記号
音の多い場所が嫌いで、人の多い場所も、色彩の多い場所も嫌いだ。情報処理に疎い脳味噌が何もかもを処理し切れずに、雑踏に足を絡め取られるような気になって、歩行すらままならなくなる。
暗いレンズのサングラスで光を遮断し、耳を塞いだイヤホンから適当な音楽を、何もかもをかき消せるような音量で流す、そういえば以前、久方ぶりに会った友人から、前に街で声をかけたのにどうして無視をしたのかと怒られてしまったのを思い出す。
サングラスとイヤホンは大事な人の声まで掻き消してくれていたらしい。しかしながらそれで良かった、情報処理の追いつかない状態の脳で、大事な人と会話をするのは恐ろしい。
回らない脳味噌で会話をすれば、無駄な言葉が増えてしまう。吐く言葉の数は的確かつ最小限にしておきたかった、言葉や文字や直接的に物事を伝えられる記号は時として意図せず人の命まで奪ってしまうことを、痛いほどに知っている。
私は言葉が怖い。文字が怖い。何もかもをあけっぴろげに相手に伝えるのが怖い。それ、が出来る人にある種の羨望を抱きつつも、いつまで経っても恐ろしいままである。
ただ、頭の片隅で常時、感情と言葉と文字とで、いつの日にか手前自身を殺しはできないかとぼんやりと夢想している。
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