プロジェクトを成功に導くディレクション30の考え方
これはディレクションの考え方をまとめたものです。
私の経験上、Webサイト制作が中心となりますが、一緒にお仕事させていただいたクライアントや社内外のディレクターから学んだこと、書籍やWebの記事から得た考え方になります。
ディレクションは主にプロデューサーやアートディレクターなど管理するポジションに必要なものと思われがちですが、デザイナーやエンジニアなど一見関係がないと思われるポジションでも、ディレクションを意識することで物事やコミュニケーションが円滑に進むようになります。現に私はフロントエンドエンジニアですが、もともとはWeb制作のディレクターでディレクションの考え方がプロジェクトを進める上でかなり役に立っていると感じています。
これは社内のディスカッションで「良いディレクションとは何か?」というテーマを話すことがキッカケで、今までふんわり意識していたことを文章化したものです。もし今後私に「ディレクションで考えていることは?」など振られたら、とりあえずこの記事を投げようと思います🫠
当然様々なプロジェクトでこの通りにいかないことや、映像やDTPなど他業種で考え方が異なること、また例外のパターンなど、当てはまらないことも多々あるでしょう。綺麗事を言っているだけだと思う方もいるかもしれません
ですので、ご自身のポジションに当てはまる部分だけ参考にしてみてください。インターネットにそっと置いておきます。
定義
ディレクター、プロデューサー、◯◯ディレクター:人やポジション
ディレクション:行動(考え方、管理、指揮などの手法)
ディレクションの目的
プロジェクトの完成に向けて導くこと
全員が同じ目標に向かって連携し、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えること
課題や問題を早期に見極め、適切な対応を行いながら正しい方向へ導くこと
ディレクションの考え方
01. 周りを安心させる
その人がいればプロジェクトが良くなり、成功すると全員に安心感を与えられるような行動を取るべきです。
ディレクションは多くの指示や情報共有を行います。
連絡をしても反応がない(遅い)
今どうなっているのかわからない
丸投げ
このような状況ではチームは次第に不安になっていきます。相手の立場や状況を考えた上で行動しましょう。
また、自分が不安な時や、何か不満があっても、それを表に出さないように心がけましょう。
※リスクとなりそうなことを提起することは必要です。ここで言う不安や不満とは、いわば愚痴や苛立ちのようなものです。
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02. 虫の目・鳥の目・魚の目を使い分ける
プロジェクトを成功に導くためには、多角的に細部を観察する「虫の目」、全体像や納品後の運用までを俯瞰する「鳥の目」、情報や事象の変化や進捗を把握する「魚の目」という3つの視点を使い分ける必要があります。
虫の目とは、80点を100点に持っていくために細部まで隅々まで見てクオリティを向上させるための視点です。これはすべてのフェーズで行う必要はなく、ここぞという部分で力を入れるようなものです。
鳥の目は、クライアントの課題や問題、要望をどのように解決できそうか、このプロジェクトが完成するとどうなっているのか、大きなスコープで見ます。また、先に見えるリスクや地雷となる障害を事前に取り除き、チームが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えます。
魚の目は、進行している軌道がズレていないか、出てきた障害にどのように対処するかを決断していきます。
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03. パスの出し方
誰に、何を、いつまでかを明確にして、曖昧な指示は出さない。
曖昧な指示はミスに繋がり、余計なリソースを消費することになります。
また、ディレクターはマルチタスクになることが多く、ボールを自分で抱え込むと、チームメンバーのリソースを圧迫することがあります。自分がボールを持っている時間を短くすることが、プロジェクトを前に進める上で重要です。
抱え込まず、自分のタスクよりチームの行動を優先的に考え、早く正確にパスを出すことを心がけましょう。
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04. 雰囲気作り
周りの雰囲気を良くすることが、プロジェクトを円滑に進める上で重要です。
MTGの始めにアイスブレイクを入れるとか、周りが緊張せず話せる場づくりや、萎縮させないように気をつけましょう。
※ファシリテーションスキルを学ぶと良いと思います。
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05. リソース管理
リソースとは「人、物、金」の側面があります。
適材適所の体制を構築することが重要であり、プロジェクトの初期段階で綿密に計画を立てる必要があります。
またプロジェクト進行中にも気を配る必要があります。
デザインのレタッチ、実装のアニメーションなど見積り内で対応するレベルの内容だとしても、どの程度発生しているのか、工数がどの程度かかるものなのか、金額交渉すべきなのか。この視点を持っているかいないかで大きな差が生まれます。
自分で管理しているリソースは大切に扱いましょう。
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06. 信頼される人
クライアント、社内、パートナーから「この人なら任せられる」と信頼を得ることが大事です。
