お弁当包みが破れた話
職場でランチを食べた後の話だ。
いつものお弁当包みの布巾でお弁当箱を包もうとしたら、角が破れていたのに気づいた。
いつのまに破れたのだろうか。
お弁当は毎日作るわけでもないし、毎日この包みでもない。
そこでまた思い出すのだ。
この布巾を貰った時のことを。
そもそもこの布巾は、貰い物だ。
それも、社会人2年目の時に戴いたもので、年季入りすぎている。
当時わたしは、関西の商社で働いていた。新卒女子なら東京配属だと思い込んでいたのだが、私が関西配属第一号の女子となった。
「こんなはずじゃなかったのに。」
勤務先も仕事内容も希望が通らなかった挫折、そして週2、3は終電を逃してタクシーで帰る忙しさに疲弊していた。
一年以上も関西に居たのに、友達はほとんどできなかった。
そんな中、逃げるようにわたしは東京への転職を決めたのだった。
新しい土地と仕事に期待しかなく、早く最終出勤日にならないかと待ち望んでいた。
そんな中、職場の派遣社員さんたちが送別会を開いてくれた。わたしは彼女たちのことを何の意識もしていなかったけど、彼女たちにもたくさんの人生があり、もっと話をしておけばよかった、と後悔した。
そのうちの1人の派遣社員の女子が、餞別にと布巾をくれた。
「東京ええなあ。わたしもよく行くんよ。前川さんいつもお弁当だったから、これ。かまわぬ、っていう東京の手ぬぐい屋さんのやつ。」
その手ぬぐい屋さんの名前を初めて知ったし、お店の名前のロゴも読めなかった。でも、彼女はわたしのことを見ていてくれて、送り出してくれた。
それは、わたしの背中を押し続けてくれた布巾だった。
最初の会社を辞めてから、今に至るまで三社を渡り歩いているけれど、どの会社でもお昼になるとこの布巾を解いてたお弁当箱を出していた。
わたしの社会人の歴史を誰よりも一番知っている。
ほんとに、感謝しかない。いままでありがとう。
これまでの社会人としての思い出なんて、実はこういう、仕事とは関係ない出来事の積み重ねなのかもしれない。
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