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【つの版】ウマと人類史EX04:荷駄輓馬

 ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。

 引き続き、中世ヨーロッパのウマについて見ていきましょう。乗用馬、軍馬と来ましたから、今回は荷馬と輓馬です。

◆うま◆

◆ゆる◆

荷駄馬類

 荷馬(pack horse/sumpter horse)とは、背中に荷物を背負って運ぶウマのことです。ウマが家畜化されてから今日に至るまで、ウマの主要な役割のひとつです。通常の乗用馬も荷馬に用いることが可能です。

 ウマが荷物を背負うことを漢字で「(古くは太でなく大)」と書きますが、これは漢代以後に登場する文字で、後漢の歴史書『東観漢記』に「驢四百頭負(ロバ四百頭が荷物を背負う)」の用例があります。大・太は「おおきい、たっぷりと」という意味を持ち、担(たん/だん)とも通じることから「ウマが大きな荷物を担って運ぶ」意味としたのでしょう。のち乗用馬や軍馬より劣るウマが駄馬(荷馬)に回されたことから、駄は「劣る、粗悪な」のニュアンスを含むようになり、駄目・駄作などの用法が生じました。ロバや牛、ラクダやゾウなど、ウマ以外が荷物を担う場合は「駄獣(pack animal)」と呼びます。

 荷馬は荷物を背負うための鞍(サドル)を装着させられ、人間に手綱を引かれて(時に人間も同時に載せて)移動しました。積載量は様々ですが、平均的なウマは体重の3割までの荷物を運ぶことができるとされ、体重1000ポンド(450kg)なら300ポンド(140kg)まで運べる計算になります。もちろん疲労を考慮し、山道や遠路を進む時はより少なく(2割程度)積みます。人間なら100kgもの荷物を背負えば動けませんが、ウマなどの家畜は遥かに多くの荷物を運べるため、陸上輸送のために駄馬・駄獣は不可欠でした。

矮種馬類

 比較的小型のウマを、英語でポニー(Pony)と呼びます。これは古フランス語のpoulenet(子馬)に由来し、現代の定義では体高14.2ハンド(58インチ≒147cm)未満のウマを指しますが、古くはウマ自体が現代のものより小柄であったため、多くのウマがポニーに分類されてしまいます。ポニーは小柄ながら頑丈で、乗用馬や荷馬・輓馬などに広く利用されてきました。

 英国およびブリテン諸島には、伝統的には9品種のポニーが存在するとされます。大きくはマウンテン(山の)ポニーとムーアランド(湿地帯の)ポニーにわけられ、ケルト人やノルド人が持ち込んだ小型のウマが定着し、地域によって特色を持つようになったものです。

 スコットランドにはハイランド・ポニーエリスケイ・ポニーシェットランド・ポニーが、ウェールズにはウェルシュ・ポニーとコブ、アイルランド西部にはコマネラ・ポニーが、イングランド北部にはデールズ・ポニー、北西部にはフェル・ポニー、南西部にはエクスムーア・ポニーとダートムーア・ポニー、南部にはニューフォレスト・ポニーがいます。スコットランドとイングランドの境のギャロウェイ州にはギャロウェイ・ポニーがいましたが、今日では絶滅しています。産業革命期、ポニーたちは小柄な体を買われて炭鉱などで重労働に従事し、ピット・ポニーと呼ばれました。

 北欧のノルウェーには「フィヨルド馬」と呼ばれる独特の小柄なウマがいます。サイズはポニーとウマの間ほどで、頑丈なため様々な用途に用いることができます。ヴァイキングはこのウマを船で各地へ運び、移動や戦闘に用いました。フェロー諸島やアイスランドにもウマが持ち込まれています。

輓車馬類

 牽引や農作業などを行う大型のウマを輓馬(ばんば/draft horse)と呼びます。ドラフト(draft)は「引く、運ぶ」を意味する語です。輓馬は乗用馬や通常の荷馬より体格が大きく、重く、強い忍耐力と従順な気質を持ちます。農地の開墾、材木の運搬など、大型のウマは様々な力仕事に不可欠でした。

 こうした大型のウマは、現代では「重種」と呼ばれ、アラブ種などの軽種や中間種と区別されます。運動性能や生産地にもとづいて、北方系の重種を冷血種、南方系の軽種を温血種と分類することもありました。ただ輓馬でも比較的小柄なウマもおり、乗用馬や荷馬とされたり、軽種や中間種のウマと交配されて子孫にその特性を受け継がせたりしています。

 ただし中世の輓馬は、現代よりは小柄でした。絵画や考古学的証拠によれば、それらはがっしりしているものの体高13-14ハンド(52-56インチ≒132-142cm)ほどしかなく、現代の基準からすればポニーのたぐいとなります。様々なウマをかけ合わせて作られた巨大輓馬ペルシュロン種でさえ、17世紀の時点で15-16ハンドでしかありません(現代では16-18ハンドほど)。

 しかし車両を用いれば牽引可能な荷物は背負う場合より多く、1頭あたりで500-600ポンド(230-270kg)、体重の半分もの荷物を運べました。とはいえ車両を牽引するには道路が整備されているか、地面が比較的平坦である必要があるため、山岳地帯などでは荷馬に頼らざるを得ません。

 荷車には、大きく分けて二輪の「カート(cart)」と四輪の「ワゴン(wagon)」があります。語源は印欧祖語gret-(編みかご)とwegh-(運ぶ)にまで遡り、印欧祖語話者がすでにそうしたものを用いていたことを示します。前者は人間でも運べますが、後者は家畜が牽引しなければ動きません。古くは牛やロバが引いていましたが、ウマが引くようになると速度も速まり、カートはチャリオット(chariot/二輪戦車)に発展しています。ワゴンはそれほど速度は出ませんが、より多くのものを運ぶことが可能です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Medieval_horse_team.jpg

 牽引のための馬具が胸当て式ハーネス(胸懸)からホースカラー(頸輪)に代わったことで、ウマ1頭の時間当たりの作業量は牛1頭の1.5倍にも伸び、1頭あたり1500ポンド(680kg)もの荷物を牽引することも可能になりました。またウマ1頭では限界があるため、2頭、3頭、4頭と数が増やされ、繋ぎ方も横並びではなく縦並び(タンデム)に変わり、重量が均一に分散されます。4頭立てのタンデム車両は、5500ポンド(2.5トン)の車両に同じ重さの石材を積み込み、50マイル(80km)もの距離を運ぶことが可能です。合計5トンを4頭で割れば1.25トンです。これだけの「馬力」は、古代ローマ時代にさえ存在しませんでした。

◆うま◆

◆よん◆

【続く】

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