信頼を得るには、以下のような基本的なことを守り続ける必要があります。すぐに信頼を得ることはできません。
責任感を持ち対応する
期限を守る
指示を明確にする
何か障害や問題が起こりそうな時に臆せず意見や発言をする
専門性を持つ
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07. 提案の姿勢
ディレクションを行う上で受け身の姿勢では上手くいきません。先回りして、提案していこうと意識を持つべきです。
また、難しい要求があっても、そのまま「出来ない」と返答をせず、どうすればできそうなのか。前向きな姿勢を心がける。
そして、メリットだけではなく、デメリットやリスクも事前に伝えることを忘れずにしましょう。
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08. パワープレイ
公開直前の予期せぬトラブルなど、どうしてもパワープレイで進めなければならない時があります。
ただ、それはあくまで力の入れどころであり、通常時にはチームが疲弊してパフォーマンスが落ちないよう、細心の注意を払います。
「行き当たりばったり。急に言われた。すぐ対応しなければならない。」これらは事前にリスク回避ができることもあります。
例えば、実装に5日かかる機能があった時に、事前に「この部分は時間がかかる部分ですので、後から変更する場合は追加費用と期間が必要です」などクライアントと事前に握っておくことで、後からの調整が容易になったりします。
もちろんコントロールできないケースもありますが、期間を短縮したり無理を続けるとパフォーマンスが下がり他のトラブルやミスが出たりクオリティが落ちるものです。周りに無理をし続けない調整を心がけましょう。
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09. クライアントの原因にしない
半分精神論のようなものになってしまうが、クライアントを原因にしても物事は改善しないし、自身のスキルアップにもならないと感じる。それを共有したところで、チームの士気が上がるわけでもない。
どうすれば良かったのか、事前に防ぐことができたのか。現実的に致し方ないことは多いが、糧にすべきではないでしょうか。
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10. 相手がどの立場や進め方をするのか理解する
決定権やキーマンは誰なのか。
相手はどのようなポジションなのか。
プロジェクトの座組みはどのようになっているのか。
このような全体像を把握した上で進め方を工夫してみてください。
例えば、相手が代理店であれば、制作した資料やデザインがそのままエンドクライアントに渡るケースもあるので、補足説明などの内容をエンドクライアントに合わせたもの(専門用語を少なめにする、粒度を細かくするなど)にすると良いです。
逆にアートディレクターの確認であれば、必要最低限にまとめる(同じ業界であれば見ればわかるものを省く)などです。
このように目先の相手だけではなく、その先まで考えた行動をすることが大事です。
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11. 確認は全体の時間を奪っているということを理解する
制作の現場では修正と対応が頻繁に起こります。
ここで特に注意すべきは「修正指示が反映されていない」状況です。これが発生すると「再度指示を出す時間と再確認する時間」の両方が無駄にかかってきます。
ミスを完全になくすことは不可能ですが、提出前に修正が全て対応できているか自分で最終チェックをするだけでクライアントも含めた全体の時間が削減されるということを理解しましょう。
また、指示されたところ以外の範囲も気にかけることで、信頼を得ることもできます。
「このテキストが変更となると、このページのこの部分も変更必要ですか?」など。このような気遣いができる人は素晴らしいと感じます。
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12. 経験が少ない若手こそ一般ユーザーとしての視点を持てる
経験年数が増えると、解像度が高まることで、ユーザーの視点とのギャップが生まれてきます。
ひと昔前の「ハンバーガーボタンは誰がどう見てもメニューだろう」など。
若手は意見を言いづらい雰囲気がありますが、分からないからこその意見がベテランの気づきになったりします。臆せず発言をしていきましょう。また、ベテランはそういう発言をしやすい雰囲気づくりと頭ごなしに意見を潰さないよう注意が必要です。老害とならないように。
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13. プロとして堂々と振るまう
あえてプロという言葉を使っているが、ここでいうプロとは「お金をもらっている人」です。新入社員も研修社員もアルバイトもクライアントから見れば専門家でありプロです。
ここで「若手だから」とか愛嬌でごまかすようなことを覚えてしまうと、いつまで経っても信頼を得ることができず「ただの良い人」になります。
虚勢を張ってでも自信を持ってクライアントと向き合う。分からないことはちゃんと調べて知識にする。そういう意識や姿勢を持つことが大切です。
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14. クライアント、パートナー全て対等な関係性を目指す
体制上、発注者と受注者の関係上、どうしても受注者の方が立場が弱くなりがちです。ただ、ここは見方を変えるべきである。
発注者からすれば、「その領域は自社では対応できない、リソースが足りない」などの理由から外部に依頼する訳で、受注者はそのプロジェクトを成功させるためにアサインされたスペシャリストである。
