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冬虫夏草

もう長いこと結晶化したままの心臓から、ある日小さな新緑が芽吹いた。

別段気になる程の変化では無かったけれど、私はなんとなくそれを暫く観察することにした。すぐにでも引っこ抜いてチャコールグレーのカーテンの向こうに投げ捨てることも出来たのだけれど。

芽吹いた緑は、如何やら蔓性の何かで、日に日に大きくなり増えていく葉はアイビーに良く似ていた。
でも、ただ、似ているだけ。

そこいらの土や木々の幹に巻きついている緑のどれを見ても、心臓を覆う、透明の水晶の様な塊の隙間から、無理矢理生えてきたそれと全く同じものは見当たらなかった。

蔓は心臓の周りだけでは窮屈になったようで、肺を埋め、肺胞の隅々まで行き渡って、時折、私が煙草の煙を吐く時に喉奥から、ひゅるりと身体の外に這い出しては、また体内へ舞い戻っていった。

肺なんて窮屈な場所じゃなくて、それを覆う肋骨の中を埋めればいいのに、とぼんやりと思いながら、紫の空を泳ぐ鯨の群れを目で追った。

もうすぐ昇る月の裏で、コペルニクスやガリレオ、ケプラー達の崇高な座談会を盗み聞きする準備をしながら、結晶化した心臓と、愛すべき身体の一部となった蔓植物を取り出しては、眺め、心地よい視覚の飽和を得た後、また身体に押し戻した。

右手が半透明に夜に溶ける頃合いに、シナモンとローズレッド、アールグレイを、私にとって最適な比率で混ぜ合わせ、ゆっくりと抽出したそれを、氷で出来たカップに注いで、月の裏で秘めやかに始まった座談会に、そっと聞き耳を立て始めた。

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