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七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句
第442回 死者らは狂う(ディラン・トマス)
Though they go mad they shall be sane,
Though they sink through the sea they shall rise again;
Though lovers be lost love shall not;
And death shall have no domination.
(死者らは狂うが、若者らは正気になろう。死者らは海に沈むが、再び戻るだろう。恋人らは失われるが、愛は失われない。そして死はもはや支配力を持たない)
ウェールズの詩人、ディラン・トマス(Dylan Thomas, 1914~1953)の「そして死はもはや支配力を持たない(And death shall have no domination)」から。死によって現世の罪が贖われ、純化されたものだけが残る。そのとき、人は死から解放される。
この詩は、新約聖書のなかの「ローマ人への手紙」第6章9節、<キリストは死者のなかから甦り、もはや死ぬことがなく、死はもはやキリストを支配しない>を踏まえている。
トマスは第一次世界大戦が始まった年に南ウェールズの海沿いの町で生まれた。作家の父はグラマースクールで英文学を教えていた。トマスは16歳で学校を離れ、リポーターになる。その間、戦争詩に関心を持ち、オーエンに心酔した。10代で掲出の詩を書き、この詩を含む第1詩集『18Poems』で華々しくデビューする。そこからアングロ・ウェールズ文学の第一人者となっていく。