思わぬ休日 #同じテーマで小説を書こう

ふと目を覚ますと、おれは眩しい青空を見上げて、仰向けに寝転んでいた。背には地面の感覚。吹き渡る爽やかな風。青草と干し草と、家畜のにおい。そして。

「よかった、気がついたのね。怪我はない?」

おれの顔を覗き込んでそう言ったのは、外人の美女だ。パッチリとした目、大きな碧い瞳、サラサラの金髪。背が高く、筋骨たくましく、簡素な民族衣装を押し上げる胸は豊か。手には先の曲がった杖を持っている。

「あ……ど、どうも。大丈夫そう、です」

おれは曖昧に返事すると、ゆっくりと上半身を起こし、頭を撫でながら呆然とあたりを見回す。どこかの牧場らしい。視界にはなだらかな丘陵地が広がり、ヤギや羊や牛がそこかしこで、のどかに草を食んでいる。

で、ここはどこだ。

彼女は見るからに外人だが、普通に日本語で話した。じゃあ、たぶん日本だ。外国人実習生か、酪農家に嫁いできたか。あの服装は観光用のコスプレといったところか。北欧、中欧、あるいは東欧……おれにはヨーロッパの民族衣装を見分けるような知識はないが。

しかし……おれは町田の安アパートでくたびれ果てて寝ていたはずだ。いつの間にこんな場所へ? 全く身に覚えがない。じゃあ、夢か? いや、目覚めている感覚はある。じゃあ、夢遊病になって田舎行きの列車に飛び乗ったのか? 会社、連絡、スマホ。……ない。身につけているのは寝ている時のまま、タンクトップとトランクスだけだ。なんてこった。

しばらくジタバタしたのち、おれは改めて金髪美女と対面する。なぜか相手が恥ずかしがっている様子はないし、もうこのまま押し通すしかない。

「……ええと、どうも。ここはどこです?」

ヨーグルトエルフの里よ」

少し、おれの思考が停止した。そういう名前の観光牧場か? いや、彼女をよく見れば、耳の先が尖っている。なるほど、エルフだ。ならばおれはあのまま過労死して、異世界とやらへ来たということか? 状況に脳みそがついていけなくなり、頭が痛む。視界がゆがむ。

「あの……すみませんが、その、ヨーグルト、エルフ? って?」

どうにか絞り出した言葉に、彼女は微笑みながら答えを返した。

「牧畜を行い、ヨーグルトを主食とするエルフの氏族よ。あなたはヒューマン(人間)ね。さっきあなたが倒れていたのを見つけて、どうしようと思って。外傷もないようだし、近隣のヒューマンの村まで送りましょうか?」

……どうする。おれは深呼吸し、足りない脳みそを振り絞る。一応日本へ帰りたくはあるが、せっかく親切な美女と知り合いになったからには、もっとお近づきになりたいのが人情というものだ。この世界を知るためにも。

「ええと……その、おれ、記憶が混乱していて。頭を打ったかも。こんな服装だし……よろしければ、あなたの家に行ってみたいのですが……」

しどろもどろに話しかけると、彼女は笑って頷いた。

「いいわよ。わたしは、シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムサラでいいわ。あなたの名は?」

【終わり/1216文字】

下記の企画に参加させて頂きました。

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最近は胡乱エルフが増えすぎており、ことあるごとにエルフがPOPします。ヨーグルトエルフは比較的胡乱ではなく、実際いそうなエルフです。しかし酪農は細腕ではつとまらず、その肉体はかなり鍛え上げられています。ヨーグルトの起源が中央ユーラシアの牧畜民であることを思えば、彼らが馬に乗り弓を操るのも自然です。またヨーグルトは健康によい良質なタンパク源であるため、エルフが不老長寿であることの科学的な説明にもなるでしょう。

◆胡◆

◆乱◆

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