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梅雨の夜

ゆらゆらと空気が揺れるのを、唯見ている。
降る予定だった雨は今日一日一滴も降らずに、空気中の湿度を飽和状態にしていた。

五月雨は清々しい紺碧をしていたのに、此の所の嫌に重苦しい雨は、濃度の高い青紫色で、目に写る風景にアザを作るように降り注いだり、降るわけでもなく、ゆらゆらと亡霊の様に視界を遮ったりしている。

濃度の高い空気のせいで、重力がいつもの数倍になった様で、空気に含まれた水分が細胞の隅々まで入り込んだような錯覚に陥る。

このまま、細胞の中の水分まで、飽和して弾けてしまえば良い。そうして分子へ、分子から原子へで、私が、解体されてしまえば良い。

そうして、バラバラになった私だったモノたちが、四肢だったモノたちが、声だったモノが、思想だったモノが、何処へ行くかを見届けたい。
大気へ溶けるのか、土へ帰るのか、そこから私だったモノの痕跡は、消え去るのか、残るのか、はたまた存在の概念からの解放を得るのか。

唯、この脳で、目で、思考を失う前に、見たい。
それが叶うのであれば、恐ろしい苦痛が伴っても構わないとすら思える。

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