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第3章 6節〜10節
▪️第6節:夜のお茶の時間
「あ、クッキーあった」
お茶を飲みながら、彩が食器棚を覗いて見つけた
小さな缶。
「食べる?」
亮太にも差し出す彩。
黙ってうなずいて受け取る亮太の仕草に、昔と変わらない弟の面影を見つけた気がして。
夜のリビング。
三人分のお茶の湯気が静かに立ち上ります。
「明日、どうする?」
「うーん、まだ...」
亮太の言葉が少し途切れる。
学校のこと。
でも、彩は追求せず、「そっか」とただ受け止めるように。
2年前、彩も同じように受験を控えていた頃。
私たち家族の大きな変化の中で、必死だったんだろうな。
そんな姉の経験が、今、亮太の気持ちに寄り添う優しさになっているのかも。
「これ、美味しいね」クッキーを食べながら、さりげなく話題を変える彩。
こんな何気ない夜の時間が、少しずつ、
私たちの日常になってきました。
「もう一杯いる?」
彩が亮太のカップを見つめながら。
「ああ...うん」少し照れたようにカップを差し出す亮太。
昔から、彩の前だと素直になれる亮太。
小さい頃から変わらない兄妹の距離感が、なんだか愛おしい。
「お母さんも?」
「ありがとう」
温かいお茶が注がれる音だけが響くリビング。
この静けさが心地よく感じられるようになったのは、いつ頃からだろう。
▪️第7節:それぞれの夜
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