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ここから始めるクリープハイプ~こんなところに居たのか やっと見つけたよ~
満を持して、という表現が相応しいアルバムだと思った。クリープハイプの7枚目となるフルアルバム、「こんなところに居たのかやっと見つけたよ」は、彼ら4人の15年間をこれでもかというくらい、丁寧にじっくり育て上げ、磨き抜かれた珠玉の15曲でラインナップされた、まさに"アルバム"だ。
"アルバム"と言うと、何か強いコンセプトがない限りは、アーティストの「今」を反映した一枚になる事がほとんどだというイメージがあるのだが、今回のアルバムは、クリープハイプの「今」と「15年」がバランス良く収められている。ゆえに、長く彼らの音楽を聴き続けているリスナーのみならず、これからクリープハイプを聴いてみようかな、というリスナーにも、ある種の入門編として薦められる一枚でもあると思う。
というわけで、今回は”これからクリープハイプを聴く人に対してこのアルバムを薦めるなら”という視点で、この一枚を紐解いていきたいと思う。
クリープハイプの15年
実際、先日友人にこのアルバムを薦める際に「クリープハイプってちゃんと聞いたことないんだけど、実際どんな感じのバンドなの?」と聞かれ、「このアルバムを聴けば、現体制の初期っぽい曲から最近っぽい曲までバランスよく収録されてるから、彼らがどんな音楽をやってきたかが大体わかるよ」と返答した。
例えばM1「ままごと」なんかは、ちょうど10年前にリリースされた3枚目のアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」に収録の「2LDK」を彷彿とさせるような曲調であり、歌詞のテーマもよく似ている。
M2「青梅」や、M9「dmrks」は、打ち込みの音をふんだんに取り込んでいて、これは前作である6thアルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」の時の音作りが継承されている。そして、今作で最も殺傷力の高いM4.「生レバ」は、クリープハイプの代名詞としても名高い現体制初期の名曲、「HE IS MINE」を思わせるようなバチバチの空気感を纏ったキラーチューンだ。
つまり、このアルバムを一通り聞くだけで、このバンドがこれまでどんな楽曲を演奏してきたか、ということがさくっと網羅できる。
タイプの異なる二人のコンポーザー
いま挙げた4曲をちらっと聴いてもらうだけでも、彼らのかなり音楽性の幅が広い事が伺えると思うが、ここにBa.長谷川カオナシ作詞曲のM8.「星にでも願ってろ」が加わることで、クリープハイプというバンドの奥行きがぐっと増してくる。
各アルバムに必ず一曲設けられる、通称「カオナシ枠」。この一曲があるのとないのとで、クリープハイプというバンドの印象はガラリと変わると思う。
ギターの弾き語りで作曲をし、ギターロックを得意とする尾崎世界観の楽曲たちに対して、長谷川カオナシはピアノの弾き語りで作曲をし、その曲調は時に「もののけっぽい」と評されるほど、ちょっとおどろおどろしさを孕んでいる。
一つのバンドに、タイプの異なるコンポーザーが二人いることで、バンドとしての幅の広がりをこれでもかというほど見せつけてくれる。クリープハイプのリスナーがみんな、毎回のアルバムでカオナシ枠を楽しみにしているのも、そういう点からなのだろう。
尾崎世界観からリスナーに向けて
このアルバムを語るにあたり、どうしても外すことのできない一曲がある。それが、M15.「天の声」である。
あまり詳細に何かを語ってしまうと、ちょっと野暮になるので難しいところなのであまり多くは語らないが、この曲には「尾崎世界観と、クリープハイプと、リスナーのこれまでとこれから」が詰め込まれた、とても愛おしい一曲に仕上がっている。
本当に月並みな言い方で恐縮なのだが、ぜひ、あなたもこの曲を聴いて、尾崎世界観からの愛を受け取ってもらえたらいいなと思う。
Me and CreepHyp
ちょっと自分語りになるのだが、わたしはクリープハイプのことをよく「ツレ」と表現する。
ちょうどいい距離感で常にわたしの人生に寄り添ってくれて、何かあった時は、励ますでもなく慰めるでもないけど、ただじっと話を聞いてくれて、「まあそういうこともあるよな」とちょっとだけ笑ってくれて、話し終わるとちょっと心が軽くなっている、なんかそういう「ツレ」っていう感じ。
クリープハイプはクリープハイプでこの15年間いろんなことがあって、しんどい時期もどうにかこうにか乗り越えてきたし、わたしもわたしでクリープハイプに出会ってからの6年、けっこういろんなことがあって、「もうダメかもな……と思う時期があったけれど、なんとか乗り切ってきた。
あの日、本当にひょんなことから縁が繋がって彼らに出会わなければ、彼らがそっとついていてくれなければ、もしかしたら今こうしてないかもしれないとすら思えるほど、彼らにはいろんなものをもらってしまって、返しても返しても返しきれないほど恩を感じている。
もし、あなたが何かつらいことややりきれない事にぶつかったとき、良ければクリープハイプのことを思い出してみて欲しい。きっと、彼らはあなたのことを見つけて、そおっとそばに寄り添ってくれると思うから。
ご清聴ありがとうございました。