【短小説】「裏返し」
「裏返し」
アブラゼミの裏返し~…キモい♪
伊勢エビの裏返し~…キモい♪
シャコの裏返し~…キモい♪
母がよく歌ってくれた子守歌を口ずさんだ
すると背後から男がこう言った
「やれやれ、どうやら本物の味をご存知ないようだ、だから軽はずみにキモいとか言える、明日またここに来い、本物の味を教えてやる」
山岡と名乗った男はそれだけ言って消えた
そして今日ここに来てしまった
あんな男の言うことを信じて…私、バカみたい
ゆっくりとした時間が流れる…
高くどこまでも青い空、険しくも美しい稜線…子供の頃から変わらないこの山の景色が大好きだ
ここは山……伊勢エビは海、シャコも海…アブラゼミは……まさか?
そう思った瞬間、背後から口に何かを入れられた
うぐぐっ!まさか?まさか!?
「大粒のアブラゼミを甘辛く煮た一品だ、これを口にしてまだ気持ち悪いなんて言えるか?言えないだろう?そしてお次はサッと塩を振っただけの臭みが癖になるアブラゼミの…」
あの日から故郷には帰っていない