さ
頭のなかで行進する言葉は列を成さずに進み、涙ばかりが流れて筆は一向に進まず、みじめにちぢれた文字がいくつか並ぶだけの余白の残る便箋を何度も読み返し、光と同じく音より先に届けようと思う、もしも届いたなら、なにもかもが書かれた白い余白を読み取ってくれるだろう、うつむいた顔は目のなかに何も映さず、電話が鳴って初めて声のことを思い出す、届いた声は光より先にわたしに知らしめる、耳からすべての原子へ伝わる、たった10音程度の手紙、地球に張り付いた両足のこと、熱すぎるスープのこと、やけどした舌、なくしたイヤリング、言いたかったあらゆること、呼びたかったあらゆる名前、忘れてしまったきみの声も、いまだ何もかくことのできないわたしが、キャンバスの前で受け取る、行ったことのない海のはたで、ない音をたどって何も言えなかったこと、いつだって打ちのめされている、きみのたった一言で。