七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句
第444回 エレーヌへのソネ(ロンサール)
Quand vous serez bien vieille, au soir à la chandelle,
Assise aupres du feu, devidant et filant,
Direz chantant mes vers, en vous esmerveillant:
《Ronsard me celebroit du temps que j’estoit belle.》
(ある夜、灯火の影で年老いたあなたは、暖炉のそばで糸を繰り、紡ぎながら、私の歌をふと口ずさみ、驚いて言うでしょう。「美しかった頃の私をロンサールが愛でてくれたのに」)
ルネサンス期フランスの詩人、ピエール・ド・ロンサール(Pierre de Ronsard, 1524~1585)の「エレーヌへのソネ(Sonnets pour Hélène)」から。1578年の作。老境のロンサールが、皇太后カトリーヌ・ド・メディシスの美しく聡明な侍女エレーヌに寄せた恋情。その思いは屈折に満ちている。
ロンサールは1550年に発表したオード4部集で高い評価を得て以来、宮廷詩人として君臨した。近代フランス詩のもっとも基本的な平韻12音節詩句を確立し、ヨーロッパ第一の詩人と仰がれる。そして、古代の『イリヤッド』に比肩する国民的大叙事詩の創作に挑んだが、庇護者シャルル9世の死により未完に終わる。
アンリ3世の時代になるとロンサールは宮廷を離れ、故郷に近いサン・コームの修道院にひきこもった。そこで自身の全集の刊行をめざし、過去の全作品を読み返し、手を加える日々を送った。