そのため過剰に謙るような態度は避け、任せられた領域に責任を持ってプロジェクトを努めることで次第にフラットな関係性が築かれます。
「貴重なお時間いただき」「お手数ですが」のような謙る言葉はいちいち使わない。
お互い本音で意見を出し合える関係性を目指しましょう。
当然これはパートナーに依頼を出すケースにも対等な関係を築くことが大切です。
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15. 些細なミスに対して、過剰に謝らない
ミスは適切に謝るべきだが、過剰に謝ったり、全て自分の責任とするような謝り方を続けていると従属的な関係に陥ってしまう。
謝るときは適切な温度感で謝るべきです。
別の側面として、下手に出ることもそれはそれで楽だったりすることもあります。常にクライアントの要望に気力と体力で対応していけば、納品には至ることは可能だからです。
ただ、今まで見てきた多くのケースではチームが疲弊して離れていったり、成果物のクオリティが低かったりすることが多いと感じます。このようなプロジェクトとならないようにディレクションすべきです。
これはチーム内も同様です。
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16. クライアントを満足させることだけに注力しない
担当者向けの提案や仕様になっていないか、注意が必要です。もちろんクライアントや担当者に満足してもらうのは当たり前です。
ただ、本来の目的や課題解決のためにプロジェクトを行っているので、エンドユーザーを見据えた提案をしていきましょう。
クライアントとの関係性も、最終成果物やコンバージョンを達成することで評価を得ることができ、それによって長期的な信頼関係が築けるのだと思う。
そして、クライアントを満足させるためだけにデザイナーやエンジニアの稼働が爆増するようなこともやめましょう。力の入れどころは最終成果物です。
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17. クライアントの要求、指示を鵜呑みにしない
意図や背景を理解した上で向き合いましょう。
よくある例として、クライアントから「赤くしたい」と言われたら、そこは強調したいのか、警告としたいのか、それとも別の理由なのか。意図を理解した上で進める必要があります。
何も考えずにそのままデザイナーに『赤にして』と指示を出してしまうと、デザインは崩壊に向かいます。
もしクライアントにデザインの意図が伝わっていないのであれば、しっかりと説明するべきです。
デザインディレクションでもデザイナーからデザインの意図を確認し理解した上でフィードバックをしていかないとデザイナーと認識の食い違いが発生します。デザインは装飾以外は基本的に全ての要素に意味や意図があるものです。
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18. 企業体質の理解
企業が100社あれば100社の社風や体質があります。スタートアップから大企業まで規模も様々です。
ここで注意したいのが、ビジネスやマーケティングにおいて、いくらそれが正論だからと言って、その手法や提案が、そのまま通るわけではないということです。
企業がどのような理屈で動いているのか、その企業体質を理解することも必要です。
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19. 具体的なアイディアを出しすぎない
これは他の領域に対するディレクションの話であり、デザイナーやエンジニアの思考領域を狭めないように意識した方が良いということです。
※同じ領域のアートディレクターからデザイナーへのディレクションでは明確に方向性を示す必要もあると思います。
このイメージとしては、Webサイト制作の現場でディレクターが、写真やレイアウトなどデザイン領域まで作り込まれたワイヤーフレームを作ると、デザイナーはその通りのほとんど何も変わらないアウトプットをそのまま出してくるということがあります。
それは本来デザイナーが考えるべき領域を狭めてしまい、結果としてクオリティが低かったり、偏った物となっていることが多いと感じます。
当然ディレクションをする上で具体的なアイディアを考える必要はあります。ただ、ディレクションの本来の役割としては、アイディアの種をたくさん出して、アイディアの幅を広げ専門領域のその人のパフォーマンスを最大化することだと考えます。
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20. 自分なりのアンサーを持つ
「これは変である。」で終わりではなく「これは変である。私はこうしたらよいと思う。」という具体案を持って相手とコミュニケーションを取るべきです。相手もちゃんと考えてくれているという良い印象を持ってくれて、話が早く決着するようになります。
その結果、自分の意見になることも相手の意見になることもありますが、大切なのは自分の意見を持ち話し合って、より良い選択をすることです。
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21. 1から10まで質問をしない
すべてを質問するのではなく、良識をもった判断で進めてしまった方がいいこともあります。
何から何まで全部質問することで、いくつかのデメリットが発生します。
判断できない人や会社というレッテルを貼られる
質問項目が多くなり、相手が混乱する
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22. 文章は箇条書きにする、簡潔にまとめる
