まだ香る彼の匂い
「俺と別れてから元気になってきたから俺のせいだったのかな?」
大好きだった既婚上司と今日、久しぶりに同乗した。関係を絶って1年経ったかな。理由も告げず、会いもせず、フェードアウトするつもりだった彼。そんな態度に逆上して「裏切り者」「偽善者」などと吐き捨てた。今年に入って奥さんが3人目を出産。「3人目欲しい」と職場の人に話していたのをこっそり聞いた。本当に作ったのだと愕然とした。最後に嫌々会った日か、会うのを初めて拒否した日か。あの辺りだなと気付いてしまったら、憎しみが溢れてきた。貰ったものを全て捨てた。処分に困る大人の玩具を腹いせに送りつけてやろうかと思ったが堪えた。代わりに「処分してください」とメモを添えて彼の車に放置した。最後の嫌がらせだった。処分したのかはわからない。その後ラインで嫌味を言ってしまった。
その後は彼に関わらないようにした。そうしたら「本当に好きだったのか?」「もう1人の上司の方が好きだったのでは?」と疑問が出た。その問いに私は「もう1人の上司の方が好きだった」という結論を出した。気付いたら既婚上司のことなんてどうでも良くなっていた。出産祝いを職員でお金を出し合って渡した。お返しはなかった。そういう人なんだ。思っていたよりも酷い人だったんだ。こんな人を好きだったんだ。そう思った。
今週、体調が悪かった。同乗の予定はなかったが、代わりに配達するよりも同乗した方が上司が助かると急遽決定。「最近体調少し安定してきたようで良かった」あんなに酷いことをしたのに私にこんな言葉をかけた。「真面目すぎ、全力投球すぎ」「大事な時のために力を抜いておけ」「ちゃんと寝れてるか?」もう私のことなんていいのに。心配しなくていいのに。そして最後にあの台詞。「minちゃんが具合が悪かったの俺のせいだったのかな」返事ができなかった。
私は確かに彼が大好きだった。でも依存の恋だったと気付いた。2回目の食事でいきなり関係を持たずに、普通の恋人(とはいかないのだろうけど)から始めれば良かった。この人ではなくもう1人の上司の方が好きだったのではという考えも、この隙間を埋めるための依存ではないかと気付いた。
久しぶりの2人の時間。何もなかったかのように話せた。楽しかった。この記事を書いている最中に泣きそうになるくらい。関係は3年続いた。私が告白し、彼の同情でスタートした。気持ちが最初からズレていた。始まってすらいなかった。配達が終わり、事務所への帰り道、そして帰着後。世界が開けたように明るかった。気分が良かった。最近、自分が自立しつつあるのかなと思う。本当は2人とも忘れるべきなのだろう。でも既婚上司のことがまだ好きだと自覚してしまった。また戻るつもりはない。けれど以前よりお互いを尊重して、これから初めて私の片思いがスタートする気がする。
彼の心地良い体臭が今日もまだ香った。私の好きだった匂い。「minちゃんって香水つけてる?」彼に以前言われた言葉。つけてないですと答えると「いい匂いがするからつけてると思ってた」と言われた。いい匂いのする相手は相性の良い相手。彼と一緒だったときに調べた。まだ香るということは私に未練があるのかな。彼もまだ私の匂いがするのかな。でも今は全部忘れて、諦めて。人生どうなるか誰にもわからないから。ふとした時に、欲しかったものがぽんっと手に入る時もあるから。