【展示レビュー】「アレック・ソス 部屋についての部屋」(東京都写真美術館)
先日、東京都写真美術館で開催しているアレック・ソスの展示を見てきました。アレック・ソスはアメリカの写真家で、初期に「Sleeping by the Mississippi」という作品を発表し、一躍有名になりました。ソスの撮影スタイルはアメリカ国内を車で旅し、風景や出会った人々を大判カメラで撮影するスタイルだったため、ロバート・フランクから始まるアメリカのロードトリップ写真の系譜で語られることが多かったですが、今回はそれらのロードトリップ写真ではなく、室内の写真に焦点を当てた展示となっていました。
展示スタイルも面白く、6つの部屋で構成され、初期から最新作の「Advice for Young Artists」までの写真が紹介されていました。このように初めてソスの写真に触れる人におすすめの展示でした。もちろん、室内写真に焦点を当てた展示のため、ソスのファンの人にも従来とは異なった視点で作品を改めて鑑賞することができる点でおすすめです。
「Songbook」
私はロードトリップ写真が好きで、ソスの写真集も「Sleeping by the Mississippi」と「A Pound of Pictures」は持っていました。カラーでアメリカの風景を撮影している点も好きだったので、モノクロの「Songbook」はスルーしていましたが、それは間違いだったと痛感しました。今回の展示は写真撮影可だったので、実際の展示風景もいくつか紹介しようと思います。
ご覧の通り、人々のエネルギーを感じることができてとても好きになりました。
街を撮るということ
旅先で写真を撮るとなったら、自身が街に繰り出して写真を撮るのが普通だと思います。しかし、ソスは『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の「Voyges」という企画で東京に滞在した際に、インターネットで探した様々なゲストを自室に迎え、その様子を撮影した。写真を撮るという行為は非常に恣意的で自分が写したいものしか撮りませんが、ソスはほぼランダムに抽出されたその街の要素を写真に収めました。写真家と街の関係を逆転しており、非常に面白いと感じました。
「I know How Furiously Your Heart is Beating」
上記写真集のタイトルを和訳すると「あなたの心臓がどれほど激しく鼓動しているか知っている」。Room 5では、主にこの写真集に載っている写真が展示されていました。ポートレイトのみではなく、その人の私物を写した写真もありました(広義の意味でポートレイトと言えなくもない?)。個人的に非常に気に入った写真は次の作品でした。
写真に写っている人物と鑑賞者の私自身がよく見知った仲だと錯覚するほど穏やかで雰囲気が良いのが気に入った理由だと思います。このようなポートレイトの上手さがソスの写真の魅力の1つだと気づける展示でした。
ファウンド・フォトについて
アレック・ソスの「A Pound of Pictures」は写真の重さがテーマの1つであり、俗にファウンド・フォトと呼ばれる写真を使って、写真の価値とはなんだろうか?という問題提起をしていたと思います。ところで、アレック・ソスの展示とほとんど同じタイミングで始まった「現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21」展(東京都写真美術館)では、原田裕規という写真家がファウンド・フォトをテーマに作品を発表しておりました(こちらは写真の価値というよりも行き場のない写真という社会的な視点でファウンド・フォトを扱っていました)。こちらの展示で、ファウンド・フォトはInstagramにあがっているデジタル写真とは異なりメタ情報がなく、鑑賞者が無意識に被写体のストーリーを思い描いてしまう点に気づきました。なぜ写真の物語性を重視するソスがファウンド・フォトを扱ったかこれまで不思議でしたが、上記の特性に気づいて私の中で腑に落ちました。
まとめ
最後のファウンド・フォトについては浅い議論ですが(インターネット上でメタ情報は正しいとは限らないし)、とりあえず展示の感想としては以上になります。アレック・ソスは非常に奥が深い作品を作る写真家だと思います。ソスはInstagramやYoutubeなどを積極的に活用する写真家であり、多くのインタビューや自作品の解説等がネット上に転がっています。もちろん、作品の表面から受け取る印象を大事にするのも良いですが、一歩踏み込んでそれらを参照して再度、写真を読み解くのも面白いと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?