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七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句

第443回 落下の雪に道迷ふ(太平記)

落下の雪に道迷ふ、交野(かたの)の春の桜狩り、紅葉の錦を着て帰る、嵐の山の秋の暮、一夜を明す程だにも、旅寝となれば物うきに、年比(としごろ)栖み馴れし九重の、花の都をば、これを限りとかへりみて、
※ 交野は桜の名所
 
 『太平記』巻二の「俊基朝臣(としもとあそん)再び関東下向の事」から。後醍醐天皇の忠臣、日野俊基(?~1332)が鎌倉幕府に対する謀反の疑いで捕らわれ、関東へ召喚される。その道中を描いた一節は名文として名高く、「道行文」の到達点とされる。
 日野俊基は藤原北家の末流の公家で、後醍醐天皇の親政に参加した。1324年の正中の変で討幕を計画した疑いをかけられるが、無罪となった。1331年の元弘の乱で再び逮捕される。今度は死罪を免れないと覚悟して、京都から鎌倉に向かう。そして葛原が岡の刑場で首を刎ねられた。
 全40巻の『太平記』は、1318年の後醍醐天皇の即位から足利2代将軍義詮の死までの半世紀を描写した軍記物語。作者や成立時期は不明。後醍醐天皇の崩御までの前半部分は14世紀半ば頃には編纂されていたとみられる。
 

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