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こっくりさんありがとう
こっくりさん、というのはよく聞く話で僕もかつてこっくりさんに纏わる実体験を記した。
この話は短い話ではあるのだが僕の印象に強く残っている話である。
杉原さんは中学生の頃、友人と何度かこっくりさんで遊ぶ機会があった。
3人とも本当にこっくりさんの存在を信じていたが、1度2度、何度やっても10円玉は動かなかった。
試行錯誤というのは、10円をピカピカに磨いてみたり、紙を少し高級な画用紙にしたり、その程度である。
そうして何度目かの試行錯誤の末、やっと10円玉が動いた日があった。
「動いた時は3人で“やった!”って顔を見合わせたんだけどね」
ただ、誰かが動かしているのかもしれない……という疑惑もあったものだから、杉原さんは3人共にそれぞれお互いが答えを知らない質問をして、3人共答えが当たっていたらそれを本物のこっくりさんとして認めよう、という話になった。
質問はそれぞれ3人、昨日の夕飯のメインはなんだったか、とか、他の友達には話していないが自分は答えを知っている質問を投げかけた。
「ちゃんと当たってたのよ、3人の質問全部ね」
そういうわけで、杉原さんと他の2人の友人は10円玉を動かしているものがちゃんとしたこっくりさんであるという事を認めることにしたのだ。
「こっくりさんこっくりさん、質問に答えてくださってありがとうございます」
質問は先程の通りである。
昨日食べた夕飯はなんだったでしょうか?
私の妹には好きな子がいます、その相手の子の名前は誰でしょうか?
昨日私はとある映画のビデオを見ました。タイトルはなんだったでしょうか?
答えはそれぞれ、お互いは知らないものの本人にとっては既に知っているもの。
どれも質問の必要なんてないものばかりだが、こっくりさんの存在を確かめるには十分だった。
そして杉原さんは1つの質問を口にした。
「こっくりさんこっくりさん。質問に答えたお礼はきちんと受け取っていただけますでしょうか?」
恐る恐る質問を投げかけると、すい、とまた10円玉が動いた。
3人とも心の底から“こっくりさんが本当にある”という事を信じていたからこそなのだが、質問に答えてくれたらお礼の品を用意していたのである。
真剣な面持ちで見守る中、10円が“はい”の上に滑って行った。
3人は顔を見合わせると、それぞれ声もなく泣いた。
どうしようもなく感極まった、のだという。
「ありがとうございました。こっくりさんこっくりさんお帰りください」
お帰りくださいの後、10円玉は滑るように鳥居の方へと移動した。
「それでこっくりさんはおしまいにして帰ったの」
3人はテキパキと片付けをするとそれぞれ帰路についた。
こっくりさんに使った10円は近くで自販機を見つけたのですぐに使って手元には残さない。
帰宅するなり玄関扉の音を聞きつけた母親が青い顔で杉原さんを出迎えた。
片手には電話の子機、もう片方の手には連絡網の書かれたプリントを持っている。
「……ねえ、あのね……。同じクラスの小与田(こよだ)さんがさっき事故で亡くなったって……」
杉原さんはそれを聞いて玄関で泣き崩れた。
……小与田さんは、杉原さんを苛めていた。
髪をハサミで切られたし、ノートを濡らされたりもした。階段で突き飛ばされたこともある。怪我もしたし物も随分と壊された。
許せなかったが言い出す事はできなかった。
他にも色々な事をされたけれど、陰湿なやり方だったから誰も気づいていなかった。
いや、気付いていないフリをしていただけなのかもしれないが。
こっくりさんに参加していた2人の友達も、小与田さんのターゲットにされた苛めの被害者だった。
「こっくりさんに質問に答えてくれたらお礼に小与田さんをあげるって言ったの。本当に貰ってくれるなんて、思ってもなかったけれど……救われたの……酷い方法かもしれないけれど、でも……どうしようもなく私達3人はこっくりさんに救われたの……」
杉原さんはこっくりさんが質問に答えたお礼に小与田さんを貰ってくれた事を今でも心の底から感謝している。
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