"反"シグニファイアのデザイン
背景
アフォーダンスは、物理的なモノと人との関係を指しています。モノの属性と、それをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との間の関係のことです[ノーマン2015]。
アフォーダンスはどのような行為が可能かを決定するものですが、例えばデザイナーが自分たちがデザインしようとしていることを伝えようとするとき「ここにアフォーダンスを付けた」と言いたくなります。しかし、そうしたデザインによって何かの行為をどこで行えばよいのかを示すことと、人がどのような行為を行えるかということとは違います。
そこで、ノーマンは、どこでその行為が行われるべきかを伝えるときに「シグニファイア」という用語を導入しました。シグニファイアとは、人々に適切な行動を伝える、マークや音、知覚可能なシグナルのすべてを示すものです。
例:コーヒードリッパー
ところで、私は先日よりガラス製のコーヒーサーバーが付属するコーヒードリッパーを使い始めました。注ぎ口の形とドリッパーの丸い突起部分がちょうど合っていたので、「ああ、コーヒーを注ぐ時に溢れないようにするのだな」と思って、次の写真のように注ぎ口と突起部分を合わせて使い始めました。
でも、しばらく使っていて、違和感をおぼえました。あまりその突起部分の位置どりが安定しないのです。「なぜこんなに不安定な作りにしたのか」とデザインの悪さに憤りを感じていました。
あるとき、クルクルとドリッパーをサーバーの上で回してみていました。
すると、サーバーの取っ手のところが、ちょうど溝・くぼみのようになっており、ドリッパーの突起部分をそこに合わせるとカポッと入り込むことが分かりました。単純に私が使い方を間違っていたのでした。
反シグニファイア?
何かをしないように感じることは「反アフォーダンス」と呼ばれています。が、タイトルにある「反シグニファイア」という用語は今のところ定義されていません。
さきほどのコーヒードリッパー/サーバーの例では、溝があり、突起をそこにはめこむようアフォードしています。そして、確かにちょうどそこに嵌め込むようにデザインされ「シグニファイ」されているといえます。
しかし、私にとっては、サーバーの注ぎ口のかたちと、ドリッパーの突起が「そろえる」「合わせる」ということをアフォードしていたために、はめこむデザインがシグニファイアとして当初は発見可能ではなかったのでした。
このように考えると、ユーザに発見可能なシグニファイアをデザインするにあたっては、もちろんユーザがどこで望みの行為を行なってもらうかのシグニファイアのデザインも必要ですが、そのほかに人が行う行為を抑制するような反アフォーダンス的な性質を持つシグニファイア、つまり「反シグニファイア」を望みの行為を促すように周囲にデザインしていくことも必要なのかもしれません。