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アンタッチャブルと「文脈回収」について

「うわ〜!!
バカ!! 駄目だって、お前! 駄目だってお前マジで!
違う違う! 駄目だって!!
駄目だ… 違う違う!
バカ!! 駄目だってぇ!
違うって!! マジで!?
(中略)
ちょっと待って、お前マジで!
おいおいおいおいおい!
ちょっと待てよ〜!こんな出方あるか!?
(中略)
ちょっとほんとに…、この番組でやんの!?
よっしゃああああ!!!
ありがとうございます!!!」

11月29日放送の『全力!! 脱力タイムズ』内で約10年ぶりに相方・山崎弘也が目の前に登場した際、アンタッチャブル・柴田英嗣が発した台詞が上だ。
言葉選びの天才・柴田でさえ、本当に驚いた時は語彙力が乏しくなる。

僕はTVerでこのシーンを見て、目頭が熱くなった。
飲み会からの帰り、僕はいつものようにTwitterを開くと、トレンド欄に「有田さん」の四文字を見つけた。最近の芸能界の流行りから(有田結婚か?)と思ったのも束の間、(あ、そういえばANNで結婚発表してたわ)と思い直す。『脱力~』の放送日なので、おおかたその番組関連だろうと推測してタップする。

アンタッチャブル復活

頭が真っ白になった。車内の景色が遠くなったような気がした。小田急線は代々木上原駅に到着したらしい。東京メトロ千代田線からの乗り換え客がわらわらと乗り込んでくるのが見える。僕はイヤホンから流れる鎮座Dopenessの曲の音量を上げた。

僕はアンタッチャブルが世に出た過程をリアルタイムでは知らない。殆どの大学生がそうであるように、僕は彼らを『エンタの神様』のようなネタ番組で知った。
さらに、僕はバラエティ番組をさほど見ない家庭で育ったので、『M-1グランプリ』『リチャードホール』『オンバト』といった番組も2006年頃まではちゃんと見ていなかった。気づいた時にはアンタッチャブルは既にテレビの中にいたし、気づいた時には実質解散状態に追い込まれていた。
なので、今回の復活劇も古参ファンの方々よりは感動が薄い。もう少し上の世代に生まれていたらと思うと、残念極まりない。

2010年の中学入学以来、深夜ラジオにどっぷりと浸った僕はオードリーに心酔した。高校に入学したころ、僕は当時の深夜ラジオのラインナップに飽き足らず過去のレジェンド深夜ラジオを探り当てた。

『くりぃむしちゅーのANN』
未だに根強いファンが多いこの番組は、2005年から08年まで放送されていた。YouTubeに違法アップロードされた動画のバックナンバーは#1から最終回の#159まで一つも欠けることなく揃っていた。登下校中、寝る前、暇なとき。僕はガラケーから変えたばかりのiPhone4Sに音声ファイルをダウンロードし、貪るように聴き続けた。
済々黌高校ラグビー部トーク、ババア大橋、月に一度のお楽しみ、有魂リクといった定番ネタとともに、僕の頭の中には「くりぃむしちゅー×アンタッチャブル」の深い関係性も刷り込まれていった。
番組の中では「ザキヤマ」「不倫の人」よりも「M-1王者でくりぃむしちゅーが可愛がっている後輩・アンタッチャブル山崎と柴田」だった。僕はひと通りYouTubeに上がっている過去のアンタッチャブルの漫才集、『リチャードホール』のコントを見漁った。

数年後、僕は大学生になった。
大学への入学が決まった直後、「M-1ぐらんぷり」が復活すると聞いた。審査員は過去の優勝者から9名が選ばれるということらしい。僕はワクワクしてスマホで検索した。しかし、そこにアンタッチャブルの名前はなかった。審査員の9名は、アンタッチャブルを除く9組の優勝コンビから各1人が選ばれていた。事前特番でもアンタッチャブルの姿はなかった。

その後も『エンタの神様』で「アンタッチャブル復活!」というアバンに誘われて見てみるも、過去の映像を流すだけというフェイントに引っかかり『エンタ~』が個人的に嫌いになるという事件があったものの、メディア上のアンタッチャブルの関係性は特に変わることがなかった。

かたや、当時「コソピン」「テレ東の深夜に追い込まれている」と自ら評したくりぃむしちゅーは、それぞれ相当数のレギュラーを抱えている。特に有田は『有田Pおもてなす』『くりぃむナンチャラ』『有田ジェネレーション』『脱力~』と、生粋のお笑い番組を各局で持っている。
「ザキヤマ」は『スクール革命』『ロンハー』『アメトーーク』『日曜×芸人』等で昼夜を問わず怪物ぶりを発揮し、柴田はさまざまな番組に出演し、ツッコミの腕の健在ぶりを見せた。

