八重山吹
∵第六夜∵
夜、窓辺のベッドで窓枠に身体を預けて
ただ、夜を眺める
ひんやりした風が通り抜けてカーテンを揺らす
昼、教室の窓辺の隅っこ、陽だまりの中に佇んで、何となく心地いい喧騒を聞き流す
柔らかな風が吹き込んでくる
朝、不思議と目が覚め、サンダルで外に出て朝焼けを見上げる
凛とした空気が肌を刺す
こんな時間がずっと続けばいいのにと思う
時間帯によって空気の匂いは違っていて、どの匂いも脳裏で記憶と結び付いている
忘れていた時間が、ふと嗅いだ匂いで花開くように蘇ってくる
同時に過ぎた時間に思いを馳せて、行き場のない切なさも感じるのだ
この匂いと記憶や感情が結び付いている現象には、プルースト効果という名前がついているらしい
地元は田舎だったので、いつも自然と一緒に暮らしてきた
景色は朝昼晩、春夏秋冬、どれも違う表情でゆっくりとした時間が流れていて
そのすべてが好きだった
カメムシは勘弁だけど...心底苦手なのだ...
都内にいると、どうしても自然と遠い生活をしていて、寂しくなってしまう
どの季節もあまり代わり映えしないというか、基本夏か冬かしかない...という感じがするのだ時間も車窓を流れる景色のように飛ぶように過ぎていく
毎日山手線と一緒にぐるぐる、代わり映えのしない毎日を繰り返していく
もっと丁寧な暮らしがしたいなと常々思う
わたしにはやっぱり田舎の方が肌に合うようだ
せめてもの思いで、在宅仕事の休憩には
お湯を沸かし、お茶を入れ、最近はめっきり暑くなってきた外の風にあたっている
地元ではもう大好きな山吹が咲いているだろうか
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