光が反射した夢の中(NWM/tacica)
女を28年もやってれば、マスカラに気を付けて泣くこともできていたのに
そんなことも忘れてた。
コンタクトも化粧も存在を忘れてた、これから1時間電車に乗らなければならないのに、もうそんな5分後の事は忘れてた。
駅のホームがやけに高くて、街が見下ろせるね、なんて話した事
こんな終電で思い出したくなんかなかったけど。
髪の毛伸びた、と話した去年の夏
「1ヶ月で1.5センチは伸びるらしいよ」
その言葉を思い出しながら、私は毛先を触りながら計算をしていた。
「本当に切るの?せっかく綺麗に伸ばしてたのに」
「切るためにきたからいいの、ねえ27センチ切ってほしいんだけど」
「えーなにその指定。細かすぎるんですけど。何かあったなこりゃ」
「夏が枯れる前に取っておくための準備なんだよ」
なんじゃそりゃ、と笑う馴染みの担当美容師がするりと髪を撫でた。
知らない人が知らない人でなくなった夏、27センチ巻き戻した街の灯が短い1日に重なる。
晴れなかったな、と晴れの日に会えなかった事を思い出す。
反対の季節と反対の街に帰れば何かがわかるかも、と思ったけど
解ったのは悲しみが未だここにあることぐらいで
27センチ巻き戻しても夏は枯れたまま、間に合わなかったなと思う。
いつも光の中に居るみたいだった、夢の中ではおしゃべりすることも
貴方が光っていることも同じことだから
夢の外でもそうであってほしかったと願うには遅すぎたのかもしれない。
夏の庭園を16か月越しに手にして「悪あがき」と誰に言うでもなく口から零れてしまった。
だってもう冬を連れてきてしまったんだから、その庭園が泣くのも見ないふりをしないと
私は近道を知らないまま、悲しい事を夢の中まで持ち込まないといけない。
知らない人が知らない人でなくなった夏、巻き戻せなかった季節を片手に
晴れた日にまた会えるのだろうかと考えてる。
これが短い旅だとするならば、観えない場所まで連れ出してほしい。
27センチ短くなった髪の毛を撫で、いつもより月の匂いがはっきりと判る。
短くなった分だけ、香りが近づくなら
どうかこの悲しみの匂いも忘れないようにしていてほしい。
光が反射した夢の中で、観えなくても判るように。
その手の感触を忘れないようにと、願ってしまう。
同じ街で同じ時間を1日だけ過ごして、記憶を改ざんする夏は
もうこの夏でおしまいにしたいと、1人になれない16ヶ月に思う。
頭文字の意味を話した瞬間、この場所であったことは
記憶が上書きされても覚えていたい。
※この言葉と話たちはフィクションとノンフィクションです。
どこから何処までが誰と誰で私と君なのかは架空の場合もあります、たぶん。※
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