『脱力~』では特に柴田が輝いていた。平場でのツッコミはもちろん、特にコウメ太夫との漫才では柴田の瞬発力と論理性に感動した。ただ、その漫才シーンを見るたびに、またアンタッチャブルの漫才が見たいなあという思いが募っていったのもまた事実だった。

「HIPHOPって『文脈回収』が大事なんですよ」
DJ松永(Creepy Nuts)が自身のラジオでそう語っていた。一部を抜粋する。

「(DJ松永)1回、格闘技の煽りVTRを思い浮かべてほしいんですよ。やっぱり知らない人同士の戦いよりも、因縁があって『こいつがこういうことを経て、いままで負け越しているけども、今回ついに勝ち越しを狙う』とか。『もともとこういうやつだったのがこういう紆余曲折を経てここまでたどり着いた』みたいな因縁、文脈があると気持ちが入るじゃないですか。

(幸坂理加)うん。物語があるとね。

(DJ松永)そう。ストーリーがあるとより楽しく感情移入できる。だからラッパーの歌詞は自分の人生を書くわけだから。『ああ、過去にこういう人だった人がいま、こういう歌詞を書くんだ』みたいな。『いま現状はこうだけども、こうなってやっているんだ』みたいなところの背景、ストーリーが見えるとより新しい楽しみ方……楽しみ方が広がるんですよね。」

芸人、アイドル、YouTuber、スポーツ選手…。HIPHOPに限らずどの世界でも、その人間性を好きになるとタレントの人生を追体験できる。感情移入の幅が広がることで、指数関数的にその人のことが好きになっていく。そういう人のことを「ファン」と呼ぶのだろう。
タレントとファンの文脈は、ファンの数だけ存在する。何がきっかけで彼/彼女を知ったのか。何を見聞きして好きになったのか。はじめて生で見たのはいつか。葛藤を聞いてどう勇気づけられたか。その文脈の分岐は幾重にも及ぶ。

「アンタッチャブル(実質)再結成」というのは、ファンにとってとてつもなく大きな文脈だった。
不祥事により冠ラジオはぐちゃぐちゃな形で終わり、ふたりの共演は画質の粗い画面上でしか見ることができない。数年以上かけて紡がれてきたストーリーは、大風呂敷を広げたまま文脈を一切回収することなく放置された。

「うわ〜!!
バカ!! 駄目だって、お前! 駄目だってお前マジで!
違う違う! 駄目だって!!
駄目だ… 違う違う!
バカ!! 駄目だってぇ!
違うって!! マジで!?
(中略)
ちょっと待って、お前マジで!
おいおいおいおいおい!
ちょっと待てよ〜!こんな出方あるか!?
(中略)
ちょっとほんとに…、この番組でやんの!?
よっしゃああああ!!!
ありがとうございます!!!」

だからこそ、地デジ化されて久しい鮮やかなテレビ画面に映るこのシーンは衝撃的だった。先日のネットニュースやTwitterで結末を知ってしまった身でも鳥肌が立った。「緊張と緩和」の教科書のようなシーン。確実に、巨大なひとつの文脈が回収された瞬間だった。
数字を取るために公式Twitterやナレーションで煽ることもせず、ふだんの『脱力~』の演出そのままに山崎が小手伸也に扮して登場し、漫才を披露する。その後ろにはにこやかな顔で座るアリタ哲平(有田)。番組の漢気やアンタッチャブルへの優しさもビンビンに感じた。

「今後はどうなるんですか人力舎ァ! おい人力舎ア!
山崎が出てきてんぞ!!」

そして、また新しい文脈が提示された。
ネットニュースにあった通り、彼らはTHE MANZAIに出演するのだろうか。『シカゴマンゴ』は幻の最終回を迎えられるのだろうか。来年以降のM-1の審査員は? 単独ライブは?
妄想は広がるばかりだ。
はやくアンタッチャブルの漫才がまた見たい。

スマホでそのシーンを見る方はこちらから。
既にTVerのアクセス数はダントツの一位になっていた。そりゃそうだ。

#アンタッチャブル #くりぃむしちゅー #柴田英嗣 #山崎弘也 #有田哲平 #脱力タイムズ #文脈回収 #コラム

ありがとうございます!!😂😂