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ストーカーは脳の病気

 本書には、3名のそれぞれタイプの違う加害者が登場する。

40代前半の独身OL。元カレへの「執着型」ストーカー

最初に登場する加害者は40代前半の独身OL。本書はこの女性を「執着型」と分類する。「執着型」は、元恋人など親密な人間関係が壊れた時にストーカーになるケースだ。この女性の場合、年上男性と知り合い交際に発展するが、後に男性が既婚者だったことが判明してストーカーに変貌した。

 女性は、相手男性に迷惑メールや電話を執拗に続け、「奥さんを殺す」と脅した結果、男性から訴えられ1000万円近い慰謝料を請求された。しかしこのケースでは男性にも問題はあった。普通なら、既婚者と判明した時点で別れる道を選ぶ女性は多いだろう。

 そこで本書に登場する女性カウンセラーは、この女性にこう尋ねる。

「あなたは(相手男性から)離れようと思ったんだっけ?」

 すると女性はこう答えるのだ。

「思わなかったですね。そこなんです、問題は。離れ方っていうか、人との別れ方を知らないんですよ。今の今まで。私は」

 別れるという選択肢がないため、ストーカーになるしかなかったというのだ。本書では、著者と女性カウンセラーが、この女性の心の深部にある闇を鋭くえぐり出す様子が収められている。そして著者は、この女性の特徴を以下の8項目にまとめた。本書ではそれぞれについて詳細な説明があるが、ここでは項目のみを紹介する。

1. いつも何かに脅えている
2. 好きだから相手を試す
3. 優位に立ちたい
4. 情が深く激しい
5. 人間不信である
6. 被害妄想が激しい
7. 怒りのスイッチが入りやすい
8.「生」に対しての執着が無い

50代後半の男性。同僚への「求愛型」ストーカー

2人目の加害者は、50代後半の男性で分類は「求愛型」。ちょっとした知り合いがストーカーになるケースだ。この男性の場合は、会社の同僚女性に一方的に好意を抱き、電話で何度もデートに誘い、メールでプロポーズを繰り返すなどを行った。女性から告訴され、裁判で執行猶予付きの有罪判決を言い渡された。

 自分の行為について著者から言及されると、「私も(相手を)苦しめてしまったと思います」と反省の言葉がこぼれ出る。しかし「プロポーズをまたしたいと思うか」と問われると、「打ち解けて話ができるようになったらもう一度したい、幸せな家庭を築きたい」「誠意は伝わるはず」と答える。つまり、相手から自分が疎(うと)まれていることは、この期に及んでも認識できていないのだ。

 著者がまとめたこの男性の特徴は以下の通りである。

1. 何事にもこだわる 
2. 粘着質の性格 
3. 一途な性格 
4. 思い込みが激しい 
5. 被害妄想が激しい 
6. 不安や不満を持っていない 
7. 怒りのスイッチが入りやすい 
8. 孤立している

30代前半の女性。芸術家への「一方型」ストーカー

3人目の加害者は、30代前半の女性で「一方型」という分類だ。加害者と被害者は面識がないケースが多い。この女性の場合は、ファンになった芸術家に一方的に関心を寄せ、迷惑メールだけでなく相手宅へ押し掛けるほどのストーカーとなった。

「いったい相手に何を望んでいるのか」と著者が問いただす。すると女性からは意外な答えが返ってくる。

「相手に対して何かを求めているというのは、ほとんど無いです」。

 芸術家を自分の中で理想像に作り上げ、その理想像にアピールすることが生きがいになっていた、というのだ。危険を感じた芸術家が引っ越しをしたため、自宅へ行くことはできなくなった。その心境を問われると、「逃げてくれて、助かった」と女性は答えた。

筆者がまとめたこの女性の特徴は以下の通り。

1. 考え方が幼な過ぎる
2. 相手を美化し過ぎている
3. 相手に何かを求めるという気持ちはない
4. 困らせてやろうという感情はある
5. 繋がっていたい
6. 自分がやっていることをよくわかっている
7. 自分の行動を止められない

「ストーカー病」は治療が必要な脳の病気

加害者たちの心理や思考に、ある種の病理性が潜むことを察知する。

① 確固たる心理的動機があり、正当性を妄想的に信じ込んでいる
② 相手を一方的に追いつめ、迷惑をかけて苦しめていることをを自覚しながらも、相手に好意を持たれる望みをかけている
③ その望みが絶たれた、心のバランスは憎しみに反転し、自殺または相手を殺害することもある

危険度は高中低に渡るようですが、いずれにおきましても、精神医学の専門用語を用いますと、「見捨てられ不安」「しがみつき」「理想化と脱価値化」「不適切な激しい怒り」……といった「境界性人格障害」の診断基準に合致するでしょう。この障害は「慢性的な空虚感」「衝動的な行動」「自我同一性(アイデンティティ)障害」などに特徴づけられる人格障害です。

相手を脅迫したり傷害をあたえたりしつつ、自らもリストカットや大量服薬のような自傷行為を行い、時には自殺企図を行います。殺人・自殺まで至るハイリスクな事例はまさにこれに相当するでしょう。

軽度の場合は「自己愛性人格障害」、すなわち「誇大性」「賞賛欲求」「共感の欠如」といった特徴を呈する人格障害と考えられます。

この障害は「自己愛」を優先するため、相手を傷つけながら、自分は傷つかないよう、巧妙・狡猾な計算を行います。高知能・高学歴であることも少なくないため、社会的に成功している人物にも認められます。

しかし背景には「脆弱で孤独な自己」「自己肯定感の低さ」が隠れています。弱くて寂しい自分を受け容れられないため、相手に誇示することで自尊心を満たすのです。恋人や妻へDVを行ったり、部下や女性へパワハラ・セクハラを行ったりすることもあります。

いずれの障害も、あらゆる精神障害に共通する「遺伝×環境」の因子によります。不安・焦燥・抑鬱・憤怒などを生じやすい気質と幼少期からの親子関係の不全です。特に指摘されているのは、「心身の虐待」「過保護・過干渉」といった不適切な親子関係です。

境界性人格障害の場合は虐待のような明らかな「暴力」を受けて育ち、自己愛性人格障害の場合は過保護・過干渉のような「条件づけの愛情」のもと育てられたケースが多いようです。

精神医学ではにおいて、人格障害 (劇的群、感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的、ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込む) と分類され、福祉領域では「アダルト・チルドレン」(機能不全家族、家庭内不和にて育ったため、成人後も様々な心的外傷を引きずり、心身・行動の問題を生じやすい)と定義されています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcl/55/3/55_471/_pdf/-char/ja

携帯電話やインターネットの普及によって、ストーカーの行為も多様化しています。誰もがストーカーになりうる、被害に合いうる時代になりました。
どうすればストーカー被害に合わないようにできるか、
自分の身は自分で守る視点が必要と著者は警笛を鳴らしてくれています。

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実るほど頭を垂れる稲穂かな