エツィオ・マンズィーニ「ここちよい近さがまちを変える」(Livable Proximity)
エツィオ・マンズィーニ「ここちよい近さがまちを変える」(Livable Proximity)を訳者である山崎和彦先生よりご恵贈いただきました。
本書は,街やコミュニティのありようについて「近接」と「ケア」という概念から整理を試みており,デザインの立場からのインプリケーションを与えてくれます。とくに広い意味でのソーシャルイノベーションに関わる人にとっての概念的なフレームワークとして参考になるものと思います。
「近接」とは,システムの中の要素が互いに力が働きあう物理的な近さのことを表しており,それには「機能的近接」と「関係的近接」の2つがあるとしています。機能的近接とは,我々が生きるために必要な特性,関係的近接とは,要素間のネットワーク維持や広がりといった特性といえます。
「ケア」とは,我々が世界においてよりよく生きるための維持・修復の活動のことを表しており,それは,他者に気づく・他者に対して行動を起こす・実際の治療などの行為,といったレベルで整理を試みています。
本書の個人的な整理・理解を記しておくと,物理的な「街」については,いわゆるコンパクトシティのようなものがイメージとして挙げられると思います。機能的近接に配慮し,多様なケアのレベルをその近接性の中に取り込んでいくということになるのでしょう。そして,精神的な「コミュニティ」については,いわゆるソーシャルキャピタルのようなものがイメージとして挙げられると思います。関係的近接に配慮し,コミュニティに関わる要素の間の互恵性を保つことが求められるのでしょう。
こうした物理的近接と関係的近接とが入り組む空間に,さらにネットワークテクノロジーが折り重なり変化をもたらして行く,そんな世界のものの見方を与えてくれる本として位置付けられるかと思います。
マンズィーニの言葉は比較的抽象度の高い表現を取ります。日本語版では,訳者による事例や解説が後半に挙げられており,それらを合わせて読むことで,本書が示す意味合いの解釈が進むものと思われます。
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