけて東京中のロレックス正規店を巡回しようと決めていたのに、一店舗目で買うことができた。この上ない満足感を味わいつつ、ズボンの左ポケットに入っていた東京メトロの24時間券を取り出して「これ買わんでよかったな」と思う自分につくづく貧乏人根性を感じた。
つづく