祈りのスープ(2015.10)
空が赤く染まり、街と溶け合おうとしている、晴れ渡った日のおまじない、鳥よ飛べ、風よ起これ、わたしたち夢をみている
知らないふりをしていても日の丸はいつも天高くわたしたちを照らしており、そうすればどこへだってゆけるのだった、おそろしさ、恥ずかしさ、忘れないでわたしたち、ひとつになってこわいこと全部飲み干してしまおう
夢のはなしはガラスケースに押し込んだ昔の金メダルに似ている、紙でできたいびつな丸に金色の色紙が貼り付けてあって、それを何度も発見するたび、捨てられないものばかりが増える、きっと夢をみていて、いまなお夢をみていて、あなたはきっといつまでも夢を
大人びた顔で口をもぐもぐと動かし何かを食べながら乗り込んでくる高校生の見つめる先は真っ直ぐ、下へ落ちることなく注がれており、その視線を辿る前に車両は途切れ、わたしの意識は遠く 遠く 遠く
きっと間違っていない。と告げるのは遠くまで飛べた鳥たちの声、いつも選択を迫られることに慣れずにいる。ことしも秋はゆるりと知らぬ間にやってきて、間違うことなく山々は色づき、銀杏の葉があなたの頭上を照らす、小指で触れたみたいに力なくけれど確かにあなたのそばにいた、秋は、季節は、だれにも教えられずともわたしたちにやさしい 肌寒い朝に重なる声のメロディがわたしの細胞をゆっくりと目覚めさせる、あなたもきっとこんな気持ちで生きていてくれたらいい、生きてくれたならと、これはきっと祈り、自己完結的な、目の前に差し出されたスープに唇をつけてわたしの身体、こんなにも冷たくて柔らかい。