文章は極力短く、端的で内容が分かりやすいことが重要です。
読み直して引っかかりがないか、漢字とひらがなをうまく使い分けて読みやすくしましょう。
質問が複雑になる時は、工夫するべきです。
事項が多い場合はGoogle スプレッドシートやExcelにまとめる。デザインなどの指摘であればFigmaのコメントやPowerPointにするなど相手のITリテラシーとどのようにしたら回答しやすくなるかを考えて行動しましょう。
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23. もらった資料はよく目を通し、調べられることは調べる
前項の「1から10まで質問をしない」に通ずる部分でもありますが、質問を送る前に、既に頂いている情報かどうか、調べればわかることなのかをよく確認すべきです。
既に頂いている情報の場合は「送ったのにちゃんと見ていない」となり、調べればわかることの場合は「なんでこんなことまで言わなくては…」というようなマイナス評価になったりします。神経質に感じるかもしれませんが、マイナス評価される可能性が高いという話です。このようなマイナス評価が積み重なれば、信頼は次第に失われていきます。
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24. 表記、人名、名称には細心の注意を払う
名前にはそれぞれ想いや誇りがあります。CIやロゴをデザインしたことある方ならご存知のはずです。
テクニックとしてあえて略称や愛称を使うことはありますが、こういった細かいところに気を配れるかどうかで、仕事の丁寧さが分かるものです。
YouTube(誤: youtube)
iPhone(誤: Iphone, IPhone)
Facebook(誤: facebook, FaceBook)
GitHub(誤: Github, github)
全てを完璧にというのは難しいかもしれませんが、普段から意識すること。そして、ツールを使うなどで対策してみましょう。
特に提出後に様々な人に行き渡る資料には注意が必要です。
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25. 感謝はしっかり伝える
丁寧に感謝を伝えましょう。京言葉を除き、感謝されて嫌になる人はいません。
指示を出すことが多い管理ポジションでは、何か対応してもらったことに対する感謝を伝えることはできていると思いますが、意外と良いアウトプットに対する「良い感じですね!」というような、ポジティブな感謝を伝えられていなかったりします。
チームの士気を上げたり信頼を得るにはそういったリスペクトを持って接することが大切です。
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26. フィードバックには細心の注意を払う
デザイナーによくある話だと思うが、修正指示の時に「センスが無いね」みたいな言葉は凶器となり人格否定と受け取られることがある。作り上げた物には魂が宿る。それを否定されると自分自身が攻撃されていると感じてしまう。
これはその人は繊細だとかそういう話ではなく、「あくまで目的を達成させるため、クオリティを上げるためのフィードバックである」ということを心がけましょう。この感覚や配慮が欠けているのは非常に危険です。
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27. フィードバックに真摯に向き合う
クライアントやチームからのフィードバックには気付きや学びがあります。
驕らずに真摯に向き合いましょう。
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28. DMなどで個々にプロジェクトの相談をしない
ログとしても残らなくなってしまうため、プロジェクトに参加している全員がアクセスできるパブリックな場で連絡を取るように心がけてください。特にリモートワーク環境下では、誰がどのような連絡や相談をしているのかが周りから見えなくなり、サイロ化してしまいます。これにより、伝達や認識漏れが発生します。
コミュニケーションの一環としても、みんながいる場で話すようにしましょう。
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29. 人情を出す
AIが浸透し、文章コミュニケーションにも活用される時代になりつつあります。
そこで意識したい点として、その人らしい、何かクスッと笑えるような一言があるとか、そういった言葉が人としての魅力をプラスすると感じます。プロジェクトを進める上で、クライアント、パートナー、チーム全員が気軽に意見を出し合えるように、あえて顔文字を入れることもテクニックの一つです。
もちろん、常識知らずと思われないように、TPOをわきまえることが大前提です。
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30. レジェンドをあまり参考にしない
著名人で「俺はこうやるけどね」みたいな考え方やユニークテクニックで物事を進める方はいます。確かに、その人のスキルや魅力によって、物事が爆速で進み、異常なパフォーマンスやクオリティを出していることも事実です。
ただ、レジェンドは普通の人が真似できない領域にいるからこそレジェンドなので、あまり偏ったものは参考にしない方が良いです。
もし自分独自の進め方で上手く行ってるのであれば、それはその人ならではの武器ですので磨くと良いと思います。
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