和田恋「雌伏の時を至福と変えて」

この文章は、「文春野球コラム フレッシュオールスター2018」に応募した時に執筆し、「努力賞」というお情けの表彰を受けた時のコラムを一部加筆修正したものです。

訳あって、最近、十数年ぶりにロックバンド・ロードオブメジャーの曲を聴く機会があった。
皆様ご存知だろうか。2002年、テレビ番組の企画で集められた見ず知らずの若者四人が過酷な挑戦を経てメジャーデビュー、ミリオンセラー、紅白歌合戦出場を果たし、2007年に惜しまれつつ解散した伝説のバンドだ。
僕は1997年生まれなので、2004年からNHKで放送されていたアニメ「メジャー」のテーマソングを三度担当していたロードオブメジャーは聞き馴染みがある。
特に第一シリーズの主題歌であった「心絵」は、いまも若者のカラオケの定番曲のひとつだ。

高卒5年目、22歳になった巨人・和田恋もメジャー直撃世代のひとりだ。恋少年も、多分に漏れず、出身の高知県で練習後にテレビにかじりついていた姿は容易に想像できる。
当時の野球少年にとって、主人公の茂野吾郎は自分の姿を重ね合わせ胸焦がすヒーローだった。

メジャーのすべてのシリーズのアニメ放送が終わった翌年、和田は地元の高知高校へ入学した。
1年夏からレギュラーに定着し、3年春のセンバツでは、のちに楽天に入団する安楽智大(3年=済美高)からホームランを放つなど、甲子園ベスト4の原動力となった。
周りの同級生が大学に進学する中、和田は2013年ドラフトで巨人から2位指名を受けて入団する。
高卒内野手が巨人に2位以上で指名されたのは 2008 年高校生ドラフト1位の大田泰示(東海大相模高-巨人-日本ハム)以来であり、球団の期待度の高さが伺える。
入団初年度は二軍で強化指定選手に選ばれ三塁手として 78 試合に出場、打率.200、1 本塁打 15 打 点とまずまずの結果を残す。
2015 年の春には同僚の岡本和真、平良拳太郎(現横浜DeNA)とともに若手NPB代表にも選出され、シーズンでは二軍で三塁手として球団最多の113試合に出場、打率.214、8本塁打45打点と、順風満帆と言える高卒二年間を過ごした。

しかし、2016年(81試合出場、打率.239、2本塁打24打点)、2017年(36試合出場、打率.228、0本塁打10打点)と成績が伸び悩む。
同期入団の田口麗斗は活躍の場をジャイアンツ球場から東京ドームに移して、二桁勝利を達成し、押しも押されぬ左のエースとなった。同じく奥村展征は、FAで巨人に移籍した相川亮二の人的保障として請われてヤクルトに移籍し、神宮球場でスタメンでの出場機会も得ている。
2017年には肉体改造の結果、体重が84kgから88kgまで増量した。心機一転、内野手から外野手に登録を変更した。それでも結果は出ない。徐々に二軍の出場機会を奪われ、和田は三軍が使用する小野路球場へと主戦場を変えていた。

入団当初ともに二軍でスタメンを張っていた坂口真規は戦力外通告を受け、高校の先輩でもある公文克彦は日本ハムへトレードされた。
かつて坂本勇人も背負い、「出世番号」と称される背番号61も返上し、新たに背番号67を背負う。焦るのも無理はない。

「大学生は人生のモラトリアム」とよく言われるが、プロ野球選手はその限りではない。
同級生はようやく就活が終わり、学生生活最後の夏休みを謳歌する中、和田はドライでシビアな世界で戦っているのだ。

2018年、同級生たちは大学を卒業し、和田から一足遅れて社会人に足を踏み入れた。
和田も変わった。
これまで右肩上がりだった年俸は、初の減俸を経験した。昨年のドラフトで 大卒で入団してきた選手とは同年齢である。
スポーツ選手にとって“若手”と呼ばれる期間は短い。バンドマンなんて 40 歳近くになっても若手扱いなのにね。”若手バンド”代表格の[ALEXANDROS]のフロントマン・川上洋平は内海哲也、亀井善行と同い年の1982年生まれ。前述のロードオブメジャーのヴォーカル・北川賢一は 1980年生まれの松坂世代だ。意外と歳いってる。
話が逸れた。
メジャー第二シリーズの主題歌に起用されたロードオブメジャーの「さらば蒼き面影」の歌詞にこんな一節が出てくる。

「想い出は ホロ苦いほど 輝き 増すものです」

プロ野球選手とファンの関係は複雑だ。選手の成績が伸びればファンは喜ぶし、成績が落ち込めばファンは時に汚い野次を飛ばす。自分の人生に何の関係もないにもかかわらず、だ。
成績が奮わない時期が長ければ長いほど、ファンは選手に対して、出来の悪い息子を見る親心にも似た思いを抱く。感情移入できるというのは素晴らしい。選手はファンと雌伏の時を共有することで、活躍して至福の時をともに喜びあえるのだ。

2018年6月14日現在、和田は見違えるような活躍を見せている。二軍で52試合出場、打率.351、11本塁打51打点。打率、本塁打数はともにイ・リーグ第2位、打点王、最多安打争いではトップに立ち二冠王だ。5月26日には五年ぶりに安楽(楽天)から本塁打を放った。
ファンからも岡本に続く一軍でのブレイクを期待する声も耳にするようになったが、それでも和田は努力の手を緩めない。
2016年から三軍監督として和田の苦しむ姿を近くで見てきて、今年から二軍監督に就任した川相昌弘は目を細める。
「今まで悔しさも経験して、 積み上げてきたものが生きている。遠くへ飛ばせる力は岡本に匹敵するか、岡本より飛ばせる。」

そんな和田に、雌伏の時を共有したファンとしてこんな一文を贈りたい。東京ドームのスポットライトに照らされて歓声を浴びる和田の姿に思いを馳せたこの一文は、アニメ・メジャーのキャッチコピーでもある。

和田恋、「夢の舞台へ駆け上がれ!」。

※成績等は2018年6月15日現在の情報を基にしています。

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