サナトリウム
薬瓶から消毒薬の匂いが、ツンと匂う。それが、彼女の匂いに近付いている証拠であった。
夜しか開かない木造の古びた病院、そこの一室に彼女の居場所があった。
ひび割れたコンクリートを踏みしめながら入り口を入り、空っぽの受付を抜けて、待ち合い室の椅子の列を横目で見ながら、入院棟と書かれた札の下をくぐる。
心地よく軋む病棟の廊下を歩き、薬瓶の並ぶ鍵のかかった部屋、かしましい声だけ響くガラス張りの、姿の見えないナース達のためのナース室を抜け、廊下の角を左に曲がると突き当たりに彼女の名前の書かれた部屋が見えてくる。
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